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永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―


永遠神剣になっちゃった



Chapter 2  スピリットの日常

第6節 『レンジでチン♪』



 






――ミネアの訓練所――

町外れの場所にそれはあった。

ミネアの衛兵に案内され、訓練所の中心に着くと金属を弾く音が聞こえてくる……





 ツインテールの緑ガキは、青スピリット達と1対3の戦いを行っていた。

3対1……三方向から迫る攻撃は、ベテランのスピリットでさえ苦戦を強いられる。

だが、彼女はその攻撃を自分を中心にして張った障壁でやり過ごしている。




 これほどまでに強固な障壁はメイドの姉ちゃんを超えるだろう……

それも当然か……メイドの姉ちゃんとあのツインテールの緑ガキは、体内に蓄えられているマナが違う。



マナの変換効率はメイドの姉ちゃんの方が上だが、体内に蓄えられたマナはあのツインテールの方が圧倒的に上だ。







「ふむ……完成度はまだまだ、と言ったところか」

アウルがそんな言葉を呟く


「どうしてですか?……あれほどの攻撃を防御するって、ベテランの人でも難しいんじゃ……」

ヘリオンのガキがアウルに質問する。



「ああ、防御は素晴らしい」

「だが、攻撃には転じていない……いや、転じれないと言うのが正しいだろう」

「エスペリア・グリーンスピリットやアセリア・ブルースピリットなどはきっと些細な隙も逃さず、そこを見極めて攻撃に移るだろう」

「奴は、ニムントール・グリーンスピリットは活路を見出せていない……ベテランと比べるとまだ程遠い」


「はあ……それでも、私ならすぐにやられて、終わっちゃいそうですけど……」

「あたりまえだ、まともに戦ったら5秒も持つまい……」

「はぅ……」



アウルの容赦ない言葉の槍は、ヘリオンの胸を容赦なく10回ぐらい突き刺さっている。



「だが覚えておけ、ヘリオン・ブラックスピリット……人に問わず、スピリットにも得意、不得意という概念は存在する」

「お前の瞬発力は漆黒の翼を凌駕するが、実力は万分の一に等しい……」


……漆黒の翼??


「しかし、能力差はあまり変わらんと思うのだ……
 予測だが、腕力の強さも同等……瞬発力は凌駕……では、なぜ漆黒の翼に及ばないと思う?」

「それは……技でしょうか?」

いつもと違うアウルを感じたのか、ヘリオンのガキは恐る恐る言葉を紡ぐ……



――いつも恐る恐る喋っているっと思うのは気のせいだ――



「たしかに、技のセンスもあるが……それだけではない」

「……貴様と漆黒の翼を隔てる差は、経験と信念だ」



「その他にもあるだろうが、漆黒の翼と比べて信念と経験が絶対的に足りない」

「技のセンスに関してはどうにもならん、例え死ぬ気で技を磨いても経験として身につくだけだ」

「だが、信念は違う……信念の重さによっては、どんな弱者だろうが強者を上回る場合がある」

「漆黒の翼をも越える絶対的な信念を胸に経験を積んでいけば……
 お前はラキオスの蒼い牙どころか、漆黒の翼をも凌駕するほどのスピリットに化ける可能性もある」


「信念……」

……ヘリオンのガキは、胸にその言葉を刻み込むように呟く。




「だが、無理に探そうとするなよ……信念というのは、訓練などで見つけ出せるものではない」

「お前が生きてきた中で、形成されるものだ」

「軽々しく信念について語ったが、難しいのは絶対的な信念を見つけるという事なのだからな」



「じ、じゃあ、どうしようも無いじゃないですか!?」

「センスはどうにもならんが、信念は可能性があるという話をしただけだ……」



『……』







兜を深く被り、素顔が見えないアウルが格好良く見えるのは何故だろう……





――良い漢は……何をしても良い漢――



そんな言葉が思い出される…









……あれが漢という者なのか……

いいなぁ……俺もあんなセリフ使いたいなぁ……





「ねえねえ、雫……しんねんって?」

『……アオ、とりあえず4人のお姉ちゃん達に頼んで国語辞典を買え』

でないと、俺がお前の事を『アホ&馬鹿』と認識してしまうから。

「は〜い♪」











……っと、そこで怪訝な顔でアオをみるメイドの姉ちゃんが居た。







――そりゃそうだ……他人から見ると電波を受け取っている危ない子供にしか見えないから――







「? エスペリアお姉ちゃん、どうしたの?」

アオもメイドの姉ちゃんの視線に気がようだ。



「い、いえ……ここに来るときもそうでしたが、やはり神剣と会話しているのですね……」

「うん♪」









――なぜ、そんな悲しい顔でアオを見るんだろう?











