永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity
Sword―
永遠神剣になっちゃった
Chapter 2 スピリットの日常
第7節 『絆 <後編>』
神剣魔法の直撃を食らったアオの服は燃え、腹からはファーレーンの姉ちゃん以上に出血している――
つまり、ファーレーンの姉ちゃん以上にマナの漏れが激しい――
『おいアオ!! テメェ、ふざけんなよ!!』
ファーレーンよりも早くアオは霧になる……そんな確信が頭から離れない――
「……あ、アオ……さん……」
ヘリオンも呆然としてアオを見ている……
「なんで……なんでアンタまで……っ、ヘリオン! アオをお姉ちゃんの隣に並べるの手伝って!!」
「は、はい!!」
密着に並べられた二人の上に神剣を置いて……ニムのガキは、その上に自分の手を置く――
「『曙光』……お願い、アオとお姉ちゃんを……私はどうなったっていい……私の全部を使ってもいいから、二人を助けて!!」
マナが集まる……だが、それは回復とは別のマナに構成され消えていく――
「――っ、お願い……曙光……おねがいだから――」
涙を流しながら……ボロボロと涙を流しながら大気のマナと自分を構成するマナを送る――
――回復のマナが現れないまま、マナの光は薄く……消えていく――
――すると、ヘリオンも一緒に……アオ達の上に真剣を置いて、その上に手を置いた……
「失望……わたしのマナを使って……ニムさんの力に……アオさん達を助けてあげてください!!」
「ヘリオン――」
マナの濃さが更に強まる……
――だが、二人の必至の思いに反し……全く傷が塞がらない――
……マナってのは、俺にとって生きるためのエネルギーってのは解ってる……
マナを失ったら、俺はあの黄金の霧に姿を変えて消滅するのだろう――
しかも、ニムのガキがいま唱えてる神剣魔法は……回復じゃなく別の魔法だ……
だから俺のマナを分け与えれるとしても――
――無駄だ! 救える筈が無い!!
――でも、こんな光景を見せられたら……やらない訳には、いかないじゃないか――
『俺も……どうやってマナを集めるのか、送るのか解らないけど――もし聞こえるのなら俺からもマナを持っていけ!!』
――こんな状況で、自分だけ傍観者という事実が耐えられない――
俺の思いが神剣達に通じたのか……マナの光は俺にも伸び――俺からも力を奪っていく――
「――雫? あんたも力を貸してくれるの?」
『当たり前だ、バカ!! それよりさっさと回復魔法を習得しろ! 全部無駄使いするな!!』
「……なんで、みんな……こんなこと無駄なのに――」
――でも、その顔は必死で……絶対に助けると……
「うわああああああああ!!」
――叫ぶ……力を振り絞ってニムは叫ぶ――
すると、その作用に別の色が訪れた――
そう、昔……ハリオンの姉ちゃんがセリアの姉ちゃんを癒すために集めた……アノ色のマナが構成されていく
「ニムさん!! 傷が……傷が塞がってますよ!!」
「っ、解ってる……話し掛けないで!!」
――傷は確かに、ゆっくりと、ゆっくりと塞がっていく――
――そう、『とても、ゆっくり』と……――
このペースでは、間に合わない――
俺達3人の力を合わせたマナの大部分は別の作用に持っていかれて、回復の要素を含んでるマナはごくわずかだ――
――間に合わない――
――無駄だ!――
――諦めろ!!――
――無駄な事に何の意味がある!?――
そんな思考を頭から蹴飛ばす。
もう、あんな……家出事件の後悔はごめんだ!!
俺は諦めない!! 無駄だと解っても、滑稽だと解っても……絶対に諦めない!!
それが唯一、この体になってよかったと思える教訓だから!!
――でも、本当にどうにもならない――
――このままでは、アオとファーレーンが消えるのは目に見えている――
――現実なんてこんなものさ――
……それくらい解ってる。
でも、あの時もこんな状況だった――
――だから、今回も絶対に現れる!!
「ニムントール!! ヘリオン!!」
――幸運の女神って奴がさあ!!
