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永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―


永遠神剣になっちゃった



Chapter 2  スピリットの日常

第7節 『絆 <前編>』



 






「ほ、本当に……い、行くんですか?」

「え? 行っちゃダメなの?」


 仮面の姉ちゃんと別れてから作戦会議を開き、
まず本人から名前を聞いていないという事実より……初めに名前を引き出す事になった。





その理由は……名前を本人の口から引き出す事が友情を芽生えさせる第一歩……


――友情ドラマなどを統合的に見て、全てに共通する事項だから……







 作戦実行は、就寝時間一時間前……クソガキの部屋に突入し、改めて自己紹介をするという形である。





そして、今の時刻は就寝一時間前……クソガキの部屋の前である。







「い、いえ……がが、頑張ってください!」

名前を引き出す係り……すなわち、会話役はアオに任された。







この人選は、決定的に取り返しのつかない事になる気がする……



でも、ヘリオンのガキの場合も失敗するのは目に見えている。





















――そう、どちらにしても人材不足で勝てる見込みなど絶望的に無い――





















アオがクソガキの部屋のドアを開ける――


そこには、テーブルに座って何かを書き取っているクソガキの姿があった。







「――なによ?」

不機嫌そうな声でアオを威嚇する。



「えっと、私はアオ……」

自信なさげに、自分の名前を紹介するアオ――


「知ってる……」

だが、興味無いという口調でノートに文字を書くクソガキ……


「……こっちが雫……」

「……あっそう」





「……あぅ……」

『……めげるな、頑張れ』



俺の激励にコクッっと頷いて、アオは……お馬鹿な言葉を紡いでいく――























「ニムちゃんのお名前は?」

「……はぁ!?」


「――あ、あああ、アオさぁぁん!?」

『…………………』



――もう、何も言うまい……つーか、慣れた。



でも、これだけは言わせてほしい……

『ニムちゃん』の『お名前は?』――って……明らかにオカシイだろぉ!!







「なんか、色々と言いたいことがあるけど……とりあえず、邪魔」

「――? なんで?」


「っ!……あのね、今私、何してると思うの?」

再び怒鳴りそうになったが、それを押し止めて冷静になって話している……







「………………」

アオは、クソガキの様子をじ〜〜〜〜っと眺めている。













 数分後……アオは閃き、ニッコリと笑って――





















「――お絵かきだぁ♪」





















――導火線を無視して、爆弾の内部に火種を投入した……





















 既にクソガキ堪忍袋の限界は超えているだろう……

その証拠にコメカミがひくひくと震えてる。





――その気持ち、痛いほど解るぞ♪







「あわ……あわわわわ……」

つーか……動揺してねえでコイツの暴走を止めてやってくれ、ヘリオン!!









