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永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―
永遠神剣になっちゃった
Chapter 3 ラキオスの訪問者
第2節 『ゴースト・エトランジェ』
注意
「『文章』」……と、囲ってある部分は雫の言葉をアオが翻訳しているという意味です。
「あ、アオだ♪」
オルファのガキが嬉しそうにアオに近づいてくる。
「なんでアオが此処にいるの?」
「えっと、王女様に連れてこられたから?」
――何ゆえ疑問系?
「話し相手は多いほうが良いでしょう」
「えっと、レスティーナさん……その子は?」
赤に近い髪……そして、見覚えがある制服――
「カオリ、紹介しますね……アオ・ブルースピリットです」
アオはやんわりと微笑み……
「よろしくね、アオ・ブルースピリットだよ♪」
「……青々スピリット?」
『――!?』
「「「??」」」
「え、あ、なんでもないです。私は……高嶺 佳織です」
日本人……こいつ、間違い無く日本人だ。
……名前からして、明らかに日本人。
しかも、青々スピと解釈できるのが何よりの証拠!!
――完全解釈すると青々魂だけど……
んなこと、今はどうでもいい!
そう、彼女は俺と同じ日本人なのだ……
この世界に飛ばされたのは俺だけではない。
その事実が、無性に嬉しかった。
「……で、こっちが『雫』だよ♪」
――アオが俺に指を指した瞬間、瞬く間にシナリオが浮かんだ――
『アオ、通訳よろしく♪』
「うん??」
彼女が着ている制服は、俺が住んでる近くの学園……浅見ヶ丘の制服だ。
つまり、それをネタにして話かければいい!
『あんた……浅見ヶ丘の学生だろう?』
そう聞けば、嫌でも俺の存在をアピールできるはず!!
さあ言え、アオ! この計画は貴様が鍵なのだ!!
「えっと、タカミネちゃん……雫が――」
「あ、えっと……佳織でいいです」
「?? なんで?」
「ハイペリアじゃ、ファーストネームが後に来るんだよ〜」
自慢をするように、オルファのガキが胸を張る。
「へぇ、そうなんだ……」
……嫌な予感、着火――
慣れとは怖いもので、3ヶ月近く暮らしていると流れも予想できる。
このペースだと、俺の自己紹介がスルーさせられる可能性が高い――
――いや、このアフォ娘の事だ……既に忘れてる! 確実に!!
『アオ、頼むから……さっき言った事ちゃんと伝えてくれ!!』
「え、あ……うん」
このシナリオだけは、完遂させなければいけないのだよ!!
――ここにも刀になっちゃった日本人が居ますよと、伝えなければ!!
「あ、あの……雫が――」
「それより佳織、ハイペリアのお話してよ♪」
この赤ガキ!! また邪魔するかぁ!?
「あ、私も聞きたい♪」
――って、アオ!? お前も何便乗してるんだよ!?
「うん、いいよ♪」
あんたも、同意すんな!!
「では、紅茶を入れましょうか……アオ、手伝ってください」
「は〜い♪」
アオは王女と一緒に紅茶を取りに隣の部屋に向かった。
『――って、コラァ!?』
嫌な予感、大爆発――
神よ……俺は貴方を怒らせることを何かしたんでしょうか?
確かに、確かにさ……善行なんてした記憶は少ししかねえし
悪いことっていっても、過去に友達の借金踏み倒したり、悪戯メールとか下らない事沢山してたけど……
この世界に来るまで人道に外れた行為はしてないぞ!
なのに、なのに……あんまりだぁ……
ああ……俺って、ちょっぴり不幸……
「雫、どうしたの??」
『……うるせえよ、この馬鹿!!』
「なんで怒ってるのさ!?」
『――っけ! めでたい頭だな、チキショウ!!』
「む〜〜……」
「アオ、どうしたのですか?」
「雫がいじけてる」
「……また、ですか?」
――なんだよ、その問題児を見るような目線は?
つーか、『――また』ってなんだ!?
「ねえねえ、カオリ……雫って落ち込みやすいよね♪」
「え、そうなの?」
「神剣のくせに落ち込むなんて、変だよね〜」
こちらに聞こえないように呟いてるみたいだけど……聞こえてるぞ、赤ガキが……
元はと言えば、全部テメェの所為だ!!
第一、俺は落ち込んで無いし……いじけた回数もそんなに無い――
――心当たりが数え切れないほどあるのは気のせいだろうか?
