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永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―


永遠神剣になっちゃった



Chapter 3  ラキオスの訪問者

最終節 『開戦』



 






 誰かに撫でられている。



その人物を見て……コレは夢なのだと確信した。







忘れるはずが無い……



その人物は、俺の母さんだったから――







そして、泣きたくなる――







遠い昔……良い事をしたら、必ず母さんが撫でてくれた事は覚えてる――



最後に撫でられたのは……果たして何時だったか?







もう、思い出せないくらい昔の記憶――







母さん……父さん……

――なんで……俺を置いて行ったんだ?







――爺ちゃんが居たから……毎日楽しく過ごせてたけど……



――寂しさまでは埋められなかった……







もう社会人になったけどさ……



この寂しさだけは……何時までたっても消えてはくれない――







本当に……何処に行ったんだよ……







生きてるのなら生きてるって……手紙だけでも送っほしい。



もう死んでるんだって、諦めている俺に希望を持たせてほしいから――















『……………ぁ?』

「……雫、起きた?」


夕日が広がる中……アオが心配そうに見つめていた――



『……………………うん』

アオの手には、布が握られている……

撫でられてると思ったら……アオが手入れをしていてくれたんだ訳で……

あんな懐かしい夢を見たわけだ。





「? 雫??」

『アオ……もう少し……続けてくれないか?』

「うん♪」





本当に心地良い……

撫でられるような感覚は、俺の何かを満たしてくれているような……そんな感じがする。



『……俺……どうなったんだ?』

「ちゃんと錆びは取れたよ……ほら♪」

キラキラと……まるで新品のように刀身が輝いていた――



「……雫……」

『うん?』



アオは、沈んだ表情で俺に語り掛ける――



「雫は、私に沢山の事を教えてくれてたから……雫は大丈夫って思ってたんだ……」

『…………………』

「でも、違うんだね……雫も、一人じゃ何も出来ないんだよね?」

『まぁ、こんな身体だしな……』

「ごめんね、今まで気がつかなくて……本当に……ごめん……」



アオは俯いて……自分を恥じるように懺悔している。



『……あのな……お前、生まれてまだ3ヶ月だろ?』

「うん……」

『3ヶ月のガキがそんな事を気にして泣くなよ!』



らしくない……本当にらしくない……



『確かに、俺が錆びた原因がお前にあるとしても今後気を付ければ良いだろ?』

「……うん」



こんな事で凹んでいるアオも……慰めようと行動している自分も――



『だからな、そういう失敗を繰り返してガキは成長するもんだから……とりあえず、気にすんな』

「うん、ありがと♪」



――そのアオの笑顔に安心感を覚える。



やっぱり、コイツは沈んでいる顔より……笑顔のほうがよく似合う。





クサイ台詞だが……本当にその通りだと思う。





「えへへ♪」

『…………なんだよ?』

「やっぱり雫だな〜って♪」

――意味解らん……つーか、妙に照れくさいのは何故?



『……それより、ここ何処よ?』

 話題を変えるネタを切り出す。



まあ、ここは何処かってのは……整ったレンガと庭園のような場所から、大体は想像がつくけど……



「お城のお庭だよ♪」

……予感的中♪

でも、なんで城に居るんだ?