「――勉強してるの!! 文字書いてるのにお絵かきって有り得ないでしょうが!」

バン!! ――っと、クソガキは机を叩きながら立ち上がる。


「へえ……ニムちゃんって偉いねえ♪」

そう言ってアオは、敵意に近い視線で睨むクソガキに対して……背伸びしながら頭をナデナデしている……









――本人からすれば、とてつもない屈辱感に襲われているに違いない――









「ニムちゃんって呼ぶな! それと、頭撫でるな!!」

「え? でも、ハリオンのお姉ちゃんが、誉められることをしたらこうしなさいって……」

「撫でなくていい!!」

「……じゃあ、どうすればいいの?」

「どうもしなくていい!! 何もするな!!」



「……なんで?」



「っ〜〜!」

























――それからは泥沼だった……













 クソガキがあーだこーだと早口で理論展開させ、

その早口を聞き取れないアオは『なにが?』っと聞き返し……













 クソガキが解りやすく、ゆっくりと説明する……

――が、しかし……理解できず『なんで?』っと一刀両断する。













その言葉で更にブチ切れて、再び早口で言葉を紡ぐが……

――やはり聞き取れなくて『なにが?』っと答えるアホな娘……

















その繰り返し……終わりの無い繰り返し……英語でEndless Loop(エンドレス・ループ)と言う……



























俺とヘリオンのガキは二時間近い時間、その光景を呆然と見ていた……



























「ぅぅ……はぁ……」

――もう何を言っても無駄だと感じたのか、クゾガキは力なくテーブルに突っ伏した……













「??――あ、そうだ♪」



ポン♪――っと、何かを思いついたように手を叩いて、力なく突っ伏してるクソガキに向かってトドメに近い言葉を放つ――



























「それで、ニムちゃんのお名前は?」



























――むしろトドメだった――



















「…………ニムントール……グリーン、スピリット……」


もう、どうでもよくなったのか……喉が枯れた、力尽きた声だった……





当然だ、2時間近く大声で説明すれば喉も枯れる……

しかも、その内容が全く理解されて無いので精神的ダメージも計り知れない





「じゃあ、ニムちゃんって呼ぶね♪」

「……好きにして……」

「うん♪ あ、私はアオ・ブルースピリットだよ♪」


「そう……それで、そっちは?」

疲れた目で、ヘリオンのガキを睨む……

「――へ? あわわ、わた、わた「――ヘリオンちゃんだよ♪」……そう、です……」



喋ろうとしたのに、アオに先を越されて少し凹んでいるガキが此処に一人――。



「そう……それで、何か用でもあるの?」



















「無いよ……ニムちゃんの名前が聞きたかったから」



















「………………」

クソガキは、遠い目をしながら空を仰ぎ……再びテーブルに突っ伏した。





「…………じゃあもういいでしょ……出てって……」

ただ名前を聞くために、関係ない会話を2時間……しかも、疲労は自分だけという事実を理不尽と感じているんだろう。









――何度も言うけど、その気持ち……痛いほど解るぞ♪









「それじゃあバイバイ♪」

「し、しし、失礼しました――」









部屋を出る最中、「サイアク……」っという言葉が聞こえたのは、きっと幻聴じゃないだろう……



























第一次作戦・終了……



結果:成功??







――つーか、失敗だろう……



























『アオ……とりあえず、ヒミカの姉ちゃんかセリアの姉ちゃんに頼んで対人会話の勉強しような』

「……ハリオンお姉ちゃんとナナルゥお姉ちゃんは?」

『ありゃ論外……いいか、絶対に教わるなよ』

――特に、ハリオンの姉ちゃんには要注意だ――







「ど、どうしましょう……なんか更に悪化した様子ですよぅ!?」

「だ、だって雫が名前聞けって……」

『お前が暴走したんだろーが!!』



――今回の教訓、アオに重要な会話をさせてはイケナイ……前々から解ってた事実だけど♪――



























仮面の姉ちゃんの部屋で迎えた翌日……



珍しく起床時間前に起きたアオは、ヘリオンと共に再び作戦を練っていた。







「……本当に、遊びに誘うんですか?」

「うん♪」

『vol.2はそれかい』

「ばーじょん?」

『細かいことはいちいち突っ込むな……つーか、すでに結果は見えてると思うんだが……』

「なんで? まだお名前聞いただけだよ?」



……貴様は、昨日の惨劇を記憶すらして無ぇのか?



『第一、あのクソガキをどうやって遊びに誘うんだ?』

「え? 雫が考えてるんじゃ『お前が言い出したんだろうがぁぁーー!!』……むぅ、冗談なのに……」



イジケタ顔で膨れるアオ……

つーか、冗談に聞こえない……しかも、真顔で言うから本気にしか聞こえねえ……









「そういうわけで……ヘリオンちゃん、お願いね♪」

「はぇ!? わ、わわわ、私ですかあああ!?」

「昨日は私が話したから、ヘリオンちゃんも話さないと♪」

「う、そ、それは……そうなんですけど……」









――アオが青い悪魔っ娘に見えるのは気のせいだろうか?――



客観的にみれば――訂正、見なくても……自分のしでかした責を、相手に押し付けてる。



しかも、悪意が無いのが余計にタチが悪い……







『アオ、怖い娘……』

「?? 何か言った?」

『――別に』









作戦開始時刻は、朝飯が終わってから午前訓練が始まるまでの休み時間……


作戦行動時間は約30分――それまでに、あのクソガキと遊ぶ約束を取り付けることができるのか?





