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永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―


永遠神剣になっちゃった



Chapter 4  始まりの戦

第5節 『一つになる心』



 






 ラセリオの町が見えた途端……爆音が響いた――

「はぁ、はぁ、はぁ……」

『――アオ、急げ!!』



アウルは、ラキオスの防衛スピリットは碌な訓練も受けていないと言っていた。



感じている数は10……最悪、その内8が敵だとすると、持つはずが無い。







絶望的、もしかしたら……セリアの姉ちゃんやナナルゥの姉ちゃんは、もう――







『……もう街まで入られてるっぽいな』

近づくごとに状況を詳しく把握する。



セリアの姉ちゃんとナナルゥの姉ちゃんのマナが感じる。



でも、他の反応は全て暗いマナに彩られている。







即ち、他のスピリットは皆……霧に還ったという事だ――







アオが加わったとして、こちらが3、向うは8……しかもマナの量から察するに全員がベテランだ。



塔の支援があるといっても、覆るはずが無い――









 アオが目視できる位置までに達した時……ボロボロで、血で染まった服をを着た彼女たちが居た。



セリアの姉ちゃんとナナルゥの姉ちゃんは満身創痍、すでに瀕死に近い状態だ。







「セリアお姉ちゃん!! ナナルゥお姉ちゃん!!」

アオの声が聞こえた二人は、信じられないモノを見た表情に染まる。



「アオ!? 何でこんなところに――って、後ろ!!」
「――ぇ?」

黒スピリットの一撃が背面から迫る――







『――っ!?』



時間が止まる――



「せやぁ!!」

身体を捻りながら回転し、剣を弾いて上段から振り下ろす。

脳天を割ったところで時間が戻り、マナの霧へと消える――







『ぐ、ぁ……?』

ズキズキと、頭痛に似た痛みが全身を襲っている――



大気のマナが濃い……

マナに還ったスピリットが多かったのだろうか、異常なほどにマナが濃い。



「ふぅ、ふぅ……はぁ――」

アオは直に呼吸を整えた。

其の表情には、すこし余裕が見られる。



アオの保有マナ量は、日が経つごとに増えている。

時神の力……その力を引き出しても、疲労困憊にならないぐらいには成長しているみたいだ。







「アオ、どうしてここにいるんです?」

「えっと、アウル様が……ラセリオを捨てて輸送している人達を護衛しろって、伝えてくれって言ってたから」

「そう、解ったわ……でも――」

俺たちを逃がすまいと、バーンライトのスピリット達は円陣を組み……俺達を取り囲んだ。



「――簡単に、逃がしてくれそうに無いわね」

「セリア、私が道を開きます……その隙にアオをつれて空から脱出してください」

「馬鹿、そんなこと出来る筈が無いでしょう……それだったら私が道を切り開く、貴方こそアオを――」



敵に囲まれているというのに、二人は口論を始める。



『おい、ケンカしている場合じゃ――』

無い、っと言おうとした時――







「――ふざけないで!」







アオの叫びが町に木霊した。







「なんで……なんで皆……そんな死にそうな身体で無茶ばっかりするの!!」

――アオの感情が爆発した。



「私、足手まといじゃない! 私だって……私だって戦える!!」

アオが俺を強く握り締める……

『アオ?』



「もう誰も死なせない! だから、だから――!!」



アオの想いが俺の中に流れ込む――







『ひ……ぎぃっ…………』



――流れ込んだアオの怒りの波動と共に、俺の中の何かが鼓動した。







『が……ぁ……あぁ……』







世界が……白く……なる……



寒い……凍えるほどに寒い――



まるで、吹雪の中で遭難したように白くなる――――







「雫!? どうし――っ!?」

「っち、ナナルゥ! とにかく突破するわよ!!」

「――了解しました」



遠くで、金属が響く音がした――



「っ、邪魔……しないで!!」



アオの声と金属が弾きあう音を聞きながら、睡魔に似た感覚に身を委ねる



槌で頭を叩かれたような、洒落にならない痛みが全身に浸透する。



その状態でワケノワカラナイ知識が流れてくる――







――マナを他物質に変換する方法――



――契約者の身体能力を強化する方法――







『ってぇ……痛たい……』



泣きたくなる――



人間じゃなくなっていくのが解る――