……有るはずが無い、気のせいだ!!
――しかし、なんだ?? この身を覆い尽くす虚しさは?
なんか知らんけど……
俺って……不幸だよなぁ……
自業自得という単語が頭に浮かぶ事がムカついた……
気づけば、アオや赤ガキ、ナイチチ王女は佳織とかいうガキの話に耳を傾けていた――
なにやら、日本の教育システムについて話しているようだ――
「なるほど、ハイペリアの教育制度はそうなっているのですか……」
「でもでも〜、毎日毎日勉強なんてつまんないよ!!」
「オルファ、詰まらない事ばっかりじゃないよ……私達はそこで自分の趣味とか見つけるんだよ」
「……カオリちゃん、しゅみって何?」
「ん〜っと、アオちゃんって……何しているときが一番楽しい?」
「え〜と、え〜っと――」
『……………………』
――なんだろう、この疎外感は?
俺はベッドと思われる場所に立て掛けられており、アオ達は優雅に紅茶らしきものとヨフアルを摘みながら楽しく雑談している――
いいもん、いいもん! 寂しくなんてないから!!
誰がナイムネ共の会話に参加するものか!
――ごめん、嘘です……本当は寂しいんです。
あぁ、こんな事でジェラシーを感じてる俺って……本当に社会人なのか不安になってきた。
「雫……ねえ、雫ってば!!」
『あんだよ!?』
「雫のしゅみってなに?」
……アオ、お前……良い奴だなぁ……
「あははっ♪ アオ、馬鹿じゃないの? 神剣に趣味なんて有るはずないじゃん!」
『黙れよクソガキ!! 映画とかよく見てたし、カラオケとか5時間余裕だぞ!!』
「からおけ、だって♪」
「……ぇ?」
「からおけ? それはなんでしょう?」
「5時間余裕って言ってる」
「知ってるんですか? カラオケ??」
――その佳織とか言う少女は、信じられないような目で俺を見ている――
――つーか、チャンス到来??
「『まぁ、学生の頃は毎日入り浸ってたさ……』――って、言ってる」
「それって……まさか!?」
「『たぶん、ご想像の通りだ……俺もここに来る前、約3ヶ月前までは日本で……ハイペリアで過ごしてた』――って……へ?」
この場にいる全員が俺を注目している――
――いいな、この視線……勝利感で満たされるよ――
「貴方は……ハイペリアから来たエトランジェとでも言うのですか?」
『「その前に質問させてくれないか? 佳織さん、あんたはどうやってこの世界に訪れた?」――だって』
一番聞きたかったことがやっと言えた。
それは、俺がここに来た原因と繋がるかも知れないから……
「えっと……お兄ちゃんが急に苦しんで、そして光の柱がお兄ちゃんを中心に広がって……
碧先輩と今日ちゃんと一緒に呑みこまれて……気が付いたら……牢屋で……」
「『他にも巻き込まれた奴が居るのか!?』――って言ってるけど……」
「はい……きっと、今日ちゃんも碧先輩も……たぶん……」
「『それは、神木神社の近くで起こった事なのか?』――だって……」
「――!? 知っているんですか?」
――初めて雫世界で見た映像――
――この佳織とかいうガキの証言――
――つまり、こういう事か?
俺は、神木神社の裏林で悪霊の悪あがきによって幽体離脱して……その光の柱に突っ込んだ――
そして、この神剣に憑依したと……
仮説だけど……間違いは無いと思う――
そして、やっと原因が解った――
「では、なぜ雫は……神剣になってしまったのでしょうか?」
「そうだよね、カオリはちゃんと人間なのにさ……」
「『俺は、神木神社の近くで死んだから……こんな身体になったんだと思う』――って、雫……死んじゃってたの?」
「「「――ええぇ!?」」」
驚くのも無理は無いだろう――
一番驚いてるのは佳織とかいうガキだ……
路上等で交通事故で死んだといえば納得もできるが……
神社近くで死んだという事になれば、殺人か自殺のどちらかしか思いつかないだろう。
でも、幽体離脱しただけだから……俺の身体は生きてるし、俺の魂も生きている。
だから、死んだことにはなっていない――
――というのが一般人の意見だ……
――魂と肉体……離れた時点で、退魔師は『死』と呼ぶ――
植物人間が簡単に意識を取り戻さないように、肉体を離れた魂も簡単には戻れないのだ――
戻れない理不尽に遭遇した魂は、恨みや憎しみ、後悔の念が集う――
それが一定量以上集えば、簡単に悪霊と化す――
そんな悪霊を成仏させた経験が何度もある。
だから、魂と肉体が離れ離れになれば……それだけで終わりなのだ――
俺も、元の世界に戻れたところで……簡単には肉体に戻れないだろう――
――下手すれば、悪霊になって、成仏させられる可能性が有る。
――だから、俺は既に死んでいるんだ――
「つまり、貴方は……」
「『エトランジェでなければ永遠神剣でもない、ハイペリアから来た自縛霊って所か……』……って言ってるよ」
――さしずめ、ゴースト・エトランジェってか?
