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永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―


永遠神剣になっちゃった



Chapter 4  始まりの戦

第3節 『常識の本質』



 






 皆が居ない二日目の朝が来た。



誰も居ない、静すぎる朝……



大きすぎる食卓で一人……アオはパンを食べてる。







『結構、広かったんだな……この館……』

「うん……」



『……大丈夫か?』

「うん……」



『……ダメか?』

「…………」

否定してくれ……



「皆……怪我とかしてないかな?」

『怪我しても、ハリオンの姉ちゃんやメイドの姉ちゃんが癒してくれるから大丈夫だろ』

「……そう、だけどさ……」

『そんなに心配だったら、早く終わらせないとな』

「――うん」











会話が弾まないまま朝食を食べ終わり、いつもの様に訓練所に向う。

何時もなら、オルファのガキやネリシア姉妹と一緒に向かう道が……とても長く感じられる。



『……長いな』

「……うん」



本当に静かだ……



まるで、誰一人存在しない世界で孤立したような……そんな感じ……









訓練所に着いても、静けさは離れてくれない。

そんな静けさの中……アウルは一人で待っていた。



「……早かったな」

「えっと、そうですか?」

「毎日がこうだと良いんだが……それより朗報だ、バーンライト制圧隊はリーザリオを占領しリモドアを制圧するために進軍したらしい」

「死者数は0だそうだ」

「――本当ですか!?」

アオの顔に今日初めての嬉しそうな表情が現れた。



「バーンライト王国は、全スピリットをリモドアとリーザリオを結ぶ道に展開したそうだ」

「つまり、そこを攻略すれば……戦争は終結する」

「セリア・ブルースピリットとナナルゥ・レッドスピリットも明後日にはラキオスに帰還する予定だ」

「明後日かぁ……」

「まさか、こんなに早く戦争終結の目処が付くとは……さすがエトランジェの力といった所か」



「それで、今後の訓練内容なのだが……」

「……正直な話、お手上げだ」

「基本教習過程を教えようにも、お前達は契約すらしていないから……無駄に終わるのは確実だろうな」

「だから、課題を設ける……」

「障壁を展開できること……これが出来なければ戦場に出す事は出来ない――」


「障壁を張れれば良いんですか?」

「簡単に言ってくれるな……」

「――いいか、障壁も神剣魔法の一種だ……1回障壁を展開しただけではダメだ」

「何度も展開できて、初めて使えるというんだ」







「――それが出来なければ……お前は処刑されるだろうな」







『「……え?」』

「戦えないスピリットは只のゴミだ、近いうちに覚えなければ間違い無く処刑されるだろう」



――なんだよ、ソレ……



「処刑……されちゃうんですか? 私が??」

「そうだ……覚えておけ、使えないスピリットは処刑されるという事を……」



「それが、この世界の常識だ」







国のために戦ってる者を殺すのが常識……

それが、当たり前のように……過去から現在まで行われてきたというのか?







「だから、一刻も早く障壁の展開法を覚える事だ……幸い、多少のエーテルの使用許可も出た」







腹が立つ……誰も、その事実に異論を出さない事が……

この世界の住人全ての神経に……本当に腹が立つ――







「……大丈夫、お前なら出来るさ」

「――それで、何をすればいいんですか?」

「そうだな……神剣『雫』との同調率を高める事だ」

「アオ・ブルースピリット……お前が危機的状況になったときの状態を思い出し、神剣『雫』に深く潜り込んでみろ」

「神剣『雫』と深く……心さえ一体化する気持ちで神剣『雫』を感じろ」

「だが、絶対に呑み込まれるな……己の精神を常に把握しながら潜れ――」



「…………はいっ」

『………………………………』







俺……バカだ、最低だ――

アオが処刑されそうだっていうのに……自分の下らないプライドで、アオに嫉妬して……

気功術をあやふやに教え込もうと考えてた。



差別されて、道具のように扱われて、使えなければ処刑される存在の何処が羨ましいんだ?

羨ましい筈が無い……むしろ哀れすぎて泣きたくなる……



アオは、もっと……もっともっと過酷な現実に直面するだろう……



だから、俺が支えないと……いけないのに……







―― そっか ――

『――誰だ!?』

―― 聞こえたよ……雫の声 ――

『……あ、アオ?? 聞こえったって……何が?』

―― 雫の思っている事が聞こえたよ ――



……ま、まさか!?