何かが俺の中で暴れている――







――契約者のマナを吸収する方法――



――契約者の身体を操る方法――



――契約者の意識を封じる方法――







頭が破裂しそうな痛みの所為で泣きたくなる。



理解できない知識がどんどん頭に詰められる。















だめだ……







このままじゃ……







一つになってしまう……













『ぁっ、う゛……』



身体さえ、身体さえあれば……自分を傷つけて自分を保てるのに――



でも今は、何も無いから……自分を傷つけることが出来ないから……抗う事もできない――







『……あ…………』



世界が蒼で埋め尽くされる――



まるで氷の中に居るようだ――



意識は凍結していき、もう何も感じ取れなくなる――











何も、聞こえ――















「雫……ねえ、返事してよ――お願い、力を貸してよ!!」

















――その言葉で、何かが終わった――











――世界は瞬く間に元の色に戻り、意識も嘘みたいに冴えている。



――冴えまくっている思考のお陰で、状況は一瞬で把握できた。



いつの間にかボロボロになっているアオに、炎の塊が回避不能の位置まで接近している。







――同時に、脳裏にイメージが浮かんだ。







――型無き刃・マナ凝縮効果・願望――







バラバラのピースが頭の中で一つの形となる――



――それが何であるか解らない……しかし、確信に近い何かを感じた――







『――アオ!! 俺を、思いっきり振りぬけ!!』

アオは、俺の指示を疑問に思わず横一文字に振る――











――だが、タイミングが速すぎる。



空振り……滑稽とも思える空振りだ――















だが――――



















斬撃に連動するかのように、俺から放たれたマナは真空の刃となって、巨大な炎の塊を切り裂き相殺した。



真空の刃の勢いは止まらず、詠唱したと思われる赤スピリットの首を跳ね飛ばした。







それは、まさに裂空の如く――







「……今、のは?」

セリアの姉ちゃんやナナルゥの姉ちゃんが今の現象を呆然と見ている――



『空を裂く……って事から、裂空斬――又は、裂空の太刀か?』

「裂空の……太刀……」

『オマエが力を求めた結果だ……これで敵をなぎ倒せ!』

「……雫……ありがとう……」

『ああ、それより敵を叩くぞ!!』

「うん!!」



戦力の差はまだまだ相手のほうが圧倒的……

アオも疲労の色が濃く、セリアやナナルゥの姉ちゃんも傷だらけ――



――だが、不思議と負ける気がしない――







塔の支援なのか、ここのマナが濃いのか……



どちらでもいい、早く奴等をマナの霧に変えて……



――喰らい尽くしてやる――







そう思うだけで、力が湧きあがる――







高揚、緊張、恐怖――



その作用が巧みに混ざり合い、気分をハイにさせる……







マナを寄越せとコイツは言う……



マナを食わせたら、俺に干渉はしない……



――ソレを、無意識のうちに理解できた――







「雫、あの技……どうすれば出せる?」

『お前はただ獲物に向って剣を振るえばいい、タイミングは任せる!』

「――解った、いくよ!!」

アオが放つ裂空は、敵の足を止め――



「続いて行きます!」

ナナルゥの姉ちゃんが神剣魔法で敵の陣形を崩していく――



「いぃっ、やああぁぁ!!」

そしてセリアの姉ちゃんが突貫し、道を開く――







その繰り返し……



漂うマナの霧が、他の神剣に吸収される前に吸収する――







心が満たされる――



心が癒される――



コイツの干渉が無くなる――







そのお蔭で、落ち着いた……

そして、自己嫌悪に陥りたくなる――



既にスピリットを……いや、マナで構成された存在全てを食料と思っている自分が居る事に――

頭では解っているんだ……そんな風に思うのはイケナイ事だって――



でも……心の底では、もう……引き返せない所まで来ている……



コレは絶対だ――







――でも、泣き言は言っていられない……

もう変えられない事実だ、スピリットを食料として見いるようになった……それだけだ――



そう、それだけなんだ……



元々スピリットを食べないと生きていけない身体になったっていう事は既に知ってる。

俺だって死にたくない……生きる権利があるんだ――

食糧と見て何が悪い?

