永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity
Sword―
永遠神剣になっちゃった
Chapter 2 スピリットの日常
第9節 『ほのぼのティータイム♪』
「♪〜♪〜〜♪〜〜」
快晴と思えるような天気の中、ハリオンの姉ちゃんは鼻歌を歌いながら洗濯物を干している。
「えっと、ハリオンお姉ちゃん……この格好……動きにくいよう……」
アオもアオで、メイド服なんぞ着て洗濯物をハリオンの姉ちゃんに渡している――
「アオちゃん……そんな事言っちゃ〜、めっ、ですよ〜……これは、お家のお掃除をするための仕事服なんですから〜」
「はい……」
『………………』
――嘘だ……絶対、嘘だ……コイツ、楽しんでやってるよ……
――でも、許す……むしろ称える♪――
「ハリオン……新しい洗濯物です……」
「……です〜」
……シアーのガキンチョは、ともかく――
――ナナルゥの姉ちゃんも同じようにメイド服を着ているから♪
事の起こりは二時間前……ハリオンの姉ちゃんの講座が終わった時だった――
「では〜、今日の補習はオルファちゃんとネリーちゃんだけですね〜」
「え〜!?」
オルファのガキの抗議の声があがる中……ネリーのガキはアオを睨みつけている――
――正確には、俺っぽいが……
まあ、ネリーのガキンチョに睨まれる理由は思い当たる……
きっと、今回の授業で……ネリーのガキにアドバイスしなかったのが原因だろう。
それも当然、ヒミカの姉ちゃんに嘘を吹き込んだ罪は重い……
――あと1週間ぐらい罪の重さを味わうがいい――
『や〜い、ざまぁーみろぅ♪』
「こ、このぉ……覚えてなさいよぅ……」
あえて言わないが……一時間も経たない内に忘れる可能性は大だ……
それにしても、ネリーのガキが質問に答えられずにアタフタする姿を見るのは、本当に楽しかった♪
むしろ心の底から笑ってやった♪
「? ネリー……誰と話してるの?」
「……別に……なんでもない……」
今回の補習はネリーのガキも残るから……オルファのガキは少し嬉しそうである。
まあ、オルファのガキは……ネリーと俺が話せる事実をまだ知らない。
だって、話せることを知ったら……何故、ネリーのガキンチョが『補習に縁が無くなったか』を悟られるからだ。
「アオ……どうする?」
「……どうしよう?」
あの家出事件から結構な月日が経ってるけど……二人はまだどこかで遠慮している気配がある。
初めと比べると、仲良しと断言できるが……まだ何処か、ぎこちない――
――ネリーという安定剤がある条件でアオとシアーは毎日のように遊んでいたが……
その安定剤が無い現在、どうすればいいのかアオとシアーは悩んでいる。
「二人とも〜、お暇そうですね〜♪」
悩んでいるアオとシアーのガキの肩に背後から手を置くハリオンの姉ちゃん……
――つーか、いつの間に回り込んだんだ!?
「じゃあ、じゃあ、じゃあ〜……私のお手伝いしてくれませんか〜?」
「「……………………」」
別にネリーのガキが終わるまで暇を持て余すだけ……
そう思ったのか……二人は、二つ返事で了承した。
「は〜い♪ お疲れ様でした〜♪」
洗濯が終わり、ハリオンの部屋で紅茶とケーキらしきモノが並べられる。
「ケーキだぁ……」
『……ケーキ!?』
シアーの呟きに驚きを覚える。
――大発見……この世界とハイペリアの共通の名を持つ食べ物!!――
……こんな偶然ってあるんだな。
「ネネの実を使ったケーキだそうですよ〜……この味、今日初めて食べるんですよぅ♪」
そう言って、席に座るハリオンの姉ちゃん……
「そういえば、雫は食べれないんだよね……」
『甘いもん全般は嫌いだから気にすんな』
しんみりと申し訳なさそうに喋るアオ……
その配慮だけで、正直嬉しかったり――
「そっか、嫌いなら大丈夫だね♪」
あ〜む♪……っと、ケーキを口に運ぶ。
「――おいし〜♪」
そして、幸せの絶頂のような顔をするアオ……
――訂正……ちょっとムカツクよ、コイツ……
「はぁ……やっぱり甘いものはいいですねぇ〜」
頬に手を当て、自分の世界に入り浸っているハリオンの姉ちゃん。
「〜♪」
シアーのガキも、嬉しそうにケーキをパクついてる。
「これは、もう少し甘味を抜いて、酸味を増やしたほうが良いかもしれません……」
ナナルゥの姉ちゃんは、いつも通りに無表情に食っている。
――つーか、結構グルメ派だったり?
