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永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―


永遠神剣になっちゃった



Chapter 2  スピリットの日常

第10節 『セリア姉たんの些細な悩み事』



 






 第2詰所から少し離れた森の中――



……そこでアオは一人で俺を振るっている。





「いやぁ!!」





ヒュン……っと、情けなく空気を斬る音が響く――



 始めた頃はそれなりに力強かった剣筋も、今では見る影も無くフラフラである。











『……アオ、もう2000回は行ったぞ……十分じゃないのか?』

「まだダメだよ……セリアお姉ちゃんに叱られたもん……」

『あんまり気にしない方が良いと思うけどな――』











 アオがこうなった原因は、今日の訓練が終わるあの時――





























「アオ……あなた、生き残る気があるの?」

「……え?」





今日のセリアの姉ちゃんは機嫌が悪いのか……いつもと違うトゲトゲしい雰囲気を出していた。





「そんな太刀筋、実戦に出たら10回は殺されてるわよ」



「……でも――」

「でもじゃない!!」





アオが言葉を紡ごうとするも、セリアの姉ちゃんは一刀両断し――






















「正直、足手纏いなのよ……アナタは――」






















アオの胸を抉るような言葉を言い残し、セリアの姉ちゃんは訓練所を後にした。






















アオは、呆然と……その場に立ち尽くしていた――



























 今もアオは、泣きそうな顔で俺を振っている……





自分は足手纏いではない……っと、否定したい一心で振るっている――







『――ったく、もぉ……』

「………………………」



俺の溜息を無視して、アオは俺を振りつづける――





『アオ、すでに2500回行きました……その記念に、お前に残念な知らせがある』

「――?? ……なに、残念って?」



『お前が今まで俺を素振りしてたけどな……ほとんどが無駄に終わるんだよ、無駄に!!』

「……?? どうして?」



『――訓練とか勉強とかは、結局のところは積み重ねだ』

『お前が体調壊すまでやろうが、人間一日に覚える量には限界がある――即ち、限界以上の努力は無駄なんだよ』



「……そう、なの?」

『――そうなの、更に人生の先輩として言わせて貰うとな……セリアの姉ちゃんの言葉を真に受けんな!!』

「…………でも」

『でももクソも無い! いいか、セリアの姉ちゃんはもう少し腕上げないと危ないぞって言ってるんだよ』

『足手纏いっつーのは、照れ隠しで『私が守ってあげる』って言ってるのと同じなの!』



「……え、そうなの!?」



『………………………………ああ、きっとそうだ!!』





――だぶん……自信は無いけど……

――きっと心の1%ぐらいは考えてるはず……だよな?





 納得したような顔で、笑みを浮かべるアオ

「……雫って物知りなんだね♪」

『………………………………ま、まあな』



最初の言葉は師匠の受け売り、セリアの姉ちゃんの言葉の解読は適当……つーか、ノリで言っちゃったし……



――少し、胸が痛い……















「じゃあ、今日はこの辺で終わるね」

『そうしろ、さっさと風呂に入って寝ろ!』







――そういえば……なんで今日に限って、セリアの姉ちゃんはいつもより機嫌が悪かったのだろう……




















……女の日(生理)か?




















「――あ!?」



 俺が下らない事を考えている時、アオの声で現実に呼び戻された



『――? どしたん?』

「訓練所に鞘忘れちゃった……」

『……お前、鞘いつも背負ってなかったか?』

「今日、訓練中に着替えたんだもん……」





――そうだったけ?

