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永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―


永遠神剣になっちゃった



Chapter 3  ラキオスの訪問者

第3節 『恐怖の錆取り事件簿』



 






 カン、カン!! っと、力強く木がぶつかる音が響く――

「――ふっ、はっ、たぁ!!」
「……498……499……500、後半はペースを最大まで上げる!!」

「――うん……はぁっ!!」
「501、502、503――」



 現在、アオはセリアの姉ちゃんは、屋外訓練所の中央で打ち込みをしている――


ナナルゥの姉ちゃんは、隅で瞑想している。

――休んでいるように見えるが、アレはアレで疲れるらしい――



 広大な屋外訓練所で、たった3人だけが訓練をしている。



なぜ3人だけなのかというと……





……午前訓練が始まる直前に、アオ、セリア、ナナルゥ以外の連中は知らない兵士に連れて行かれた。



訓練開始から2時間も過ぎているが……いまだに戻らない。



何のために呼び出されたのやら――








――いや、それよりも改善しなければいけない事態に……俺は陥っている――




……最近、アオが俺に対するの扱いがヒドイと思うんだ――




 だって、今の俺――



















――木に突き刺さってるんだぞ!?



しかも地面に平行で……そこにタオルやら水筒やらが、ぶら下がっている。




 このような扱い……許されて良いのか?

――否、良い筈が無いだろう!!



 つーか、アイツ最近……俺に対して冷たくないか?

自分に都合の悪い事を俺の所為にしたり……

放置プレイが多くなっている気がする――




放置プレイは仕方が無いにしてもさ……


――俺の所為にするってどういう事よ!?





確かにさ……俺が余計な事を喋った事から始まったのが殆ど、つーか、全部だけどさ――

丁寧に、『――って雫が言ってたよ♪』って言わなくても良いだろうが!!









しかも最近、雫世界に行けないから……タバコも吸えない――

――だからストレス溜まりまくり。







俺が入る方法って……他の奴が俺の中に入り込んだ時しか無い。

つまり、つまりだ……自力で入れないのが現状。



 ちなみに、俺がタバコを吸い始めたのは18の時……

修行という名目で追い出されてから、唯一の楽しみとして吸っていたタバコ……

タバコだけが、俺の日々に潤いを与えてくれる唯一の存在だった――

だから、今の状態が一番辛い。






もし、この世界にタバコがあって……

目の前で誰かが吸っていたら……間違いなく殺意だけで呪い殺せる自信がある!!



――って、こんな風に考えるなんて……結構ストレス溜まってるよなぁ……



なんか鬱だ――







――タバコ吸いてぇ……









「998、999、1000……っと、そろそろ休憩にするわよ」

「はぁ、ふぅ……うん♪」

 模擬刀での打ち込みが終わり……俺に掛けてあるタオルと水筒をアオが取る――

水筒の水を頭からかけ、気持ち良さそうに髪をタオルで拭くアオ……



とっても幸せそうな顔が、ちょっとムカツイタ――



「ナナルゥ、貴方も休憩なさい」

「――解りました」

すく……っと立ち上がり

近くに置いてある『消沈』を持ち、手入れをするナナルゥの姉ちゃん。



『あれって、休憩になんのか?』

「……ん、なんか言った?」

『――別に』



 それにしても、曇り一つ無い『消沈』って……綺麗だなぁ。



それと俺の状態を比べてみる













――比べるまでも無く、汚すぎるんですけど……




いや、汚いというレベルではないく、ボロい……オンボロだ……




それになんだ? 全体に広がってるシミみたいな……錆っぽいのは??





……いや、錆なのか?? 























――って、待てマテ!!























 そんな筈は無い……考えてもみろ、初めて人を切ったのは……

確か、セリアの姉ちゃんとの初訓練日……3ヶ月以上前の出来事……



……ニムガキとダーツィのスピリットを殺したのは、大体1ヶ月ぐらい前……

その時は、まだ無事だった気がする――たぶん……



その後からほったらかし……鞘から出してもらった記憶が無い――



それに、雨の日とか普通に屋外に忘れ去られた時もあったな。

ネリガキに無事救助されたが……その時も鞘から出された記憶も無い……



塗れまくった皮製の鞘の中は……北極並に寒かった記憶がある。











うん……ここまで見事に、ほったらかしにされると……当然錆びるわな――





――って!?















『ぎゃぁぁああああ〜〜〜!! さ、酸化してる〜〜〜!?』

「――ひゃぁ!?」


俺の叫びにアオが驚いているっぽいが、そんな事はどうでもいい!!





『ど、どど、どうすんだよ!? 俺の身体錆びちゃってるよ!?』







――気づかない自分もどうかと思う奴も居るだろうが、気づく筈が無い……





だって、今の俺……痛覚すらないんだぞ?

感じるのは温度の変化だけ……剣で打ち合っても『揺れてるなぁ〜♪』ぐらいしか思わないんだぞ?