―― 雫……私のこと、そう思ってたんだ…… ――

『ちょ、ちょっと待て!! つーか、何時から!?』

―― えへへ、ヒ・ミ・ツ♪ ――

『ふざけんな馬鹿! プライバシーの侵害!! 人の心を勝手に読むなっつーに!』







「だって、聞こえたんだもん……」

「――? どうした、アオ・ブルースピリット?」

「雫が心を読むなって、怒ってます」

「心を……読む?」

「アウル様の言うとおりに集中したら、雫の心の声が聞こえたんです」

アウル野郎、なんつー迷惑なスキルを伝授しやがったんだ……



「……お前等……本当に契約してないのか?」

「――え?」

「契約していない奴がそんな事出来る筈がないだろう――いや、それ以前に神剣の心を読むなんて聞いた事がない」

「そうなんですか?」

「ああ……」

アウルは納得したような顔でアオを見つめて――



「……お前を普通のスピリットと同じように考えたのが、そもそも間違いだったのかもな」



そんな事を呟いた……







「――え?」

「お前は異端だってことさ」

「訓練しようにも出鼻から何度も挫かれるなんて、やってくれる」

「えっと、ごめんなさい……」

「謝るな……実際、楽しくて仕方がないんだ」

「――へ?」

「どう訓練すれば、お前は成長してくれるのか……考えるのが楽しい」

「わたし、成長してないんですか?」

「ああ、まだまだ未熟だ……」

「ぅ……」

「しかし……才能は有るだろうな、それは保障してやるが――」

「――それにしても、本当にどうするか……」



アウルは、本当に困った顔をして、天井を見上げる。



「神剣との同調率はかなり深く、それでいて障壁さえも展開できない……」

「……また、自主訓練ですか?」

「それは流石にな……だが、本当に打つ手なしだ」

 本当にどうするかと悩んでいたアウルは、思い出したように言葉を紡ぐ。



「アオ・ブルースピリット、神剣『雫』と進展はあったか?」

「えっとですね、キコウジュツっていうのを教えてもらっています♪」

「……キコウジュツ?? なんだソレは?」

「えっと、自分を守る技って言ってました」

「障壁みたいなモノなのか?」

「『障壁とは違うけど、似た様なものかと……』――って、言ってます」

「ふむ……なら、午前は俺と訓練、午後は神剣『雫』と共にその技の習得のために時間を割くか?」

「いいんですか?」

「ああ……障壁の張り方が不明な以上、神剣『雫』に期待するしかあるまい」

「『期待されても困るんですけど……』――って、言ってます」

「そうか、期待しないで待つとしよう」

それもそれでなんかムカツク……



「じゃあ、午前は何をするんですか?」

「そうだな、神剣魔法は神剣『雫』に任せるとして――」











「――模擬戦でもするか」















 アウルは、壁に掛けてある模擬刀をアオに投げ渡す。

「あの、大丈夫なんですか?」

「……神剣を持たない状態のお前達と互角に戦えなければ、衛兵隊の長は勤まらんさ」

そう言いながら、模擬刀の一本を腰に挿し……もう一本を片手に持った。

『二刀流?』



「さて、お前との試合は初めてだな……」

そう言って、片手で持った模擬刀を正眼に構えるアウル――

「まずは小手調べだ、思いっきり打ち込んで来い!!」

「――はい!」

カン!! っと、木がぶつかる音が室内に響いた――







幾多にも及ぶ太刀を放つアオ






アオは間違い無く成長している。



初めて、対人と稽古した時とは比べものにならない程……速く、強く、的確に相手の急所を捉えて太刀を繰り出している。







対するアウルは反撃をせず、ただ払い、流し、時には回避してアオの攻撃を捌いている。



反撃できる余裕が無いのか……それとも、気を窺っているのか……



アウルの表情から察するに、前者の確立は極めて低いだろう――







「――なる、ほどな!!」

アウルは地面を思いっきり蹴り、間合いを離す。



「なかなかに筋がいい……だが、剣に頼りすぎだ」

アウルが腰に挿していた一本の模擬刀を取り出す。











――瞬間、空気が変わった……











「いいか、アオ・ブルースピリット……戦闘のルールは一つしかない」

「どんなに卑怯な手を使っても、最後に生き残れたものが勝つ……それがルールだ」

「俺の攻撃を基に、お前の攻撃のパターンを増やしてみろ――」

そう言って、アウルは模擬刀の一本を――















思いっきり投げつけやがった……







「――え!?」

アオは虚を突かれ反応が遅れたが、胴体に飛来した模擬刀をなんとか弾いた。

そして、再び視線を戻すが……その場にアウルは居ない。

「――あれ?」
『馬鹿、右だ!!』

アオが右を向くと、アウルは距離5足という間合いで――















――もう一本の模擬刀を投げつけた。







その模擬刀は、アオの足元に飛来する――



「ふっ……」

今度は冷静に反応でき、バックステップでその模擬刀を避けた。

『――! って、前!!』
「――ぶ!?」

模擬刀が地面に接触した瞬間……ガンっと、アオの顔面に何かがぶつかった。



「隙だらけだな――」

アオが仰け反っている瞬間を狙って、強烈な足払いが入る。

「いぎゃ!?」

受身も取れないまま地面に倒れるアオに、アウルは弾き落とされた一本の模擬刀を拾いアオの喉に乗せる――

――と同時に、ガシャンっと……何かが落ちる音がした。







『……兜?』

音のした方角には兜が転がっていた――

――つまり、アオの足元付近に投げた木刀はフェイク……その後の兜が本命という事か?