「たしかに、すこし甘すぎる気もしなくもないですね〜♪」
『アオはどうよ?』
「……? なにが?」
『甘すぎないかって聞いてるの?』
「――なんで?」
『……もういい……』
ニムニムの気持ちが痛いほど良くわかる……
このパターンになったら、決して勝ち目は無い。
ニムニムが命を張って証明してくれた、この事実を無駄にはしない――
『とりあえず、食ってろ……お前に話を振った俺が馬鹿だった』
「雫、バカなんだ……」
『お前よりバカじゃねえよ! この馬鹿!!』
「私もバカじゃないもん!!」
『あ〜、はいはい……お姉ちゃん達が奇特な目でこっち見てるから怒鳴るのやめような♪』
「む〜〜……ふんっだ!」
プイっと別方向を向いて再びケーキを食べ始めるアオ……
――ケーキを口に運んだ瞬間、ムスッっとしてた顔が……にへら〜っと緩むのはご愛嬌というか、なんというか……――
「そういえば〜、アオちゃんとシアーちゃん?」
「「??」」
「まだケンカしてるんですか〜?」
のほほんとした顔で、アオとシアーのガキの急所を抉る……
――意外にエゲツナイ姉ちゃんだった。
「……ケンカしてないよね?」
「……うん」
アオとシアーは顔を顔を合わせて頷く。
「……嘘、ですね」
そんなアオ達をハリオンの姉ちゃんは珍しく真面目な顔をして睨んでいる。
「まだ何処か……顔を合わせると胸の辺りがウズウズしてるでしょう」
「「………………」」
二人は、少し沈んだ顔で同時に頷いた。
「アオちゃんは、シアーちゃんのことが嫌い?」
「嫌いじゃない……」
「シアーちゃんは、アオちゃんのことが嫌い?」
「…………嫌い……じゃない……」
「じゃあ、いいじゃないですか〜♪」
さっきの真面目な顔は何処へやら……いつも間にか、のほほんとした顔に戻っていた。
「アオちゃんはシアーちゃんが好き、シアーちゃんはアオちゃんが好き……
……遠慮する必要なんて何処にも無いんですよ〜」
「……遠慮?」
アオの言葉に、ハリオンの姉ちゃんは座ったままロボットのようなジェスチャーを繰り出している。
「そうですよ〜……なんかこう〜、カチカチ……って動きがぎこちないんですよね〜♪」
「確かに……シアーとアオが顔を合わせるたび、身体が多少硬直しています」
ケーキを食べ終わったナナルゥの姉ちゃんが口を挟む……
「「…………………」」
アオとシアーの二人は、互いの顔を見ながら悩んでいる。
まあ……改めて遠慮するなと言われても、胸のモヤモヤが晴れるわけではない。
俺が思うには……時間が解決してくれるとは思うが――
「どうすればいいの?」
「それは〜、教えられませんね〜♪」
意地悪そうな顔で、シアーのガキの問いを流すハリオンの姉ちゃん……
「私はシアーちゃんでは有りませんから、シアーちゃんが答えを見つけないと〜」
「…………雫……」
『俺に振ってもダメだ……つーか、教えられない』
――というか、俺もどうすればいいか解らない……知ってたら既に教えてる。
「……う〜ん」
「うーん……」
悩んでいる二人をニコニコと微笑みながら、ハリオンの姉ちゃんは言葉を紡ぐ――
「アオちゃんとシアーちゃんって……二人っきりで遊んだことってありますかぁ?」
――つーか、この姉ちゃん……わざと聞いてないか? 尋ねてる口調が何処か白々しい……
「……無いよね?」
「うん……」
「それじゃあ、たまにネリーちゃん抜きで遊んだらどうですか〜?」
沈黙が訪れる――
シアーのガキは地面を見たまま黙ってるし、アオもアオでどうすれば良いか迷ってるといった所か――
数分ぐらい経った時、シアーのガキが一人で歩き出し……ドアを開けて出て行こうとする――
「…………シアーちゃん?」
アオが不安そうな声でシアーのガキの名前を呼ぶ――
――すると、シアーのガキは手を差し出して……こう言葉を紡ぐのだ――
「……アオちゃん、行こ……」
「……ぁ、――うん♪」
不安そうだったアオの表情は正反対の様に明るくなり、シアーの手を取って部屋から出て行く――
食べかけのケーキを残して、二人は外へ飛び出した――
窓から二人が遊びに言ったのを確認したハリオンの姉ちゃんは安心した表情でイスに座った。
「ハリオン……まさか、この為に2人を……」
「さあ、何のことでしょうかね〜♪」
とぼけた表情……でも、どこか悪戯が成功したような顔――
そんな顔でハリオンの姉ちゃんは、のほほんと紅茶を口に運んだ。
ナナルゥの姉ちゃんも僅かに、ほんの僅かだが――
――微笑と取れる表情で苦笑いした後、若干冷めた紅茶を口に運んだ――