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永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―


永遠神剣になっちゃった



Chapter 2  スピリットの日常

最終節 『マナの祝福があらんことを……』



 






 アオは、ベットに転がりながら……手に持った、淡い光を放つ首飾りを見つめている――



『……鎧の姉ちゃんって、器用なんだな』

「うん……」


『……ネリシア姉妹にも渡したのか?』

「うん……」


『元気出せ……って言っても、無駄だよな』

「うん……」



『ま、自分が納得するまで悩めよ』

「………うん」









 アオが元気が無いのは2日前の事……



その原因となったのは、今から5日前のあの時……





就寝時間から数時間後……ネリガキの言葉が始まりだった――





























「シアーが居ないの!!」

かなり焦った表情で、ネリガキが部屋に飛び込んできた……





『……とりあえず、最初っから話せよ』

「あのね――」















ネリーは言う……



トイレに行こうとして目覚めたらシアーが居なかった……と――















『……で?』

「それだけだよ」



『帰れ……』

「――なんでさ!?」



『つーか、ただ居なくなっただけで騒ぐなよ……ちゃんと館の中を探したのか?』

「うん……居なかった」

『じゃあ、その辺を散歩でもしてるとか?』

「シアーはこんな夜更けに散歩する筈無いもん!!」



怒りながら否定するネリガキ……本当に焦っているのが解る。



『あんまり心配しなくても良いと思うけどな……』

「……シアーちゃん、家出したの?」

「家出、なのかなぁ……」

今度は泣きそうな顔で悩んでいるネリガキ……

そんなネリーをアオは優しく声をかける。



「ネリーちゃん、今から探しに行こうよ」

「うん……」





『つーか、お前等……今度はちゃんと神剣を持って行け! 前みたいな出来事は御免だからな!』

「解ってるって、もぅ……雫は心配しすぎ」












『ネリーさんや……貴様にだけは、言われたくねえセリフだな……』





























――んで、現在……アオを抱えたネリガキが上空から捜索中……



ラキオスを中心に旋回するように低空を飛び回っている。





「雫、シアーちゃん居た?」

『……この辺には居ないっぽいぞ』

「シアー、何処行ったんだよぅ……」





『お前等……最近、シアガキとケンカとかしたか?』



「――してない!!」
「私もしてないよ……」


――だよな……俺から見ても、こいつ等の仲は良好だった。

『家出する理由がないじゃん……』





しかも、最近はネリガキが補習だった所為で、シアーの方がアオと遊ぶ機会が多い……



だから不仲で家出したという理由では無いだろう。









『何処か、様子が変だったとか?』

「「――あ!?」」





……思い当たる節が有るのな。



『……で、いつからよ?』

「……シアーちゃん、今日の夕方から様子がおかしかった」

「うん、おかしかった……」



『夕方、ね……』









今日の記憶を思い返してみる――



















――そういえば、龍の討伐が決定して……

エトランジェと第一詰所の奴等が近いうちに出撃するって、夕食時にセリアの姉ちゃんが言ってたな――



もし、あの龍の事だとすれば……シアガキはそこに行ったのかもしれない。







『ネリガキ、洞窟だ……シアーとお前が落ちたあの崖に行け!』

「うん、わかった」































 3ヶ月ぶりに訪れたこの場所は全然変わっておらず……相変わらず地面にポッカリと穴が開いている。



……その中に、ネリガキとアオは着地した。







嫌な思い出が蘇る……でも、それは過去のこと……もう過ぎたことだ。



改めて、索敵範囲を最大に伸ばす――









『…………………??』



ここから40mぐらい奥に、洒落にならないくらい強大なマナの塊――

たぶん、あの龍だろう……





その真近くに……小さな青スピリットの反応が一つ――



断定は出来ないけど、十中八九……シアーのガキだろう。







「雫、シアーちゃん……居る?」

『……たぶん、居る』