――不安だ……つーか、無理だろう……――



























――結果は……当然ながら無理だった――







「ぅぅぅ……わたしって、わたしって……」

「ヘリオンちゃん、大丈夫……まだ大丈夫だから……ね?」

















……詳細は以下のとおり――















「ニムさん……そ、そそ、そのぉ……」

「なに!? 忙しいんだけど!!」

「は、はひぃ……す、すす、すみませんでしたーー」















――以上……




……ニムントール・グリーンスピリットに怒鳴られ、ヘリオン・ブラックスピリットが敵前逃亡……




開始5秒、1ラウンドKO負けである。














『だから無理なんだって、諦めろ』

「……雫、諦めるの早すぎだよ」

『この面子を見れば嫌でも解るわ!』



超ドアホと超小心者……この駒でどうやって攻略しろと?

IQが300有ろうが500以上有ろうが絶対無理だと断言できるぞ。







「むぅ、じゃあ私が……」



























――結果、やっぱり無理だった♪――







『――言い残すことはあるか? このお馬鹿……』

「バカじゃないもん……」

















――詳細は以下のとおり……















「ニ〜〜ム、ちゃん♪」

「――っ!?」

「って、ちょっと!? ねえ、待ってよーー」















――以上……




声を掛けた瞬間、ニムントール・グリーンスピリットはハイロゥを展開し逃亡……




――アオ・ブルースピリット、追いつけず挫折……




開始1秒も持たなかった……むしろ会話すらなかった……














「次は雫がやってよ!!」

『無理だっつーの……』


「じゃあ、なにか考えてよ……」

――理不尽だ……



第一、この二人ではどうにもならんことは目に見えている……見た後だけど……



『とりあえず、もう時間だから仮面の姉ちゃんがいる訓練所に向かおうな……』



























「ふふっ、昨日ニムの大声が聞こえたと思ったらそんなことがあったの」

「……はぃ、そ、それで……更に状況が悪化しちゃって……」

ヘリオンのガキの昨日の出来事を笑いながら聞いてる仮面の姉ちゃん……つーか、笑い事じゃないだろう。


「でも、そんなに嫌われて無いと思うわ……」

「そう……かな……」

「ええ、ニムは嫌いな相手には口も聞かないから」











――今日の出来事を思い出す。




……既に、嫌われてるんじゃ――











「……あ、ああぁ……アオ……さん……」

ヘリオンのガキも俺と同じ事を思ったのか、顔を青くさせながらアオの名前を呟いている……



解っていたが、もう手遅れらしい……







「そっかぁ……うん、頑張る♪」

「そうそう、頑張ってね」













そんな事はそっちのけで、励ましあってる仮面の姉ちゃんとアオ……














その光景を、再びヘリオンのガキと呆然と見ていた……























 そんなこんなで、現在――仮面の姉ちゃん対ヘリオン・アオ組が対峙している。








全員の手には木刀……ヘリオンのガキと仮面の姉ちゃんは、反対側の手に木の鞘が握られている。


「とりあえず、私に打ち込んで下さい……反撃もしますから、その軌道もしっかりと見極めて防いでくださいね」

木刀を木の鞘に仕舞いこんで、いつでも木刀を抜けるように手を置いている仮面の姉ちゃん。





――その洗礼された構えは、威圧となってガキ共を襲う。





その威圧を振り切って、ヘリオンとアオは同時に駆け出した……



 先に仕掛けたのはヘリオンのガキ……居合を思わせる斬撃を放つが、鞘で弾かれる。

時間差でアオがヘリオンのガキを飛び越えて木刀を振り下ろすも、鞘から放たれた木刀によって軌道を変えられる。



「――っ!?」

だが……予想以上にアオの腕力が強かったようで、鞘に戻るはずの木刀の軌道も大きく逸らされていた。





――それを好機と取ったのか、ヘリオンのガキは瞬発力を生かし瞬時に横に回りこんで上段から切り込む――