久々に良いネーミングが生まれたな♪<
「では、アオが特殊な能力を持っている事については……貴方の影響を受けていると?」
「『そこまでは解らない……アオ自身の力なのか、俺の力なのか……』……だって……」
「「「「…………………」」」」
あれ? なんか、少し暗い雰囲気が漂っているんですけど……
もしかしなくても、俺の所為なのか? 自分を死んだって言った俺の所為??
いや、確かに死んだって言ったけど……生き返る可能性の有る死なんだぞ?
王女は王女で、難しい顔をして何かを考えている。
「オルファ、アオ、カオリ……この事は他言無用にお願いします」
「あ、うん……」
「えっと……解りました」
「ええ〜、なんでさ!?」
アオとカオリのガキは頷いたが……何故か、オルファのガキだけが嫌がっている。
さしずめ、自慢話のネタとしてネリシア姉妹に話そうと思っていたんだろう。
「これは命令です! もし、この事を口外したら……それ相応の処罰を与えます」
「それ相応って?」
アオの問いに、王女は怪談でもするような暗い顔になって……
「そうですね……ヨフアルを永遠に食べれなくなる位、恐ろしい罰が下るでしょう――」
マテ……なんか、すんごい軽い罰に思えるんですけど――
「そんな……もうヨフアル食べちゃダメなの?」
「そんなのヤダー!!」
――ガキ共には効果抜群のようだ。
「それは、口出ししたらの話です」
「オルファ、絶対に口出ししないよ!!」
「私も!!」
あ、佳織のガキも苦笑いしている。
つーか王女さん……なんとなく子供の扱いに長けているよな。
そして、暗い雰囲気は何処かへ消えていた――
やるな、ヨフアル王女め……
その後……色々と雑談が進んだ――
主に佳織とかいうガキの話だが――
その内容は……自分の周りの人の話だ……
初めに、『岬 今日子』という女の事――
別名、今日ちゃん……
話を聞く限り、気さくで姉御肌の女性らしい。
ハリセンを片手に持って、いつもソレで佳織の兄……略して高嶺兄を起こしているそうだ。
陸上部に所属していて、結構な記録を残しているらしい。
……で、そいつの彼氏が『碧 光陰』という男の事――
兄の幼馴染の優しい先輩だそうだ。
実家は寺で、その家を継ぐらしい……
そして、自他共に認めるロリコンだそうで……
『夏 小鳥』……佳織のガキの親友――
高嶺兄に恋をしていて、毎日アタックしているらしい……
結果はいつも空振りで終わっているそうだ。
占いが大好きだそうで、家に行くと占いの雑誌ばっかり転がっているという。
『秋月 瞬』……高嶺妹の幼馴染だそうだ――
秋月という名前は、俺も知っている――
有名な資産の一族だ。
当主である秋月氏とは、少し面識が有ったりもする。
有るといっても、師匠がやる筈だった仕事を譲ってもらった時に、少し挨拶しただけだけど……
……けっこう、優しげな人だった印象がある――
だが、高嶺妹の話を聞く限り……そうでもないらしい……
秋月家は、完全放任主義だったそうで……息子が入院しても、一回も顔を出さなかったらしい――
その頃、高嶺妹が入院している友達のお見舞いに行くとき、病室を間違えて遭遇したのが始まりだったそうだ――
仲良く暮らしていたが、高嶺妹の両親が死んでから……急に性格が変わったらしい――
『高嶺 悠人』……苗字から解る通り、高嶺兄である。
本当の兄妹ではない……義理の兄だそうだ……
その兄の両親は死んで、高嶺家に引き取られたが……間もなく、飛行機事故で高嶺家の両親も死んだそうだ――
悲劇の主人公よろしくという設定だ――
補足として、高嶺妹も巻き込まれたが……奇跡的に一命を取り留めたらしい。
その兄は、飛行機事故の慰謝料を受け取らず……日々、学校に通いながらバイトで生活費用を稼いでいるらしい……
高嶺妹に近づく男性をガン付け、悉く撃退しているようで……
おかげで、高嶺妹にはボーイフレンドが居ないそうだ。
当然、高嶺妹の幼馴染である『秋月 瞬』とは犬猿以上の仲である。
話を聞く限り……『シスコン』の四文字がピッタリと似合う――
そこで俺は気づいてしまった。
高嶺妹……そう、佳織のガキが……兄の話だけ嬉しそうに、しかも頬を染めながら嬉々と話しているのだ!!