「アオ……貴方はその神剣を怖い、と感じた事はありませんか?」

「なんで? 雫、意地悪だけど優しいよ」

「『……優しい?』」





……俺が? なんで??

意地悪は納得できるが、お前に優しくした覚えは無いぞ?





「うん、この前ね……雫がお墓を作ろうって言ってナナルゥのお姉ちゃんと一緒に作ったの」

「お墓……だれのお墓ですか?」

「えっと、バーンライトのスピリットさんのお墓……雫が作れって、そして『もう痛い思いしなくていいよ』って祈ってた」

『――そらお前じゃ!!』



確かに、2回目の祈りではそんな事を思ってたが、言い出したのは貴様だ!!



「でも、それでも……神剣の干渉は辛くはありませんか?」









『「???」』













――かんしょー?? 



「上位神剣の干渉は、自我を壊すほどだと聞いています……
 それを苦としていないのは、その神剣が優しいと思うからなのですか?」





――なに言ってんの、このねーちゃん?? 理解不能……

俺がアオの自我を壊す?? どうやって??





「雫……かんしょーって何??」

多分……干渉のことだよな……

でも、どう説明すればいいんだろう……実は、意味は詳しく知らなかったりする……



だって、今までやったテストの成績は後ろから数えた方が早い順位だったから!

そもそも、国語辞典で言葉を調べたのって小学生の時で、それ以降は国語辞典という物はごみ箱行きだったから!!



――っとまあ、現実逃避はこれくらいにして……





干渉……精神干渉、政治干渉、ets……

他人に干渉する、自然に干渉する、ets……

いま思えば幅広く使われている言葉だな。



……まあ、全部に共通する意味は――

『……確か、介入って意味だと思う……俺とアオが話してるのも、俺がアオに干渉していると言えるぞ』



でも話しているだけで自我を壊すなんてことは有りえない……

それならアオの自我はとっくの昔に崩壊している。









――なら、『干渉』という意味を間違えてるということか?