改めて、今日の一日を振り返る――





着替えた記憶もあるし、鞘が置きっぱなしだった記憶もある――





『……じゃあ、さっさと取りに行こうぜ』

木の枝に掛けてあるタオルや水筒を手に取り……俺たちは訓練所へ向かった――



























『……?』



 訓練所に付いた時……ヘリオンのガキが一人の青年の背中を呆然と見送っていた。

その青年の姿を感じたのは、一瞬で……既に索敵範囲外に移動してしまったようだ。





「ヘリオン……ちゃん?」

アオが話し掛けても全然反応が無い――



「?? ヘリオンちゃ〜〜ん?」

ヘリオンのガキの目の前に立ち、自分の存在を主張するも……効果は無かった。



「……雫、どうしよう……ヘリオンちゃん立ったまま寝てる……」

『そりゃまた、凄い器用な特技だな……きっと何度も練習したんだろうな♪』

「そうだね、凄いやヘリオンちゃん♪」









――ごめん、流した俺が悪かった……



このアホ娘にツッコミを期待するなんて、どうかしてた――











『――んなはずねえだろ! 目ぇ開いてんだろうが!!』

「……じゃあ、なんで反応しないの?」

『知らねえよ……まあ、起こす方法は思いつくけど――』

「――どうするの?」





『……ヘリオンの後ろを指差しながらアウルが居ると大声で叫べ』

「?? なんで?」

『絶対気がつくと思うから……』







 渋々、アオがヘリオンを真正面から見つめる……



そして、決意したかのように……アオは指を天にかざし――











「――あ、アウル様だぁ!!!」


――犯人は、お前だ!!











――っと聞こえんばかりの勢いで、ヘリオンの真後ろを示すように振り下ろす……























「…………………………」

――だが、反応はナッシング……

アオの声がエコーしている……その事実が、ちょっぴり涙を誘う。









「雫の嘘つき……」

『――馬鹿な!?』







しかし、これで反応しないとなると……どうしたら良いものか?



――いっそのこと水ぶっ掛けてみるか?