「……剣だけではなく、使える物を使え……そうすれば、相手の虚を突き、戦闘を有利に進める事が出来る」

確かに、いきなり兜が飛んで来れば……嫌でも虚を突けると思う。



「………………」

『…………って、アオ?』

アオは倒れたままピクリとも動かない……



「――? おい、アオ・ブルースピリット?」

「……………………」

よく見ると、アオは目を回しながら気を失っていた。

『そういえば……足払いされた時、おもいっきり頭から落ちたよな?』

下はコンクリ……よく死ななかったな――



「……おい、起きろ」

「………………」

――しかし、起きる気配は無い



「……ふむ」

アウルは立ち上がり、アオの持ってきた水筒を開き――



――中の水をアオの顔面にぶっかけた。



「……ぶふゅ!?」
『あ、起きた――』

そりゃ起きるか……しかし、なんてワイルドな起こし方だ……



「げほっ、けほっ……」

「――起きたか?」

「へ? え??」

「時間が惜しい、さっさと模擬刀を拾え……第二戦を始めるぞ」

「……は??」

「3……2……」

「あ、え? ええ!?」

「……1……せぁ!」

アウルは水筒を片手に、模擬刀を振り下ろした――

















それから、数時間という時が流れただろうか?







アウルは脈絡も無い攻撃とか、相手の虚を突くことには凄く慣れていて――



アオは、そんなアウルの攻撃に翻弄されっぱなしで――



――午前の訓練が終わる頃には……ボロボロだった。













「今日の訓練は此処までにしておくか?」

「……はぃ……」

……アオは精魂使い果たしたように地面に沈んでいる。

「……今後も同じような訓練だ、その調子だと身が持たんぞ」

そう言って、アウルは訓練所を後にした。



「ぅぅ……」

『――大丈夫か?』

「……私、死んでる?」

『ああ、見事に死んでる』

「……えぅ」

『つーか、寝るなら戻れよ……』

「うん……」

アオはしばらく身体を休めて……数十分後に第2詰め所に帰還した。















そして、昼飯を食べて少し休憩した現在……俺達は第2詰め所の庭に居る。



「あのさ……訓練所に行かないの?」

『別に何処でも出来るから良いんだよ』



俺は地面に突き立てられ、アオは正座をしながら俺を見つめている。



『昨日の運動で、身体に流れるナニカを感じ取れると言ったよな?』

「うん」

『流れが外に漏れてる部分は解るか?』

「うん、解るよ……たくさん、たくさん漏れてる……」

『それを、漏れないように流れを変えてやれ』

「どうやって?」

『外に出る道に通じる流れを全て変えるんだ』

「……あの、さ……沢山あるんだけど……」

『全部!!』

「うん……やってみる……」



漏れは徐々に少なくなっている。









数時間後……漏れ出ている量は前と比べて半分ぐらいに減ったが、それで限界のようだ。



「雫、これ以上無理……」

『いや、上出来だ……その状態を『錬気』という』

「でも、全部って……」

『理想は全部だ』



体内から生み出される『氣』が5としよう。

通常の場合、5が漏れているとすると±0だ。

しかし、錬気を行う事により漏れ出る『氣』が3・2・1……と少なくなったら?



『氣』は体内に溜まり、体内は活力で満たされる。

気功術を扱う人間の殆どが健康体である理由は此処にあるのだ。



『……錬気の状態をずっと維持できるようにしろ……目標は、一日中維持できるようにする事だ』

「――それ、無理……っ!?」

ドバっと……漏れが激しくなる。



『集中力が足らん』

「……だって、疲れたんだもん」

『とにかく、目標は何やっても錬気を維持できるようにする事……』

「……はぁい……」

『ともあれ、本当に凄いな……お前……』

「そうなの?」

『ああ、天才もビックリだ……』

「えへへ♪」







たった二日で錬気まで持っていくなんて――



――正直凹む、かなり良い感じで凹む……



もしかしたら……一ヶ月どころか、一週間そこらで俺の覚えてる技マスターしそうな予感がする――







『弟子は師に勝てない』という言葉があるが……



あんなの嘘っぱちの出鱈目だ、コンチキショウ!!