「……エスペリア? ……アウルも?」
「よく頑張ったな……ニムントール・グリーンスピリット、ヘリオン・ブラックスピリット」
「後は、私に任せてください」
ポンっとニムの肩を叩き、メイドの姉ちゃんが神剣を天に掲げる
「神剣の主、エスペリアが命じます。 癒しの風よ……彼の者達の傷を癒して!!」
此処一帯に充満したマナは、アオとファーレーンの姉ちゃんに注がれていく――
傷口は、瞬時に消え去りった。
「よ、よかったぁ〜〜」
ヘリオンのガキがゴロンっと仰向けになる……
「……ふぅ、疲れた……」
ニムのクソガキも、同じように仰向けとなる……
「……誰が休んでいいと言った?」
「し、しかしアウル様……ヘリオンとニムントールはマナを使い果たして――」
「知っている、だからこそミネアに戻るぞ……休むならそこで休め」
「で、でも……き、今日ラキオスに戻る予定では?」
「貴様とアオ・ブルースピリットの回復を待たずに出たとして、バーンライトのスピリットに出会ったら死ぬぞ?」
――確かに……
「だからさっさとミネアまで戻って、ゆっくり休めと言っている」
「アウルさぁまぁ〜〜……」
アオや仮面の姉ちゃんが助かった安心感とアウルが稀に見せる優しさの感動が絶妙にミックスされ、ヘリオンの目から涙が出た――
「俺は先に戻る……歩けるだけ回復したらさっさとミネアに向かえ! 言いたい事は以上だ!」
早足で、ミネアに向かうアウル……照れ隠しである事はバレバレである。
その後……メイドの姉ちゃんは仮面の姉ちゃんを背負い、ガキ共は交代交代でアオを背負ってミネアに帰還した――
アオは、ニムのガキの部屋で寝ている……
幾ら優れた回復でも、疲労や流れた血は回復されない……
まだ、顔の色は青い……それでも、確かな寝息が聞こえる……
――生きてる……本当に良かった――
ニムのガキは、ベットが占領されているのでイスに腰掛けて寝ている――
……実を言うと、ファーレーンの看病はメイドの姉ちゃんとヘリオンのガキがしている。
――このガキが言い出したのだ――
アオの看病は私がする、って……
意外と言えば意外だったが……心のどこかでは納得していた――
「仲良きことは、良き事かな……てな――あ!?」
目の前に広がる白い壁……
――何時の間にか、自分の内に迷い込んだようだ――
これで合計3回目だ……
アオは寝るたびに訪れているらしいが、俺はまだ3回しか訪れたことが無い。
そして、ここに迷い込む原因も謎……何が切っ掛けでここに迷い込むのかが全然解らない……
「――ま、いっか……」
解らないことは解らない……
別に謎を解けと脅迫されてるわけでもないし、ただ謎が此処にあるだけだ。
――そーいえば、アオは現在睡眠中だから此処にいるかもしれない……
そうと解ったら、やることは一つ……
――あいつを一発ぶん殴る事――
……そうしないと俺の気が収まらない
想像は簡単に出来る――
どうせ出会っても『あ、雫だ♪』とか言って……人の心配をよそに、アホな顔をして近づいてくるに違いない。
……そう思うだけで腹が立つ。
――とりあえず5発ぐらい、ぶん殴ろう♪
そう心に決め、俺は探索を開始した――
アオの居る場所は大体予測できるから、改めてじっくりと雫世界を探検する俺……
「…………」
病院の廊下を歩きながら思う……この世界は、本当になんなんだろう?
自分の世界と結論付けたものの……どこかが違う気がする……
大学、映画館は解る――よく通ってたから……
でも、病院なんて風邪になった時しか来た記憶が無いぞ。
っと、すぐ近くの部屋から物音が聞こえた。
物音が聞こえた部屋の前に立つと、急に静かになった……
「……アオ――じゃないな……」
あいつの場合、隠れるようなマネはしない――
――となると……該当者は一人しか居ない。
ガチャリっと、病室の扉を開ける――
ただ、ただ窓際にベッドが置いてあるだけの無人の病室――
何処か、懐かしさを感じさせる病室……
「……あれ?」
――本当に、風邪を引いただけでここに来たか?――
――風邪以外の理由で結構来ていなかったっけ?――
……そんな事は無いはずだ、病弱な姉が居るとか、自分が入院したなら話は別だが――
――そんな記憶、何処にも無い――
「――俺って結構謎が多い青年だったり?」
「――どう思うよ? そこのスピリット?」
「――!?」
ドアの影になっている死角から、怯えるような声が聞こえた――
ドアを閉めて、改めてその姿を確認する……
あのニムのガキがこちらを警戒している……
――ネリーのガキの時もそうだったが、なんでガキばっか訪れるんだ?
「そう警戒するな……、此処は何処? アンタは誰? っと聞きたいんだろう?」
――今の俺には未来が見える――
「……家に帰して……」
――見えたのは別の未来だったようだ――
「……ま、そんな事はどうでもいいんだ――」
「良くない!! ていうか、何で残念がってるの!?」
「気にすんな……」
「――で、アンタ誰?」
――第一声にそれを言って欲しかったな♪
「『時神 雫』――永遠神剣・第4位『雫』って言った方が解りやすいか?」
「……神剣? シズク?」
「そう、アオが持ってたアレ……」
「――嘘でしょ?」
「嘘の嘘、略して本当♪」
「…………………」
ネリーのガキと同じように固まる――
心の中でカウントして、20秒ぐらい立った後……ニムのガキはアクションを起こした。
「――え、だって……」
「此処は俺の世界……お前の目の前に居る人間は、俺の意思……本当の姿、OK?」
――なんつーか、ネリーのガキのやり取りまんまだな……
「何、おっけ〜って??」
「……理解できましたかって意味だよ!!」
ああ、もう……誰か英語がわかるスピリットって居ないのかよ……
「……まだ、信じられないけど……」
「後々わかる……とりあえず行くぞ」
「行くって……何処に?」
「あのアホをぶん殴るために!」
「――アホ? アオの事……此処に居るの!?」
「ああ、場所には心当たりが有る――」
「あ、雫だ♪ ニムちゃんも♪」
――案の定、映画館に居た……
そして、アホな顔でこちらに声をかけている――
「アオ、ちょっとコッチ来い♪」
手招きで呼び寄せる――
「――なあに?」
――アホな顔で、目の前に近づく獲物――
射程内に入ったとたん、両手を力いっぱい握りってアホ娘のコメカミを挟む――
「――痛!?」
――エンジン始動!! 出力最大!!