そんな状態で自分の異常なんて察知できるか!!





「え……これ、錆びだったの!?」

アオも、改めて刀身の異常に察知したようで、慌てた顔になる。


『錆び以外に何があるんだよ!?』




「まったく、剣の手入れを怠るからこういう事になるのよ」

「せ、セリアお姉ちゃん……雫、どうなっちゃうの?」







「このまま放って置けば……折れるかもしれないわね」







『「折れるの!?」』







それは、俺の死を意味しているという事だ――










『冗談だろ!? つーか、嫌だぁ!! こんな人外的な死に方は嫌だああ!!』

――つーか、幽体離脱した時点で死んでるけど……生き返る可能性の無い死は勘弁!!





「し、雫! 落ち着いて、ねえ!?」

『俺は、20代だぞ!? やりたい事沢山あるんだぞ!? まだ人生の5分の1も生きてないんだぞ!?』



「落ちつ言ってってば、雫の所為じゃないから!!」

『当たり前だ! つーか、手入れ怠ったお前の所為だろうが!!』

「うええぇぇ……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃ……」

『謝るくらいなら警察なんて要らないんだよ!!』

――俺の人生……ここでBADENDなのか!?







「――落ち着きなさい!!」



『死の宣告されて落ち着けるか!?』
「――ごめんなさい、ごめんなさい……」

健康的な生活してたのに『貴方はガンです……しかも末期の!!』って言われているのと同じだぞ!!







「謝ってないで聞きなさい!! 『放っておけば』って言ってるでしょう!!」

「――へ?」
『――あ゛?』




「じゃあ、雫は助かるの!?」

「当たり前でしょう……錆びて折れた神剣なんて聞いた事無いわよ」







「よ、よかったぁ……」



――驚かせやがって、マジにビビッたじゃねえか……



つーか、錯乱した経験って……初めてだよ……



思い返すと……なんか、情けねえ――







「ほら、『雫』を貸してみなさい」

「あ、はい……」

うんしょ……っと言いながら俺を木から引き抜き、セリアの姉ちゃんに渡す。



「まったく、これくらいで騒ぐなん……………………」

改めて、俺の状態を確認した瞬間……セリア姉ちゃんの顔が引きつった。

『………………………』



これは予想以上です――っていう顔は何ですか?







「アオ……一つ聞くけど……」

「なあに?」

「……最後に手入れしたの……いつ?」

「えっと……その……えっと……ずっと、前……かな?」



――嘘だ……





「……手入れ道具……初日に渡した筈よね?」

「な、なくしちゃって……その……」

――絶対嘘!!

今朝見たもん!! 埃かぶってたもん!!



何より、アオが地面を見て話してる!!

アオが嘘つくとき、絶対地面を見ながら話す非常に解りやすいクセがある。



アダルト組は既にその事実を知っている! つーか、気づかない方がオカシイ!!



「……とりあえず、今度から毎日手入れしてあげなさい……ここまで酷いと『雫』が可哀想でしょう」

「はぃ……」



「ナナルゥ、ちょっと来て!」

「神剣の手入れの事ですね?」





なんで知ってんだよ?

――って、言いそうになったが……あんだけ大声で騒げば外野にも聞こえのは当然だ。




俺を受け取るナナルゥの姉ちゃん。

「こ、これは……」



ナナルゥの姉ちゃんが、驚いた顔をする……

つーか、表情変わるところ……初めて見たぞ!?



――本当に大丈夫なのか、俺!?










「ここまで酷いと、私では無理だからお願い……」
「あぅ……」

めちゃくちゃ凹んでいるアオがいる……

心がスッキリするのは何故だろう?




「……この状態からの修復は、私でも不可能です。――むしろ、アレを使わないとダメな気がします」

「やっぱり、アレしかないのね……」



アレってなんですか?



むしろ、何故……俺を哀れみの目で見るんでしょう?



「何時まで漬けておけばいいかしら?」

「この状態だと……最低半日ぐらいは必要かと……」

『――半日!? つーか、漬けるって何さ!?』



不安がどんどん膨らんでいく――



「雫……ちゃんと直るよね?」

「「……それはもちろん」」

『…………』







この二人がハモリましたよ?

つーか、ナナルゥの姉ちゃんとハモルって……すごい偶然ではないのか?



それ以前に、言いようの無い不安に襲われる。



――まさか、これは新手のイジメですか!?

俺の不安がらせて、内心面白がってるんですか!?



「とりあえず私は……道具を準備するわ」

「私は材料を収集してきます……」



ナナルゥの姉ちゃんは、俺をアオに手渡して……セリアの姉ちゃんと共に何処かへ歩いていった――

「良かったね、雫……直るって♪」

『……………』









身体が……体が欲しい――



コイツを思いっきり、ぶん殴れるような身体が――













30分後――













「材料の投下……完了しました」

試験管みたいに細長い鍋に、緑色の液体がグツグツと煮えたぎってる……

長さは、ちょうど神剣……西洋型や刀型が収まるほどの大きさだ。



『ま、まま、まさか――』

「さあ、アオ……入れなさい――」



『じ、じじ、冗談じゃねえぞ! ふざけんな馬鹿野郎!!』



このグツグツ煮えたぎってる液体の中に入れと?