それで気づかなかったら……熱湯とか? いや、それはさすがに人として外れてる――



……代わりに手足を縛るのも有りか――











――まあ……どちらにしろ、面白くなりそうだ♪











『よし、今度は水……いや、ロープで足を――』

「ふぇ? ――え!? あ、アウル様!?」



俺が言い終える前に、後ろを向いて背筋をビシッっと伸ばすヘリオンのガキ……







「あ、起きた♪」

『――っち……』

時間差で戻ってきがった、もう少し遅ければ面白くなりそうだったのに……







「あれ? あれ?」

……真後ろに居るアオに気がつかないで、きょろきょろと周りを見渡しているのは滑稽だ。



「ヘリオンちゃん……」

「わひゃ!? あ、アオさん……驚かさないで下さいよぅ……」

「それより、さっき固まってたけど……どうしたの?」



アオの問いを聞いたとたん、ヘリオンのガキの体がガチガチに硬直し……震えだした――



「……わ、わわ、私……は、話しちゃったんです……」

『「――何を?」』

「誰かが訓練してるな……と思ったら、え、えとえと……エトランジェさまで、
 わわわたわたし……はわわわわ、そういえば名前を喋るの忘れちゃいました!?」



自分で状況を説明しながら、自分に突っ込んでる自滅っ娘……



『とうとう壊れたか……可哀想に、まだ若いのにな――』

「……ヘリオンちゃん……お水飲む?」

「――い、頂きます!!」



アオが渡した水筒を一気飲みし、数分前の出来事を教えてくれた――















ヘリオンが一人で訓練してる最中、他の場所で誰かが訓練している気配を感じて様子を見にきたらしい。

すると、鎧の姉ちゃんとエトランジェ様が訓練していたそうだ。

結果は……エトランジェがボロクソに負けていたらしい……



そこで、ヘリオンが自分のタオルを渡して会話したと……まあ、そういう事だ。















「――ど、どど、どうしましょう!? あのタオル……私が使った後のを渡しちゃいましたよ? ば、ばっちいですよ!?」

『いや、その位大丈夫だろう……変態じゃなければ――』

――いや、ノーマルでも嬉々として使いそうな気がする――



「ヘンタイ??」

『……その人種に会ったら教えてやる』







「私ってなんでこう、おっちょこちょいなんでしょう……ぅぅ、きっと今ごろ軽蔑されてますよぅ……」

いつの間にか、ヘリオンは四つん這いになって泣いてるし……


「ヘリオンちゃん、雫も大丈夫だって言ってるから……きっと大丈夫だよ♪」

「アァオォざあぁん……」

泣きながらアオにしがみつくヘリオンの頭を、よしよしと撫でているアオ……

















この光景を見て思う――















――ヘリオンのガキの精神年齢はアオよりも低かった――























――俺的には15へぇ〜――























――『ガセビア』である事を切に願う――




























 数十分後、ヘリオンのガキは落ち着きを取り戻し、頭を冷やしてくると千鳥足で外へ向かった。

――よほどタオルを渡した事がショックだったのだろう……男心が解らない乙女の末路である。


















「ヘリオンちゃん……大丈夫かなぁ?」

『またエトランジェ様とやらに会えば復活してると思うぞ?』

外は既に夜……散歩をかねて、俺たちは訓練所の裏にある森を通って帰宅中――







そこで、見知った奴を見つけた――





「――あれ? セリアお姉ちゃん??」

『……何してるんだ、あの姉ちゃんは?』

10mぐらい先で……セリアの姉ちゃんは落ち込んでるように木に背中を預けていた――









「セリアお姉ちゃ〜ん!」

「――!? ……あ、アオ?」



「どうしたの? なんか、元気ないよ?」

「………………………」

「悩み事?」

「………………………………………………」



アオの問いに深く悩んで……セリアの姉ちゃんは重い口を開けた――




























「アオ、私って…………そんなに怖い?」





















『「――――へ?」』

空耳と疑うような言葉が聞こえた――









「いや、いいの……今のは忘れてちょうだい」

馬鹿げた事を口にした……と、表情に出しながら立ち去ろうとするセリアの姉ちゃん。



「待って、セリアお姉ちゃん!!」

アオがセリアの姉ちゃんの手を掴む――


「……いいのアオ……自分でも解ってるから」

――しかし、哀しいかな……ズルズルとアオは引きずられていく――


「どうしてセリアお姉ちゃんは、自分のこと怖いって思うの?」

……ピタリっと、セリアの姉ちゃんの足が止まる――


「…………………………そ、それは――」















 原因は……青ガキ姉妹の言動が発端だったらしい――



自分の部屋に戻ろうとしたとき……偶然にも、青ガキ姉妹の扉が少し開いていて……



そこから漏れた会話を耳にしたらしい――









曰く、「セリアって、なんか怖いよね」

曰く、「みんな、セリアを怖がってるんだよ」





その言葉がショックで落ち込んでいたらしい……









――なんというか、女の子しちゃってるなぁ……っと感じる一面である。



















「――そんな下らないことで悩んでいた訳よ……どうせアオもそう思ってるんでしょ?」

「えっと……セリアお姉ちゃんは厳しくて、とっても怖いって感じる――」



















やっぱり……っと、自虐的な笑みを浮かべている。



















「――けど……セリアお姉ちゃんの事、大好きだよ?」



















――瞬間、セリア姉ちゃんの表情が凍った――



















「――な、なぁ、なっ!?」

いや、予想していなかった答えと……真正面から『大好き』と有り得ない言葉を聞いて顔を紅くさせている――





「あ、アオ……そんな恥ずかしい言葉を言って恥ずかしくないの!? ……その前に私のことダイスキって……本当に?」

「――うん♪」



――まるで告白されたように、耳まで紅くしてるよ……声も裏返ってたし――















「嘘よ……だって、今日あんなに酷い事言ったのよ……なのに……なんで??」

「酷くないよ……だって、セリアお姉ちゃん……私の事を思って言ってくれてたんでしょ?」



「ぁ……ぅ……」

純真無垢なアオの告白の前にして……すんごい居心地が悪そうな顔をしているセリアの姉ちゃん……



――つーか、俺の所為?? 適当に解釈した俺の所為なのか??







「と、とにかく……人前でスキとか、そんな恥ずかしい事を言っちゃダメだからね!!」









その雰囲気に逃げるように立ち去っていくセリアの姉ちゃん――



















――その顔は、恥ずかしさ全開で、怒ってて――



















――罪悪感を感じていて……それでいて、何処か嬉しそうな――



















――そんな複雑な顔だった――




















あとがき



セリア編、終了でございます。

私の中のセリア姉たんは、冷たい言葉には耐性がありますが……誉め言葉とかの耐性が皆無だと認識しております。

補足として、セリア姉ちゃんが機嫌が悪かった理由はに関しましては
龍を討つという無謀な作戦が決定された事と、バーンライト戦が近いからピリピリしていたとそんな訳です♪

ヘリオンと悠人が会う時間軸が少しオカシイですが……それは雫が訪れた事によって発生した時間の歪みの所為とお考え下さい。

――解りやすく言うと、平行世界なんです!!
多少の誤差から大きい誤差は仕方が無いんです!!(もろ言い訳……



っとまあ、そんな事はさておき……次はいよいよ日常編最終日――

――平和な一時の終わり……それは、訪問者が現れたことによる必然の摂理である――



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