しかし、それを読んでいたようにアオと衝突した衝撃を利用して回転……

ヘリオンの攻撃を避けると同時に攻撃を仕掛けた――







「――へぶ!?」

真横から、顔面に木刀がめり込む。



――正確には鼻に……





「――ヘリオンちゃん!?」

「っ!――やあああ!!」



隙有りと言わんばかりに脇腹を一突き……



――想像以上に木刀がめり込んでる……





「ふ、ふぐぅ……」

痛みに耐えかね、ポロリと木刀が落ちる。



『……うわわぁ』

見てるだけで痛々しい……









 二人は、攻撃された場所を両手で抑えゴロゴロと転がりながら悶えている……



その光景を見て……仮面の姉ちゃんが――

「……あの、その……ごめんなんさい……」

っと、深く頭を下げた――





つーか、謝るくらいならするなよ……















「うう……まだ痛い……」

「ごめんなさい……本当にごめんなさい」



ヘリオンは鼻を、アオは脇腹を摩りながら休んでいる……



ファーレーンの姉ちゃんはただひたすらに謝っていた。





「き、気にしないで下さい……で、でもファーレーンさん、さすがに強いです」

「ヘリオンちゃんも、瞬発力は凄いと思うわ……でも……」


「居合……の太刀ですよね……」

「ええ……型は完璧なんだけど、まだ鞘の使い方がおかしいの」

「はい、自分でもわかってるんですけど……」

「これだけはアドバイスじゃあどうにもならない……自分で感覚を掴むしかないの」

「………………」



ヘリオンのガキが沈んだ顔をしたその時だった……響く鐘の音を聞いたのは――









『――鐘の音?』



確か講座で聞いたことが有る……



「――敵襲!?」



そう仮面の姉ちゃんの言う『敵襲』を知らせる合図――







 それと同時に、訓練所からクソガキがこちらに走ってきた。







「お姉ぇ――って、げっ!?」



クソガキは、アオの顔を見るなり……出会ってはならない奴と対峙したような、渋い顔になる。



「ニム、衛兵の人から指示は?」

「まだ……鐘が鳴ったとたんにここに――」


「お前等、ラキオスのスピリットだな?」



ラキオスとは違う種類の鎧を着た兵士が、クソガキの言葉を遮るように現れた。



「ダーツィのスピリットが攻めてきた……貴様等は至急ダラムへ向かえ!」





「では、ランサは既に落とされたのですか!?」

「――道具である貴様等は知らなくていい、さっさと行け!!」

「「「「――はい!」」」」



道具……その言葉を当たり前のように受け入れ
規律正しい返事をした後、俺たちはミネアから南……ダラムとかいう町へ向かった。



索敵範囲を最大に伸ばし、慎重に……そして急いで南へ走り抜ける――





















ダラムに着いたとき……すでに街は戦場と化していた――



瓦礫で負傷した怪我子供や、家が壊される光景を苛立たしく見ている住人達――



それらを無視して、俺たちは町の中に入り込んだ――











 相手は1隊……隊列を組んで、敵襲に備えて破壊活動をしているようだ。

種類は黒、赤、緑、青が特徴の髪が一人ずつの計4人……すなわち、全種揃ってる。



4対4……数は同じだが、質ではこちらが勝っている――



「私はグリーンとブラックスピリット……ニム達はレッドとブルースピリットを……」

「お姉ちゃん……無茶しないで――」

「――ニムもね♪」



それを合図に仮面の姉ちゃんは駆け出す――







アオ達はアオ達で、ブルースピリットとレッドスピリットと対面する。

「はぁ、めんどう……」

余裕なのか、それとも本当にめんどいのか……やるせない表情で槍を構える。



「――っ、い、いい、行きますよ!」

いつも通り、ヘリオンのガキが先に仕掛ける。

狙いはブルースピリット……瞬発力で敵を驚かせて、斬撃で敵を安心させるのもいつもの事……



 だが、今回のヘリオンは一撃離脱で引かなかった――



「えい、やあ!!」

「――っ!?」



刀を納めず、そのまま連続で斬りかかる……

だが、それでも青の障壁を破れない――





「――邪魔!!」

その声が聞こえたとたん、ヘリオンの真後ろに槍が投擲された……



「――ひゃぁ!?」

ギリギリで上空に逃げるも、それは相手も同じ――



「貰った!!」

「――ひぃ!!!」