「もしかして、守り龍様も??」

『ばっちり居る……つーか、もう少し近づかないと詳しい様子が解らん』

「――解った。アオ、行こう……」

「うん……」









慎重に、洞窟を進む……



洞窟内を構成する岩が光っているため、暗くは無かった。















 そして、開けた空間に出た時……シアーがあの龍と泣きながら対峙しているのが見えた。









「――シアー!!」

その光景を見たとたん、ネリーが一目散にシアーの元に駆け出す。



『――おい!?』
「ネリーちゃん!!」



「……ネリー!? アオも……」



ネリガキは、神剣を構えながらシアガキを庇う形で龍を睨んでいる。

足元が少し震えているのを見て、龍は苦笑いのような冷笑を浮かべる。





『どうやら迎えが着たようだな……さっさと、この妖精を連れて帰るがいい』

そう言って、龍は洞窟の奥へ歩いていく。













ネリーは、安心しながらシアーに振りかえり……



「……シアー、帰ろう」

ネリーがシアーの手を掴んだとたん――





「――嫌ぁ!!」
「シアー!?」

ネリーの手を払って、龍の元へ走り出す。





「守り龍様、死んじゃ嫌です……死んじゃ……嫌なんです……う、うぅ……」

シアーは龍の元へ向かう途中で泣き崩れ、その場にへたり込んでしまった。



「シアー……」

ネリーは、シアーの元に駆けよって……あやす様に抱きしめる。











きっと、シアーのガキは……この龍のことが大好きなのだろう……















――この大陸に伝わる四神剣……『求め』『誓い』『空虚』『因果』――









――それらを扱うエトランジェは、幾度と無く龍を討ち滅ぼしたそうだ――







だから、シアーのガキは……その事を伝えに、ここまでやって来たのだろう……









逃げて欲しい……っと――







だが、シアーの反応を見る限り……龍はその願いを断ったようだ。











龍は、振りかえって……ネリシア姉妹に言葉を紡ぐ――





『泣くな、妖精よ……』

「でも……でもぉ……」



『我には使命がある、それを放棄するわけには行かぬのだ』



『――だからって、殺されたら同じなんじゃ……ないのか?』

俺の問いに、龍は考え込むように目を閉じ――



『そうかもしれぬ……だが、それが使命なのかも知れぬ』

『――は?』

『我は――否、我等は使命を受けて生まれてきた……だが、その使命が何であるかは解らぬ……』



『……何が言いたいんだ?』



『我が死ぬ事、それが使命であるかもしれぬ……と言ったのだ』

『使命だから、死ぬのは怖くないと?』

――むしろ、コイツは……その結果を望んでいるように見えた――





「……でも、私……守り龍様に……あの時のお礼を……返してない……」

『我の身を案じてる者がここにいる、それだけで十分なのだ……優しき妖精よ』











そんな時だった……アオの異変に気が付いたのは――





『――?? ……ア、アオ?』



「――おかしいよ、そんなの……」











解らないと、表情に出しながらアオは龍に問い掛ける。





「守り龍さん……シアーちゃんの事、好きなんでしょ?」

『妖精は、人間より嫌いではない……』





「じゃあ、なんで……シアーちゃんが心配してるの知ってるのに、どうして死のうとするの?」

『………………』

あの神々しいまでの威圧感を持つ龍が……初めて言葉に詰まった。







「シアーちゃんが守り龍さんに生きて欲しいって知ってるのに……なんで?」

『――なら、貴様等の仲間を殺して生き延びろとでも言うのか?』

「……え?」

『我はこの洞窟を離れるつもりは無い……そこに我を討とうとする者が存在するのなら、当然の行為だろう?』

「そ、それは……」







アオの目から涙が溢れる。



龍を助けたい……でも、それだと大切な人が死ぬ。











片方しか取れない……でも、どっちを選んでも後悔する道――









たぶん、アオが生まれて初めて突き当たった、理不尽の壁だ……























「しずく……」

泣きながら俺に助けを求めるアオ……









――でも悪い……俺には解らない。



言えることは……死にたいなら、放っておけばいい――









……それが俺が見つけた結論――























――でも、お前は違うだろ?