俺にとって、アイツ等は食糧なんだ――



これは生きるために必要な行為だ。



だから仕方が無いんだ――







仕方が無い……って、思わないと――











そう、思わないと……本当に、本当にやっていけない……















――鬱だ……本当に鬱になる――







『よし、充電完了♪』

空元気でもいいから、とりあえず明るくならなければ――



じゃないと……アオの脚を引っ張る事になる――







スピリットを食べてると自覚した……あの日みたいに――







『こっちはいつでも行ける……』

「う、うん……ふぅ…………はあぁ!!」







再び、俺を振り上げる――



――瞬間、グラリとアオがバランスを崩し地面に倒れた。







『「「アオ!?」」』

「……あ、れ?」



迂闊だった……





……確かにアオのマナ量は上がっている。



でも、それでも……時を止める能力は、アオのマナを半分以上消費させる。





……つまり、もう限界なのだ――







『……ヤバイ!!』

全員がアオに注目した隙を狙ったのか、赤の魔方陣が前方に展開され……魔方陣に描かれた方程式が発動する――



「「――っ!!」」



絶望的な後手――



今からバニッシュ魔法を唱えたところで――



空から降ってくる業火にも似た炎を消せるはずが無い――







地面に着弾する前に、ナナルゥの姉ちゃんとセリアの姉ちゃんがアオの盾になるように前に出た――















炎の雨は、セリアの姉ちゃんとナナルゥの姉ちゃんに直撃する――



その雨の中で、もう一人のスピリットが赤の魔方陣を展開させる姿をみた――



『や、やめ――』
「終わりだ、跡形も無く吹き飛べ……インフェルノ!!」



赤の魔方陣が展開された瞬間――



地面が爆発した――



















皆はボロ雑巾のように受身も取れずに地面を滑る――



「……………………」

頭を地面に強打したのか、アオの頭から血が大量に出ていた――







『あ……あ゛――』







ナナルゥの姉ちゃんやセリアの姉ちゃんの服や肌が焦げ、到る所が炭化している――

「ぁ…………ぉ……」



まだ息がある……でも、それだけだ――



「…………」



……セリアとナナルゥの周りから霧が見え始め、体が透けていく。



















もう……終わりだ――



――うるさい……







結局……何も出来やしない――



――黙れ!!















――大丈夫……誰も死なせないから……誰も……――











――私は……生きて帰りたいです――















そんな言葉が脳裏を抉る――







『あ……あ゛あ゛あああああああ!!』



どうでもいい――



――だから、マナを……







もう、どうなってもいい――



――だから、もっとマナを……







今まで吸収した……俺の中に蓄えてあるマナを開放する――



この辺のマナは既に濃い……この辺のマナを限界以上に濃くすれば……小さなマナ溜まりが出来るはず――



――でも……それは……







『が……あ゛あ……がは…………』



力が抜けると共に、頭痛が酷くなる――







――止めろ! せっかく蓄えたマナを他人に分けるな!!



そう言わんばかりに、頭痛を連想させる痛みが俺の体を蝕む。







――でも止めない!!



此処で止めたら……本当に俺が俺で無くなるから――



自分を誇れなくなるから――



自分を罵るようになるから――



――だから……止めない!!







――放出したマナを固定しろ!















……けど無理だ、そんな操作は知らない――



















じゃあどうするか? 決まってる――















―― 一つになる……コイツと深く繋がれば……きっと出来る!















世界が蒼に染まる――



凍えるように冷たい色に犯される――



頭痛が激しさを増す――



意識が朦朧とする――







――でも、意識を気合で留める。







思考が正常じゃない――



ワケノワカラナイ方程式を独自に組み立てている自分が居る――



メチャクチャな方程式……どんな効果が出るのかは解らない――







――その間にも、アイツ等の体が薄くなっている







不出来で、不確かで……合っているのか合っていないのか解らない方程式――



――でも、手遅れになる前にやるしかない!