……ごめん、アオ……お前を『アホ&馬鹿』と言った事を訂正するよ……

俺、お前並に馬鹿かもしれないから……





「エスペリアお姉ちゃん……私、全然平気だよ」

「強いのですね、アオは……」

「……そうかな?」

「ええ……もしかしたらエトランジェ様よりも……」

「……そっかぁ、えへへ♪」





……まあ、物騒な会話だったが……干渉で自我を壊す、という意味はいずれ解るだろう……





解ったとしても、絶対にアオの自我は壊さない











……いや、壊しはしない……











「よし、今日の訓練はここまでとする……」

後ろに控えていた訓練師であろう老人が一人声を上げる。





「もし、イースペリアの訓練師殿……」

「これは、アウルではないか……久しいな……」

「ああ、貴方か……」

「……訓練師を辞めたと聞いたが、相変わらず変わらんのお」

しみじみと懐かしさを噛み締めている老人に、アウルは筒を取り出す



「昔話より、今はラキオス王の命による伝令がある。至急、女王アズマリア様に面会を願いたい」

「せっかちな所も相変わらずじゃな……女王様ならイースペリアの王城に居る、こんな辺境に来るはずは無かろうて」

「聞いてみただけだ……なら至急に王城へ向うとしよう」

「エスペリア・グリーンスピリットは俺と共に……
 アオ・ブルースピリットとヘリオン・ブラックスピリットは此処を見学してるが良い」



「へ? へ??」

「は〜い♪」



「此処からイースペリアまでは結構な距離だ……
 今日中には帰れない筈、ニムントール・グリーンスピリット……貴様等の宿舎を貸してやれ」

「なっ!? ――なんでよ!」

「命令だ、スピリット風情の口答えは許さん……解ったな?」

「……解ったわよ」

「なら結構……行くぞ」







「……はぁ」

なんか、すんごい嫌そうな顔でこちらを見つめている。



アオは、その表情に気づいていない様子で話し掛ける。

「私は、アオ・ブルースピリット……よろしくね♪」

「…………」

アオが手を差し出したが、ツインテールのガキは差し出す気が無い……

――というか、アオを無視して訓練所の外へ向う



「あ、あの……」

「――付いて来ないで!!」

ヘリオンが声をかけようとしたとき、緑のガキからそんな言葉が発せられた。

「「…………」」

硬直しているヘリオンとアオの二人を尻目にさっさと訓練所から出て行ってしまった。













『なんだよ、あのガキは……』

感じ悪……つーか、何をそんなに怒っているのかが不明……



「あ、あの……どうしまよう?」

「雫……どうしよう?」

『……むしろ俺が聞きたい』



さて、本当にどうする……

無闇に動いても仕方がない気がするし、何より迷子になるだろう。

とかいって、此処に残っても時間の無駄……周りには誰も居ないのだから。







――っと、仮面をつけたスピリットがこっちにやってきた。



「あの、ラキオスから着たスピリット達ですよね?」

「は、はい……そうですけど……」



「初めまして、ファーレーン・ブラックスピリットです……たしか、新しく配属された……」



「へ、ヘリオン・ブラックスピリットです!!」

「アオ・ブルースピリットだよ♪」





「アウル様から事情を聞きました、泊めるついでに鍛えてやってくれと……」



「……は、はい! よろしくお願いします!!」

「よろしくお願いします、ファーレーンお姉ちゃん!」



2人は規律正しく背筋を伸ばし、ファーレーンの姉ちゃんを熱い視線で見つめるガキ共……



「い、いえ……わ、私もまだまだまだまだまだなので……そそ、その、あまり期待しないで下さい……」

『――なにゆえ声が裏返える?』



ヘリオンのガキもこの姉ちゃんもそうだけど……ブラックスピリットって、気の弱い奴ばっかりだな……









――っと、考えていると、仮面の姉ちゃんが、周りをキョロキョロと見渡している。

「――ど、どうしたんですか?」

「い、いえ……ニムが見当たらないから……」

『ニムって、あのクソガキのことか?』



俺の呟きでアオは『ニムとは、あのクソガキの事』と解ったのか、途端に表情が暗くなる……

「なんか、私が怒らせちゃったみたいで――」

暗い表情で仮面の姉ちゃんに語りかけるアオ。

「……気にしないでアオちゃん、多分……いつもの事だから……」



「「『――いつも??』」」



「そうね……とりあえず、部屋に移動しましょうか」

ここじゃなんだしね……っと仮面の姉ちゃんはアオ達を宿舎に案内した。

















付いた部屋は、ラキオスの詰所と同じぐらいの大きさの部屋だった。

「ふぅ……」

ゴトンっと、仮面……いや、兜を外して机に置く……







緑に近い髪の色が現れる……エメラルドグリーン――それが適切な色だろう。







「ふわぁぁ……」

「ファーレーンさんの髪の色て、綺麗ですねぇ……」



アオとヘリオンの視線がファーレーンの姉ちゃんを貫く



















――間もなく、ファーレーンの姉ちゃんは耳まで紅に染まる。






「――そ、そそ、そんなに見つめないで下さい!!」







神速を思わせる速さで即座に仮面を被ってしまう……























――素顔を曝け出した時間、わずか5秒――







視線を浴びて、瞬時に顔が赤くなった……その特性は、電子レンジに似ていた……























「ええ、なんで隠しちゃうの!?」

「そ、そうですよ!」

「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜……」





アオ達の抗議に、しゃがみ込んで、顔を横に振る仮面の姉ちゃん。


その勢いは、ブンブン――っと聞こえそうな程に速かった……























傍から見れば、ガキに虐められる成人女性そのもの――























――そして、そのやり取りは10分近く続けられた……