「アオ〜、雫生き返った?」
「……た〜?」

「あ、ネリーちゃん、シアーちゃん♪」



『おかげさまでな……なんとか地獄(バルガ・ロアー)から帰還したよ』

「あはは、また大げさな……」



バルガ・ロアー……ハイペリアが天国とするなら、バルガ・ロアーは地獄と称されるらしい。

黒スピリットは、そのバルガ・ロアーから力を引き出せるそうだ――



どうでもいいけどな……







『それより、どうしてお前等は城に居るんだ?』

「なんか、王様のお話を聞くんだってさ……それより、聞いてよ雫!!」

『……あん?』

「昨日さ、ユート様に会ったんだよ♪」





『……ユートって……『求め』のエトランジェ?』

「うん♪」







『お前等、凄いな……サードガラハムを殺した奴だろ? なのに何でそんなに嬉しそうに話せるんだ?』

「守り龍様が言ってたじゃん、恨まないであげてって――」

『そう、だけどさ……』

「それに、話してみたら優しい人だったんだ。ね〜、シアー♪」

「う、うん……優しかった……」





――そう割り切れるところが凄いって言ってるんだけどな。





『アオも会ったのか?』

「会っていないよ……ネリーちゃん達、昨日会ったんだって」





……昨日って……





『午前に?』

「うん、ネリー達の隊長なんだってさ」









――それは、つまり……









「ネリー……そろそろ行かないと……」

「そうだった……アオ、休憩時間もう終わってるんだって!!」

「ええ!?」

「早く行かないとアウル様に説教されちゃうよ!?」

「今行く!!」









――今日が、宣戦布告する日だと言う事か――























 王座がある広い部屋……


そこに、第1、2詰め所のスピリットや見たことの無いスピリットが型膝を付いて、頭を下げている。


まるで、中世時代の騎士が誓いを立てているような姿勢だ。





左右の壁際に、偉そうな奴等が座っている。


そいつ等は、不安そうな顔……期待している顔……様々な表情で、王座に座っている人物を見つめている。








ここまではいい……








なぜか、一つだけ浮いた存在が居る。








後ろに、人並みにデカイ装置と白衣を着た一人の男……


明らかに場違いではないだろうか?











『……なあ、アオ……』

「なに?」

『後ろのアレ……なんだ?』

「知らない……」

マジになんなんだろう?







「国王、装置の準備が整いました」

――だから、なんの装置なんだろう?



「うむ、始めろ」

「っは」







その装置から駆動音が聞こえた数秒後、国王は語り始めた。







「国民よ、時は満ちた――」

「リクディウスの魔龍のマナは全てエーテル化され、我が国の国力はバーンライトを上回ったのだ!!」





演説……だな…………



となると、あの機械は撮影の役割を持っている装置なのかもしれない……



――でもさ、なんかオカシイ……



いや、絶対にオカシイ……つーか、限度を過ぎてる――









――エーテル――

万能のエネルギーと言う事は、座学で学んだけど……基本・応用の流れが滅茶苦茶だ――





例えば、彼の有名な『トーマス・エジソン』を例に挙げてみよう。







彼は電気を見つけた――

そのエネルギーを利用して、電話を創り……応用して蓄音機を……応用して電気照明システムと様々な発明をした――







だが、この世界はどうだ?

国民にこの場面を映像として送れるほど通信技術は発達している。



でも、伝令兵が居ると言う事は……電話が存在しないという事に他ならない。



何故、この技術を応用しないのだ?

ソレ以前に、映像を送れるという事は……音声だけ送る装置は簡単に作れるはずだ――





でも、そんな装置……この世界には存在しない――







不可解だ――

極端に言えば『戦国時代に原爆が存在する』というLVではないだろうか?