――絶対後悔する……だから止めろ……



「うるさい……そんな事知らない、俺は……俺は――」

力の入らない身体に鞭を入れ、立ち上がり……掌を空へ向ける――

空は雲一つ無い晴天の空――



「――自分の『願い』に忠実なだけだ!!」

掌から、小さな蒼の魔方陣が展開され、空に昇るほど巨大化していく――

ここら一体を包むほど大きくなった魔方陣は、刻まれている方程式を一つ一つ解きながら発動していく――





「はぁ……はぁ……」

この地域周辺のマナは、更に濃度を増し……飽和状態にまで達する。

ナナルゥの姉ちゃんもセリアの姉ちゃんも……なんとか無事だ。

傷が塞がっているし……薄くなった肉体も、はっきりと見えるようになった。



「ぅえ……げほっ!」

――でも、吐き気が止まらない。

腹が減った……

頭が痛い……

気持ち悪い……

脳に酸素が到達していない……

猛烈に眠い……



つーか……ぶっちゃけた話、マナが足りない……







――それに、助かったとは言えない。



敵を滅ぼさないと、どちらにしろ殺される――









――だから……早く……敵ヲ消滅させないと――







言う事を聞かない身体に鞭を入れ、持っている神剣を掲げる――



赤黒く……闇に似た光を放っている西洋剣型の神剣を振り上げる。



「が……あ゛あ……」



――意識が……保たない――



















もう……ダメなのか……



















身体から完全に力が抜ける――























「――アオ!!」























此処に居るはずも無いメイドの姉ちゃんの声が聞こえた……







その声のお蔭で、何とか意識を一瞬だけでも引き止め――



















「――てめえら全員、消滅しやがれええぇぇ!!」



神剣を、渾身の力で横一文字に薙ぎ払った――











刃から放たれる極光の闇は波紋が広がるように敵と建築物を包み――











爆発のような轟音と共に意識が反転した…………







あとがき



 アオが新たなスキルを習得しました♪(エスペリア風)
極夜さんから頂いた『裂空の太刀』と神無月さんの『デザイア』を自分なりにアレンジして書いてみました。




NEW
ATTACK SKILL
技名:裂空の太刀T
ターゲット:全体【敵】 属性:青
対HP効果:300 最大回数:3 行動回数:1
マインドバランス:0〜100 マインド変動:-2 効果:行動-1・抵抗-20
雫が神剣の知識を深く理解したことにより、編み出した技・その1
大気のマナを刀身に乗せて、真空波を放つ技である。

対HP効果も高く、ATTACK SKILLの全体攻撃……行数や抵抗力を下げる効果を持つ。

つまり、アタックスキル・タイミングでバニッシュ系のスピリットを沈黙させる他、全体の抵抗力を下げる効果を持つため
サポーターとの組み合わせにより、圧倒的有利に戦闘を進めることができる。

レベルが上がるごとに、対HP効果や最大回数、抵抗力の減りが上昇する。


NEW
SAPPORT SKILL
技名:デザイア
ターゲット:全体【敵・味方】 属性:青
対HP効果:1% 最大回数:1 行動回数:1 発動:エンドサポートタイミング
マインドバランス:50〜100 マインド変動:-30 効果:死亡者回復・全スキルを全回復
   全属性+50
雫が神剣の知識を深く理解したことにより、編み出した技・その2
己を構成するマナを大気中にばら撒いて、そのマナを固定して小さなマナ溜まりを作る。

このスキルは、『リヴァイブ』と似ているが、運用目的が根本的に違う。

『リヴァイブ』は、マナの霧を再構成して復活させるスキルだが、
『デザイア』は、瀕死者に対しての応急処置であり、マナの霧になるのを防ぐためスキルである。

 また、使用してから5ターンの間……その場所の全属性を50%上昇させる効果をもつ。(重ね掛け可)
それらの効果は敵味方に作用するため使い所が難しい。


最後に放った裂空の太刀の威力がデカイ事については、
デザイアにより飽和状態となった大気のマナを刀身に集め更に自分のマナをも乗せたからです。

薄々感じている方も居るでしょうが……技表に載せてあるマインド変動率は、アオではなく雫のマインドです。


次回は神剣の正体が明らかに!

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