――サー、イエッサー!!
ぐ〜り、ぐ〜り、ぐ〜り、ぐ〜りっと拳を回転させる――
「痛い、いたたたただだだだ――」
「こぉ〜のぉ〜アホ子がぁぁ……俺たちにどれだけ心配させれば気がすむんだ!?」
「ごご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「謝ればいいってもんじゃねえぞ、このクソガキ――ったく……」
非情に不満だが泣き出されたら困るので、この辺で止めておく。
「うぅ……痛いよぅ……」
「お前、危うく死にそうだったんだぞ……ニムガキもどれだけ心配したことか――なぁ!?」
「わ、私は別に心配なんか――」
ぷぃ……、っと頬を膨らませて別方向を向くニムガキ……
――数秒後、何かに気がついたようにこちらに振り返った。
「ニムって呼ぶなぁ!!」
「――じゃあニムたん?」
「同じでしょうが!! それよりそっちの方が嫌だ!!」
「違うよ雫……ニム『ちゃん』だよ」
「――そっか、宜しくなニム『ちゃん』♪」
「それも同じ!! ちゃん付けするな!!」
俺以外のツッコミ役を初めて見つけた気がする……
――つーか、ボケ役ってこんなに面白いのな♪
「解ったよ、ニムたん♪」
「『たん』って呼ぶな!!」
「悪かったよ、ニムたん♪」
「っ!!」
「そう怒るな、ニムた――」
――弁慶の泣き所に、蹴り貰いました♪ それも強烈な――
「――て、テメェ……」
地面に這いつくばって痛みに耐える……
つーか、ガキといっても毎日訓練していることを忘れていた。
しかも、特別メニューの訓練の成果は……洒落にならないほど痛かった――
「ふん! 自業自得でしょ!!」
「――くそ……テメェなんてクソガキで十分だ!!」
「むしろ最初っからそう言えばよかったでしょ!」
おのれぇ〜〜、アオに『ニムニム』ってあだ名で呼ばせて、全員に蔓延させてやるぞコラァ……
「雫とニムちゃんって仲良しだったんだね♪」
「「どこが!?」」
――っと、そこで時間は来たようだ……
二人の体が、いつも通りに透けていく――
「……ちょ!? どうなってるのよ、コレ――」
「あはは♪――」
ニムガキは驚きながら、アオはその驚いているニムを笑いながら消えていく――
そして、いつも通りに俺は取り残され……歪む地面に沈んでいく――
――そうして、再び何も動かせない状態へ戻った――
そして、数秒後にニムガキの意識が覚醒する――
「――ん……あれ?」
『夢じゃないぞ、ニムニム♪』
「――っ!? そ、その声は……」
『目が覚めたか? ニムニム♪』
「にむにむって……」
『お前の新しい名前だよ、ニムニム♪』
「――っ、もう一回蹴り飛ばされたいの!?」
『やれるもんならやってみろ♪ お前の足が怪我するだけだと思うぞ、ニムニム♪』
「このぉぉ……あんまり調子にのらないでよね……」
『ごめん……俺って結構根に持つタイプだから♪』
「サイアク……」
『アオほどじゃねえと言っておきたい……』
アオという言葉に反応したのか、急に会話を断ち切ってアオをゆらすニムニム……
「アオ、起きてよ……アオ……」
「――むにゅう?」
「む、ムニュウ??」
『相変わらず起きる時は擬音喋るな、このアホ娘は……』
「あ、おはよ〜〜、にむちゃん……」
「おはよ〜じゃないわよ……で、体の調子は?」
「……ちょっと、ダルイ……あと、お腹減った……」
「じゃあ、早く着替えて――「アオさん!!」」
ロングヘアーの誰か……
そのガキは歓喜の声を上げて、泣きながらアオに近寄る。
「えっと、ヘリオンちゃん?」
「心配したんですよぉ〜〜、あの時はもうダメじゃないかって……」
目印のツインテールはして居なかったので解らなかったが、ヘリオンのガキらしい――
「ごめんね……心配掛けて……ファーレーンのお姉ちゃんは?」
「あ、はい……さっき目が覚めたみたいで「――本当!?」」
聞くや否や、ニムガキは、ドタドタと隣の部屋へ駆け出し……数秒後、泣き声が聞こえてきた――
――そして、ヘリオンのガキもその泣き声に誘われて、再び泣き出した――
――今日は、泣き声が良く響く……とても良い朝だった……