「そういえばさ――」

『――あんだよ!?』

「ぇぅ……」

アオが泣きそうな顔で怯んでいる――



『ごめん、ちょっとイラついてた……んで、なんでしょう?』

「あ、あのさ……雫は何でキコウジュツを覚えたの?」

なんでって……


『……そりゃお前、俺は退魔師だからな』

「あのさ……言いにくいんだけどさ――」







「――タイマシって、なに?」







『あれ、話してなかったか?』

「名前だけしか聞いてない……」

『……そうだったか?』

そういえば、話して無いような気も……しなくも無い。



『長い話になるかもしれないぞ?』

「……ぁ……」

アオの動きが止まる――







「――がんばる!」
『……がんばれ……』





『退魔師ってのは……未練を残している霊を成仏させる仕事をする者だ』

「ジョウブツ?」

『未練の無くなった霊は、生まれ変わり新たな人生を歩む――』

『だが、未練のある霊はそれが出来ない……』



『……だから殺すんだ……強制的に世界から追い出す事が仕事だ』

「殺しちゃうの?」



『そうだ……退魔師には大まかに2種類ある』

『霊を説得して成仏を促す者と、強制的に殺す者だ』

『霊に干渉するためには、気功術の習得が不可欠だ』

「え? だって……キコウジュツって、殺すための技じゃないって……」

『それは起源の話だ……包丁とか良い例だろ?』

『料理に使うための道具なのに……使い方では人もスピリットも殺せる』



「なんで、霊さんを殺しちゃうの?」

『そうしないと、成仏できないから……かな』

「なんで? 霊さん……悪い事してないのに殺されちゃうの?」

『違う、そうじゃない……悪い事をした霊だけを殺すんだ……』

「悪い事をしたから殺されちゃうの?」

『…………ああ、そうだ』





「なんで? ちょっと悪い事して、なんで殺されちゃうの?」

『それは…………』



霊を殺す(成仏させる)のは当たり前の事……



悪い事もしていない霊も、迷惑になるから殺す(成仏させる)……



いや、霊は全て殺す(成仏する)のが当たり前という認識がある。







そう、この世界の常識と似たようなものだ。







考えれば、俺もこの世界を非難できないかも知れない。







『……俺、凄く酷い事してるな』







霊とスピリット……置き換えてみれば、同じだ――



誰も成仏させることに罪の意識も感じなければ、間違っているとも思わない――















結局のところ……









俺は自分のオカシイ行為を事を棚に上げて、他人の行為がオカシイと叫んでいただけ――















――なんで気がつかなかったのだろう?



人間とスピリットの在り方はオカシイと思っていた俺は……



なんで、人間と霊の在り方は疑問に感じないのだろう?







「……雫?」

『…………ん?』

「私……ヘンな事言った?」

『いや、良い事を言ったぞ……アオの言うとおりだ』

『俺は沢山の霊を殺した……当たり前のように殺してた……』



罪の意識を感じない……

後悔を感じない……

自分は冷たい人間だと……思う心が生まれない――



『本当……嫌になるな……』



多分、この世界の人間も同じなのだろう。

スピリットを冷遇しても罪の意識が生まれない……

どんなに酷い事をしても、自分を冷たい人間だと思わない――







そんな奴等と……自分は同じなのだと――



――そう感じるのが、本当に嫌になる――







「あのさ……ヒミカお姉ちゃんが言ってたけどさ……」

「悪い事をして、気がついて……ごめんなさいって思えたら、それで良いんだって」

「雫は……ごめんなさいって、思ってる?」

『……たぶん……思ってると思う』

「じゃあ、大丈夫だよ♪」

『――そう、かな?』

「そうだよ♪」





次元が違う気がするけど――



――確かに、改心する想いは大切だと思う。



……既にやってしまった事実は、どう足掻いた所で取り消す事は出来ない。



でも、償おうとする心を持って……次から気をつければ――







『……ありがとな』

「――うん♪」











――きっと大丈夫な筈だから――







あとがき



 人間のエゴ……それは様々なモノがあります。
嫉妬や偏見、差別や偽善等……よく考えれば、私達が感じている常識は案外、残酷な事ばかりだったりして――
――っと、この話を書いてて思いました。

そう考えると、ファンタズマゴリア界の人達って……偉大かもしれませんね♪

補足として、アウルさんは二刀流ではありません。
二本目の模擬刀は予備、もしくは他の使い道として活用するのが主です。



次回はいよいよサモドアから……
本編をやっている人には予想できる展開っぽいですが、とりあえずお口にチャックしてね♪




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