「いままでバーンライトのスピリットが何度もラキオス領土に忍び込み、戦闘で被害を受けた民も少なくは無い!」

「家を奪われた民も居ることだろう」



そんな事……考えても仕方が無いんだけどな……



「これ以上被害が出る前に、ラキオス王国はバーンライト王国に対し……宣戦布告する!!」











ぉぉぉぉ……っと、外から歓声が聞こえる――











『マジに放送されてるんだな……音声も――』

「??」

『なんでも無い、気にすんな……』

「うん……」









「『求め』のユートよ……」

「………っは……」



王座に一番近い、ボサボサの髪をした白装束を着ている奴は……顔を上げた――



「貴様に我が国のスピリットを8名預ける……そのスピリット共を率いてバーンライトを制圧せよ!」

「……………お任せ下さい、この『求め』に誓って……必ずやバーンライトを陥落させましょう」



そう言いながら、神剣を掲げるエトランジェ――



「――うむ、期待しておるぞ……」







数秒の沈黙の後、装置の駆動音が止まる――







「……国王、お疲れ様でした」

「うむ、それより戦線布告を伝えに行った使者はどうした?」



装置の後ろに控えていたアウルが、壁側から回りこんで王の隣に移動する。

「――その者は演説中に帰還しており、バーンライト王国の返答がこちらです」



王は、渡された書物を受け取り中身を開く――







――そして、不敵に笑った。







「火を……」

「――ここに」

その紙を燃やして、その王は言葉を紡ぐ――





「『求め』のユートよ、バーンライトは間もなくラキオスを攻撃するそうだ……」

「至急エルスサーオに向かい、バーンライトのスピリットを蹴散らし進軍せよ!」

「……了解しました」



「アウル……後は任せるぞ」

「お任せを……」

そう行って、王はこの部屋から退室した――





「バーンライト制圧部隊はラキオスの東門に集合! 一刻も早くエルスサーオに向かえ!!」

「他のスピリット共も持ち場に戻れ!! ……それから『求め』のユート、貴様に話がある」



そう言われたスピリット達は続々と退室していく。









「アオ、行こ……」

「うん……ネリーちゃんは?」

「居ないの……たぶん、先に行ったんだと思う」

「そうなんだ」



シアーと一緒に退室しようとした時、ネリーが柱の影に隠れていた。



『なにやってんだ? お〜い、ネリガキ!!』



俺が叫ぶと、口元に人差し指を立てサインを送っている



「ネリーちゃん、どうしたんだろ??」
『静かにってサインだろ……つーか、マジに何してんだ?』



今度は手招き……こっちに来いと?

『アオ、行ってやれ……』

「シアーちゃん、行ってみよっか?」

「うん」





ネリガキが居る場所に駆け足で向かうアオとシアガキ……







『……で、何してる?』

「……ユート様とアウル様で何話すんだろうなぁって♪」

『盗み聞きか? 良い趣味してるよな、お前……』

「ネリーは『く〜る』だからね♪」

クールな女はそんな事しない。







アウルと悠人とは離れた場所で装置の撤収が行われていた。





『……なあ、ネリガキ……あの装置はなんだかわかるか?』



「えっとねぇ……シアー、あのでっかいの何だっけ?」

「……声を大きくする装置じゃなかったっけ?」

「――そう、それ!」

『……にしては大きくなって無かったぞ?』

「でも、街には聞こえてるはずだよ?」

『――ああ、な〜る』





つまり、あれは入力端子で――





スピーカーみたいな装置は別のところに接続しているという事ね……







……でも、なんでその装置を伝令に使わないのだろう?



――数が限られてるのか?