――死ぬ……絶対に死ぬから!!



「雫……とても嫌がってるよ?」

「なんて臆病な神剣なのかしら……」

『なら、お前が入ってみやがれ!!』



水が沸騰する温度って100℃以上なんだぞ!?

鍋の周りが石で固定してあり、その下に火が灯されていると言う事は……沸点が低いという可能性は絶望的に低い――



それに漬かれというのか!?




『――それに……あの液体って――まさか!?』


思い出した……肝心なことを思い出した――



そして、できることなら……思い出したくなかった――









Q1:錆びを取るにはどうするか……





























A1:『酸性の強い』薬品を使用する――


























物理の法則がこの世界にも適応されているというのなら……あの緑の液体は、酸性であることに間違い無いだろう――







そして、錆びるという事実から……この身体は『鉄』に近いものがある。























Q2:『鉄』を『酸性の強い液体』に半日ぐらい漬けると、どうなるか?































A2:確実に『溶けます』――

























『俺は錆びる!! 世界初、錆びが原因で折れた神剣となって、次世代に伝説を残すんだ!!』
「雫が、錆びて折れて次世代に伝説をって――」



「ああ、もう!! 神剣だったら――」
「――あぁ!?」



――青の死神は、アオの手から俺をぶん取って――



「ウダウダいってないで、さっさと逝きなさい!!」

『なんて理不尽――』

















言い終える前に、『死神の鍋』の中に投下しやがった――















『――な゛あ゛ーーー!!!』

自分の断末魔が聞こえた瞬間、意識が飛んだ――






























俺を置いて何処かへ旅立った両親へ……





拝啓――最近、理不尽な世の中……というか、理不尽な異世界が増えてきました。お元気ですか?

こっちはもう、三途の川を通り越して……いきなり灼熱地獄に飛ばされました。



灼熱地獄(ファンタズマゴリア)には、青の死神達が……いえ、青鬼達がいるんです。

そいつ等は茹で殺そうと計画してたんです……そして、実行しやがったんです。









だから、青い奴等なんて……大っ嫌いです♪









あとがき



 宣戦布告編を書いている最中、ふと思い出しました。
「雫は手入れされているのでしょうか?」という質問を……

 そういえば、3ヶ月も経っているのに全然手入れをしてないアオ……
良く考えたら、戦闘後でも手入れしてないよ……

 濡れた刀を1ヶ月も放っておけば、どうなるか……普通の金属なら、当然錆びます。
再起不能なまでに錆びます……

 さらに『神剣の手入れ』という表現が結構本編でも登場していたため神剣も錆びると判断しました。
酸化スピードは、鉄より大幅に遅いという設定で♪

 雫の状態としては、刀身の全体が薄く『赤錆』で覆われている程度――
ちなみに、『鉄』に『赤錆』が発生した時から、『鉄の腐食』が始まりますので……

実は、かなりヤヴァイ状態だったんです。

「錆で折れた神剣なんて聞いた事が無い」っと言っていましたが、限度を過ぎれば折れます。



 それを宣戦布告の直前で気がついた私……
合流するにしても、錆びたままじゃ……雫はボッキリと逝ってしまうじゃないか!?

 それはヤバイと思ったので、緊急で錆取りシナリオを導入しました。
時間も無い事ですし、応急処置として雫には『死神の釜』に入って貰いました♪



 補足として、『死神の釜』の材料は酸性の強い植物や薬品を適当に突っ込んだモノです。

雫が溶けるんじゃない? っとも思いましたが……
『神剣は酸性では溶けない……溶けるのは錆だけ』という設定を無理やりこじ付けました。
ただの錆取りでは面白くないから、ギャグ風味にしたてました♪





それと、冒頭での雫の状態が想像しにくい方は以下の図を参照してください。






   |        |
   |        |            ↓雫
   |   木    |   ___
   |      ―――|    |‖――|==
   |        | |タオル |‖
   |        | |___|‖
   |        |        □ ←水筒(内容量は500ml) 
__|        |___________








次こそ、宣戦布告編の始まりです!


ちなみに、この予告の的中率は約88%です。






<今話で出てきた用語>

死神の鍋(しにがみのなべ):ファンタズマゴリアに伝わる錆び取り専用の鍋の名称である。(雫が命名)
             :使われる液は、非常に酸性の濃度が濃く、一般武器の錆び取りに良く使われている
             :理論的には永遠神剣についた錆びも取れると言われているが
             :錆びた神剣の前例が無いため、証明不可能に終わる――
             :後、錆びた神剣を持ったラキオスのスピリットが使ったという噂が全国で多発する。




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