持っていた鞘で、ブルースピリットの斬撃を弾くも地面に叩きつけられるヘリオンのガキ……



「ふっふ〜ん……もらったよ♪ ファイヤボルト!!」







小さい無数の火玉がヘリオンに迫る――











「ヘリオンちゃん!!」
「――馬鹿!!」

クソガキがヘリオンのガキにシールドハイロゥを蹴飛ばし、洒落にならない速度でヘリオンのガキと衝突――







――見事に10m以上吹っ飛んだ――







――結果、ヘリオンのガキは無数の火玉から逃れることが出来た。







「――何やってるのよ!!」

「ご、ごめんなさぃぃ……」





チームワークがバラバラだった……



仮面の姉ちゃんの方を見ると、グリーンスピリットは既に霧と消え……

今まさに、ブラックスピリットの神剣を手元から弾き……自分の神剣を相手の心臓に突き刺した――





『さすが、仮面の姉ちゃ――ぁ!?』











――突然、屋根から反応が現れた――

















――その反応が敵のブルースピリットと気がついたときは、すでに大空から仮面の姉ちゃんに向かって急降下していた――











『――ファー!! 上だ!!』







俺の声は届かない、それは嫌にほど知っている――

















それでも……長ったらしい名前を省略してでも伝えたかった――

















アオが俺の声に反応して、叫ぼうとした瞬間――






















仮面の姉ちゃんは背中から、深く切り刻まれ……その場に崩れ落ちる――



























ファーレーンを中心に紅の血溜まりが広がっていく――



























「……お、お姉ちゃん?」

クソガキの顔が絶望に染まっていく――



























仮面の姉ちゃんにトドメを刺そうと剣を振り上げるブルースピリット……

――だが、ヘリオンはそれを許さない――



























神剣を振り下ろし、仮面の姉ちゃんの頭部に一直線に吸い込まれる……

――瞬時にブルースピリットの目の前に移動、間を置かずして刀を抜く――



























鞘から放たれる刀の煌きは、閃光にも似た一閃――
















――振り下ろされた神剣ごと、ブルースピリットを横一文字に切断した。



























「ファーレーンさん!!」


その結果などヘリオンのガキには眼中にない……





――あたりまえだ、仮面の姉ちゃんの傷は致命傷――早く治療しなければ遅からずマナの霧と姿を変える。





残りは赤と青のスピリット……


3対2……数では勝っていても、あっちの方が有利だ。





それは、さっきの攻防で周知の事実――


さらに、経験は一番多いはずのクソガキは動揺して自分を見失ってる――


ヘリオンのガキとアオは、圧倒的に経験というLVが足りない――





――それに、さっきのヘリオンの一撃も、再び出せるとは限らない――





「ニムちゃん!!」

「――っ、わかってるわよ!」



アオの声に頷くクソガキ――

まずは敵を倒してから……じゃないと仮面の姉ちゃんを救えないというのは嫌でも解る。





「――行きます!!」

ヘリオンのガキが、先に仕掛ける――



瞬発力は相変わらず……しかし、神剣ごと切断した改心の居合では無かった――









――だが、放たれたのは間違いなく居合の太刀……そのものだった。









バリン……っと障壁を破壊し、間髪いれずにニムのガキが槍を投擲――



――だが、横に飛んで避けられる……











されど、それを読んでいたアオが追撃を仕掛ける――



――が、上空へ逃げようと敵はハイロゥを羽ばたかせる……















「――逃がしません、テラー!!」







地面から召喚された闇の手が、ブルースピリットの脚を掴む――


「――!?」
「いやああああ!!」


――斬!! っと、俺の切っ先は首を切断した……











――まさに、息の合ったコンビネーション……さっきの戦いとは大違いだ――