「お、話し始めたみたいだね♪」



改めて、『求め』のエトランジェを良く観察してみる……

白装束の下に浅見ヶ丘の制服を着ていた――





『アイツが、『求め』の悠人……ね……』

「カオリちゃんの……お兄ちゃんなんだよね……」

『……ああ……』



――んで、サードガラハムを殺した奴――



「っし! 聞こえない……」
「ご、ごめんなさい……」

柱の影になるように隠れ、俺達は聞き耳を立てる。





「隊長としての最低限の責務を貴様に教える前に一つ問う」

「……?」

「スピリットは道具か? それとも人間か?」

「――人間に決まってるだろ! 彼女達は、道具じゃない!!」



その反応を見たアウルは、面白そうに微笑み――

「お前がそう思うなら、それでいい……」

「――へ?」

「お前が人として対等に見るのなら、スピリットはお前の部下だ……」

「部下を見捨てることにならない様……努力することだ」

「……あ、ああ……」



「お前の所に配属されたスピリットはジャジャ馬揃いだ……初陣にしては大変だと思うが、程々に頑張るんだな」

「……………あんた……なんで?」



「なに、ちょっとした御節介ってところだ――」

言い終わった瞬間、奴はコツ、コツ……っと、足音をわざと鳴らしながらこちらに近づいてくる。





「ねえ、もしかして――」



アウルさん、表情が少し怒ってます……

『――もろバレてるっぽい』







柱を挟むような位置に止まり……ズドンっと壁に拳を叩きつけた――



「――さっさと持ち場へ行け! ガキ共!!」

「「「は、はい!!」」」





俺達は脱兎の如く、その場から逃げ出した――





















城から出て、庭あたりで休むネリシア姉妹+アオ……



「はぁ、はぁ……なんで解ったんだろう?」

『ネリガキ、本当に解らないか?』

アオとシアガキが柱のほうに隠れるのが見えただけだと思うが――



「……あ?」

「シアーちゃん、どうしたの?」

「あれ、ナナルゥお姉ちゃんとセリアお姉ちゃんかな?」

シアーが指を指す方向に、ナナルゥの姉ちゃんとセリアの姉ちゃんが居た。



「ほんとだ……あの二人、何してんだろ?」

『ラセリオに行くんじゃないのか?』

アウルが前にそう話してたし……



「あ……私、ちょっと行ってくるね」

「それじゃ、ネリー達は先に行くね」

「バイバイ、アオ……」

「うん、またね♪」



そう言って、アオはナナルゥの姉ちゃんとセリアの姉ちゃんが居る方向に駆け出す。







「セリアお姉〜ちゃん! ナナルゥお姉〜ちゃん!!」

「……アオ、どうしたの?」

「えっと、お見送りに……」

「そう、アオは良い娘ね」



そう言って、セリアの姉ちゃんはアオの頭を撫でる。



「セリアお姉ちゃん、ナナルゥお姉ちゃん……死なないでね」

「馬鹿ね、私達が簡単に死ぬはず無いでしょう?」







「セリア、アオ……戦場では何が起こるか解りませんし、生きて帰る約束なんて不可能です」


いらん事を口に出す姉ちゃんだな……





「そんなぁ……」

「ナナルゥ、あのね……」







「――でも、私は……それでも生きて帰りたいです」







「『え?』」

「……ナナルゥ?」





「……セリア……私、少しオカシイみたいです……」

「今から戦いに行くと思うと……少し、心拍数に異常が見られます」





そんなナナルゥの姉ちゃんを見て、セリアの姉ちゃんは優しく微笑み――







「それはきっと……死にたくないって、貴方が思っているからよ」

「――そうなのですか?」

「大丈夫……誰も死なせないから……誰も――」







「セリアお姉ちゃん?」



「なんでも無い……」





「それよりアオ……料理するときは包丁に気を付けて、あと火にも気を付けなきゃだめよ」

「うん……」



「それと、困ったことがあったらアウル様に相談すること!」

「……大丈夫だよ、セリアお姉ちゃん」



「それと――」

「セリア……このままだと集合の時刻に間に合いません」

「わかってるわよ……ええっと、他には……」



「セリアお姉ちゃん、雫も付いてるから大丈夫だよ」



「そうよね……雫、アオの事を頼んだわよ」

「『……任せろ』……だって」



「じゃあね……アオも気を付けるのよ」

「セリアお姉ちゃんもナナルゥお姉ちゃんも……絶対に死なないでね」







そう言って、二人は駆けて行く――

その二人が見えなくなるまで、アオは手を振りつづけていた……









『ネリシア達の方は行かないのか?』

「――あ!?」

集合・出発する時刻が一緒だとしたら……あいつ等はもう出発している。



「急がないと――」















アオは全速力で駆け出したが――





東門に付いたときは、もう誰も居なかった――









「行っちゃったんだね……」

『ま、ネリガキ共と顔合わせしたから大丈夫だろ?』

「……うん……戻ろっか、雫……」

『そうだな……』















第2詰め所に入ると……異常な静けさだけが残っていた――



「誰も居ないね……」

『ああ……』







――本当に、誰も居ない……







『まだ時間が早いけど……さっさと寝たほうがいいぞ』



寝てたほうが、早く時間が過ぎるはずだから――









「……うん、そうする……」







自分の部屋に戻り、アオは俺を抱き枕にして寝る。

俺は、いつもベッド付近に立て掛けられてるんだが……さすがに寂しさを隠せないようだ。





「雫……」

『うん?』

「……みんな、死なないよね?」

『……大丈夫だろ……』

「そうだよね……」

















そう言って、アオは目を閉じた――





あとがき



 aaaさんのご指摘により、修正を加えました。
映写エーテル装置は音声入力エーテル装置と変えました。
音声を送る装置(プロトタイプ)1台しか無いという設定で♪

今のラキオスではこれが限界なのです!




 補足として、『見たこともないスピ』とはラキオスの護衛隊で
制圧組が活動している最中、各町を護衛しているスピの事です。

ラキオスの教育方針は……優秀なものや才能のあるスピだけを育てる方針と考えました。
1軍は第1詰め所、2軍は第2詰め所……それ以下は訓練は自主訓練のみ、みたいな感じで♪

よって、ラキオスの制圧組は世界最強だけど防衛部隊は世界最弱という設定。
じゃないと、本編の帝国決戦の時……大量のスピが居る中、ラキオスの攻略隊が圧倒的に少ない理由が見つかりません。






ちなみに、演説時の配列は以下の通り


      王



      悠

      エ     ←第1詰め所のスピ群
     ア オ

     ヒ ハ
    ネ シ ヘ   ←第2詰め所のスピ群

     ナ セ
      ア(雫)


   ■ ■ ■ ■     ←防衛スピ群
  ■ ■ ■ ■ ■
 ■ ■ ■ ■ ■ ■




      □    ←音声入力エーテル装置




次回はアオ育成編

雫とアウルがアオに色々と教え込みます♪



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