『お前は、なんで会ったばかりの龍を助けたいと思ってるんだ?』

シアガキの場合は、なんとなく解る……



でも、アオが助けたいという理由が解らない。













アオは俯いて……言葉を紡ぐ――













「だって、シアーちゃんが悲しむから……シアーちゃんの悲しむ顔を見たくない――」



























「それに……守り龍さんと……お友達に……なりたいから――」













俯いたまま、アオの涙が地面に落ちた。



























『守り龍さんよ、こんなセリフを聞いても……あんたは死を選ぶのか?』

『……………………………』







少なくとも、俺が龍の立場なら……生きようと思う。

ただひたすらに、純粋に……友達になりたいと願っている少女を目の前にすれば――

――誰でもそう思えるはずだ。







「ネリーも……ネリーも、アオと同じだよ! 守り龍様とお友達になりたい!!」

「……シアーも、です」





『お前達……』







『――で、守り龍さんの回答は?』

『……お前は、どう思っているのだ?』





『別に、死にたいのなら勝手に死ね……俺には関係無い――』

















『――って、思ってたけど……できるなら、お友達になりたい』









『自分勝手な人間だ――』

『正直な――って言ってくれ……んで、どうするんだよ?』



























『…………すまぬ……我はここを離れるつもりは無い』









「そんな……」













『そうだな……お前達になら――』



そう言って、龍は洞窟の奥へ歩き出す。









『ついて来い、お前達に託したい物がある――』



そんな言葉を残して――



























 洞窟の最深部――



そこに造られた小さな祭壇には、拳大の大きさの淡い光を放つ水晶が祭られていた。





『……我がこの世界に生を受けた時からある半身だ』

『受け取ってくれぬか……友として――』





「……アオ」

――ネリー達がアオの背中を押す。



「……はい……」

アオは祭壇へ向かって歩き出し、その水晶を手に取った――









『改めて、お前達に礼を言おう……我の身を案じてくれたことに……』

『我は此処を去ることは出来ない……だが、お前達の仲間を殺さずに生きる努力はしてみよう』







その眼は、優しく……力強く――











『その代わり、我が消滅しても……決して、お前達の仲間を恨まないでやってほしい』

『その者たちも、運命に囚われているだけなのだから……』











―― 己は簡単に死なない……っと、その瞳が物語っている。











『――では、また会おう……』



























『汝等に、マナの祝福があらんことを――』



























そう言って、龍は俺達を置いて引き返していった――











「ぅ、うぅ……」



アオやシアー、ネリーのすすり泣く声が、この空間に木霊している……









死なないでほしいと、そんな思いを込めて……いつまでも泣いていた……



























――それが最後……あの龍と過ごした一日の終わり――




















――あの日から3日後、エトランジェと第一詰め所のスピリットがサードガラハムを討ち取った――



























「………………ねえ、雫?」

『うん?』



「………………守り龍さん、頑張ったよね?」

『あたりまえだろう……最後の最後まで努力したに決まってる』



「そっか、そうだよね……」

アオは、無理やりに笑顔を作って笑っている……







『こんなところでウジウジしてないで、ネリシア姉妹と遊んで来い……きっと心のモヤモヤが晴れるとおもうぞ』

「……うん、解った♪」



アオは一人、机の上に首飾りを置いて……部屋を飛び出しネリシア姉妹の部屋へ向かう――









残された俺は、その首飾りに向かって祈りを捧げる――



























――我等が友、サードガラハムよ……



























――あの世でも、マナの祝福があらんことを……


















あとがき


サードガラハム編終了です。
シアーが登場する作品はシリアスしかないのは気のせいでしょう♪

 今までシアーが登場した話を見なおすと、シアー編はちょっとイマイチだったし、ハリオン編もスランプ……
よって、今回のシアーが出る話は感動できる作品を……っと思い頑張りました♪

ぶっちゃけた話……ネリシア編の完結版?


 日常編を改めて見なおすと……ネリシア姉妹とヘリオンの登場率が一番高い!?
まあ、アオと同じの子供ですから……当然の結果といえば当然なんですが――

 補足として、友の証として受け取ったのは『マナ結晶体』です。
本編でサードガラハム討伐後に再び洞窟へ向かうと発見できるあの結晶について悩んだ結果――
こういうストーリーがあっても良いのでは?……っと脳内完結したお話です。



次はいよいよバーンライト攻略戦前のお話に突入です。

異世界の訪問者、佳織と悠人との対面……どうなることやら……



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