「――と、とりあえず……何の話でしたっけ?」


「ええっと……ど、どんな話でしたっけ?」


「雫……なんの『――お前等、本当にアホなのな!』――アホじゃないもん!」







――第3者から見る限り、十分アホなんだよ……いい加減に気づいてくれ……







『つーか、んな事はどうでもいい……あのニムとかいうクソガキの話だろうが!!』

「む〜〜……ニムちゃんのお話だって」







「……あ、そうそう、そうでしたね」





コホンっと咳払いして、気を取り直す……そして、さっきの『アホアホ空間』は消滅していた。



























「ニムはね……友達がいないの……」

……初対面であんな態度を取られれば、誰でも解ると思うが……









「……そうなの?」

――訂正……天然という例外がここに存在した――





「…………………」



そんなアオを見て、ヘリオンのガキは複雑そうな顔をしている……



















――ああ、私……どうしたらいいんでしょう?――



――アオさんに続いて『解らなかった』っと言えばいいのでしょうか?――



――でも、友達いないんだろうなぁ〜って薄々気がついてたし……ああ、私って優柔不断……――



















……っという、ヘリオンのガキの考えが、表情とくねくねと動く体のお陰で読み取れる……









――正直、キモかった……――



















そして、自分の体が動いている事に気がつくと……非常に面白い驚き方をして、顔を真っ赤にさせて俯く……









――その事実から、『自滅っ娘♪』という称号を心の中で授与してあげよう……



















「……私以外のスピリットには冷たくてね、友達を作ろうしないの」

「なんで?」



「さあ、それは私にもわからない……でも、このままじゃいけないと思うの……」

仮面越しでも、ファーレーンの姉ちゃんの表情は読み取れる。















本当に、本当に……あのニムとかいうクソガキを心配している顔だった――





















「――それでね、アオちゃんやヘリオンにお願いがあるの」



「それって……もしかして――」





確信に近いヘリオンの問い……それに答えるように仮面の姉ちゃんは言葉を紡ぐ。





「うん、もし良かったら……ニムと友達になってほしい」

「きっと、ニムは冷たく突き放すだろうけど……本当は優しい子なの……」





「だから「――うん、知ってるよ♪」……え?」



アオの言葉に、ファーレーンの姉ちゃんとヘリオンのガキは驚いた表情でアオを見つめている。





「だって、ニムちゃん……怒ってた時、ネリーちゃんやシアーちゃん、オルファちゃんが悪い事したって顔と一緒だった」











――そうだったか?











「だから、ちゃんとお話すればきっと仲良くなれるもん」





――どこをどう理論展開すればそんな結論に行き着く? 

……つーか、それってクソガキが悪い事の区別が付くだけであって……優しさとは別じゃねえのか?――











「そ、そうですよ。アオさんの言うとおりです」

ヘリオンが、同意の声をあげる。











……そう思うのは、俺だけだったらしい――











「アオ、ヘリオン……ありがとう……ニムのこと宜しくね……」



「――うん♪」
「――はい!」



















元気な返事をするアオとヘリオン……



















ファーレーンの姉ちゃんは、泣きながら……それでも、ニッコリと笑っている……



















仮面をつけた状態だったが、それだけは確実に解った……



















あとがき



ファーレーン編終了です。

 アホ全開、ちょっぴりシリアス風味に書いてみました。
……そして、自分で書いといてなんですが、読み直して癒されました♪

 ファーレーンの緊張が頂点の場合、ヘリオンと被ってしまう事実に気づいてしまった……今日この頃――
ヘリオンとハリオン、ファーレーンとヘリオン……ヘリオンのセリフ被りすぎです!――でも、それ以上にヘリオン萌ぇ〜♪

おのれ、ブラックスピリットめ! ウルカたんといい、美味しいキャラが多すぎるぞ!!



今回の補足、ヘリオンの『非常に面白い驚き方』は、某オフィシャルHPにある人気投票4コマの
『ハイペリアに伝わる伝説の防具』を見つけた表情をご想像下さい。

ちなみに、用語辞典更新されました……どうでもいい用語ばっかり(今までもそうです)ですが、暇ならば読んであげてください。



次回はニムたん友情編……アオ、ヘリオン組はニムたんと友情を結ぶことはできるのか!?

――がんばれ、アオ……頑張れ、ヘリオン!! ニムたんを孤独の渦から引っ張り出すのは君達しか出来ない!!――



――出来なかったらどうしよう……(汗)



<今話で出てきた用語>

アホアホ空間(あほあほくうかん):『ほのぼの率』が一定値以上になると、問答無用で展開される空間の名称。
                :その中では、真面目な奴でも、落ち込んでる奴でも例外なく……
                :更にはどんな行動で『己はアホでない』と否定しても第3者からみれば、きっとアホに見えてしまう
                :……何気に恐ろしいような空間。
                :発生はきっとスタートサポートタイミング♪
                :『アオ』と『雫』が2人揃わないと発動できません♪

自滅っ娘♪(じめつっこ):雫がヘリオンに与えた称号……そのまんまの意味である。

ほのぼの率(ほのぼのりつ):この物語でマナと同じぐらい大切であろう存在。
             :『和み』や『萌え』、『笑い』などの癒し系の場面を占める割合の事である。

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