「――アオ!!」
「――アオさん!!」


唐突に、2人の悲痛な叫びが聞こえた――




















その声のお陰で、アオを中心に空から炎の雨が降ってくることに気がついた――








――時間が止まる――








炎の雨はゆっくり、ゆっくりと……アオまでの距離、数十cmのところで止まってる――








そう錯覚させるほど遅い――














――つまり……この勝負は、俺達の勝利で終わる――





「雫……行くよ……」

『ああ、きついの一発……ぶち込んでやれ!!』





アオは、神剣魔法を放った状態で固まっているレッドスピリットを目標に走り出す――





――アオが俺をレッドスピリットの腹に刺した時、時は止まっているのを思い出したように動き出した……




















「――がぁ……」

ズルリっと俺を引き抜き……その場にレッドスピリットは倒れた――







「アオ……何したの?」

「あ、アオさんの噂は聞いてましたけど……す、すす、すごいんですねぇ……」

二人は目を点にさせながらアオを見ている



「はぁ、はぁ……それより、ファーレーン、お姉ちゃんは?」



「大丈夫ですよ……後はニムさんが回復系の神剣魔法を使えば――」




















――そこで……初めて泣きそうな顔をしているニムのガキに気がついた――




















「……う、うぅ……」




そして、ニムのガキはその場で泣き崩れる……




















「わ、わたし……回復系の神剣魔法なんて……使えない……」




















一難去って又一難とは、正にこの状況の事だと……苛立ちながら思った。

























ファーレーンの姉ちゃんは瀕死だ……傷口から血と一緒にマナが抜けていくのを確認できる……














……何時の間にこんなスキルが身に付いたのだろう?



――自分がどんどん人間じゃ無くなっていく感覚がする――



――でも、あまり深く悩まない……むしろ、自分の力になるので良い事だと思えるように頑張ろう――











――っと……現実逃避する癖は、まだ抜けきらないようだ……







考えなきゃいけないのは、今どうするかで……自分の事は謎だらけで結局は解らないんだ。



……なら、今を考えろ、俺!!







『――出来ないって、やってみなくちゃ解らねえだろ!!』

「……ニムちゃん、やってみないと解らない……雫がそう言ってる」


「――できないの!! 何度も何度も試したけど、出来なかったの!!」



「じゃあ、ファーレーンさんを見捨てるんですか!?」

「嫌だよ! 見捨てたくない!! ――でも無理なの!!」



――ファーレーンの姉ちゃんの顔はどんどん青くなっていく……このままじゃ本当に手遅れになる……



『じゃあ、止血なり応急処置してなんとかしろ――!?』



















――なぜ、今まで気がつかなかったのだろう……







アオの後方に集まるマナの気配を……



















……赤の魔方陣!?







マナの霧と共に、不気味な笑いを浮かべているスピリットが消えた瞬間――











――魔方陣から炎の塊が発射された――



















――軌道は、ニムのガキに一直線……








『あぶね――え?』



















アオが突然その軌道に割り込んだ――



















――炎の固まりは、アオの腹を抉る――



















――力なく、俺を落とすアオ――



















――アオは、ゆっくりと……ニムのガキの方へ倒れていく――



















「『アオーーーーー!!』」



















俺とニムの叫びが、街の中で木霊した……



















あとがき



ええっと、今回35kと洒落にならないほど詰め込んでしまいましたので
前編・後編と分割してお送りします――


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