もし、俺の仮説……ブラコン節が正しいとしたら――
―― 艦長!! あの2隻の距離は既に危険領域に達しています!! ――
―― まて、あのBとS属性同士は……危険過ぎるぅ!! ――
―― このままでは、こちらにも影響が……ああ!? 計器類が暴走を!? ――
俺の頭は既にパニック状態だ。
つーか、こんな危険物チョイスが現実で存在するなんて、聞いたことがねえ……
それになんだ? この鳥肌が立つ感覚は!?
このままブラコン娘の話題が続くと、俺が耐えれそうにないので話題を変えるネタを投入する――
『アオ、この世界に名前なんてあるのか?』
「……え?」
『通訳!!』
「あ、うん……ねえねえ――」
「アオ、どうしたの??」
「雫が、この世界に名前はあるの? って聞いてる」
「それは、この大陸の名前ですか?」
――話題変換完了……助かった。
「『いや、俺達の世界は『ハイペリア』だろ? だからこの世界中の名前はあるのかなって』」
「文献はかなり読んでいますが……この世界に関する名前は載ってなかった気がします」
「じゃあさ、私達でこの世界の名前をつけちゃおうよ!」
「あ、それいいね♪」
良かった……本当に良かった……高嶺妹も話しに乗ってくれた。
「名前……う〜んっと……」
「えーっと……」
ガキ共はうんうん言いながら悩んでいる
「やはり、世界の名前など……そう簡単に浮かばないものですね――」
――そらそうだろう。
俺達の世界で、地球という名前を別の名前にするとしたら? っといわれても、ピンと来ないし……
「……ファンタズマゴリア……っていうのはどうでしょう?」
――ふぁんた……何??
「ファンタズマゴリア……ですか? ちなみに、どのような意味なのですか?」
「えっと……深い意味は無いんですけど、なんとなく……」
『幻想』って意味合いが含まれているのが何となく理解できる。
マゴリアって部分は、適当なネームセンスによるモノだろうな……
――もしくは、何処かの版権物のパクリか?
「良いのではないでしょうか?」
「うんうん、とっても良い名前だと思う♪」
「……雫は、どう思うの?」
『別に世界の名前なんて知ったことは無いけどな……別に、良いんじゃないの?』
「雫も、とっても良いって言ってるよ♪」
――なんで、そんな風に解釈できるんだ?
まあ、いいけどさ……
「――では、決定ですね」
そうして、この世界に名前が刻まれた――
幻想なる世界――
――ファンタズマゴリアと……
あとがき
佳織との対面終了です。
どんな話題にしようか、散々迷ったところ……雫という存在をぶちまける事で解決しました。
毎度恒例となっている補足コーナー
王女が口止めした真意は、ハイペリアからの訪問者『雫』の事をラキオス王に知られたくなかったから。
もし、ラキオス王が知れば……雫はラキオスの研究部に送られると思ったからです。
王女が例えた罰の重さについてはご想像にお任せします。
雫がブラコン・シスコンを見て鳥肌が立った理由については、『のろけ話』が嫌いなだけです。
きっと、想い人が出来て結ばれたら、耐性ができる筈です♪
次はいよいよ宣戦布告……
ちなみに、まだ悠人の出番はありません♪
――まだ、キャラが掴めないからじゃないですよ?
――ええ……決して、問題を先送りにしてるわけじゃありません……きっと……
<今話で出てきた用語>
ゴースト・エトランジェ(ごーすと・えとらんじぇ):雫が自分の状態を現した言葉
:直訳すると『幽霊の訪問者』という意味である。
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