作者のページに戻る

永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―


永遠神剣になっちゃった



Chapter 2  スピリットの日常

第4節 『ちっぽけな墓』



 






 エルスサーオ……バーンライト王国に隣接する街の一つらしい。

アオとナナルゥの姉ちゃんは、街の門の前で門番をしている。

ナナルゥの姉ちゃんはマネキンのように突っ立っているのに対し、座りながらアオは欠伸をしていた。


『門番って、結構暇な仕事なんだな』

日が出る前に任務に付いてからすでに、空は夕日が見えている。


「雫、シリトリしようよ〜」

『飽きたから却下……』

「む〜」



ぶっちゃけた話、すでに何のやる気も出なかった。

腹が減っては戦は出来ぬ……誰が言ったのか知らないが、本当にその通りだ。

ただ空腹に耐える毎日……

頭には、白米をベースに、シーチキンやカツオブシ、塩など掛けた食事が頭に浮かんで更に空腹が進む……

そして、改めて自分の生活水準の低さを認識させられて鬱になる。





だって、コンビニ弁当って高いんだもん。

一ヶ月で何円すると思ってるんだよ? 



朝飯抜いたとして、コンビニ弁当は500x2で1000円、一ヶ月で3万……

――無理だ……





カップ麺は100x2で200円……1ヶ月で6千、

――ちょっとキツイんだよ……







それに比べて、白米ご飯は10kgで2000円、塩が200gで500円……計2500円!!

しかも3食欠かさず食って二ヶ月持つんだぞ! 一ヶ月1250円なんだぞ!

ああ、思い出したら腹減った……




 過去のご馳走? を思い出していると、ナナルゥの姉ちゃんは急にハイロゥを展開した。


「敵です。」

「『え?』」

俺とアオの声が重なる。




――索敵範囲を広げる……

うん、3人のスピリットがこっちに攻めてくる。


『緑、赤、赤……って、やばいじゃん!?』

こっちは後方支援のナナルゥと新人のアオしか居ないんだぞ!?

『アイスバニッシャー』とか『ファイヤーボルト』という魔法を使えた試しが無い……

そして、障壁の張り方も知らない……


『今更だけど、上の人は何考えてこの編成にしたんだよ!!』

むしろ死ねと言うのか? 国は俺たちを見捨てたのか!?





 距離は10m強、だがスピリットという種族にとっては既に近距離だ。


「――死になさい」

赤スピリットが10mという距離を一瞬で詰め、剣がアオの喉元に届く……


『あ……』

死んだ……










そう知覚したとき、俺は赤スピリットの胴体に埋まっていた。

「ば、馬鹿な……」


そんな声が聞こえる中、体が熱くなるのを感じた……










感じたことの無い熱さ……否、暖かさ……





















枯れた地面に水が染み込むように、何かが俺を満たしていく。










そして、赤スピリットは黄金の霧へと変化していく……



『これが……マナ?』

マナ……そう、マナだ。



 本能的にその正体を知ってしまった。いや、知らされた。











大地に満ちるこの力、大いなる力、尊い命……



『マナ』



その単語に、何者かが頭で呟いている……


『……誰だ?』

呟いているというのは間違いだ……

ただ、本能的に、何者かが……俺ではない誰かが、俺を通して訴えている。






――マナを、マナを寄越せ――






声が聞こえたらそう呟いている……これは予想ではなく確信に近い。

悪魔の囁きがあるとしたら、間違いなくこの声だろう。




だが、それは囁くだけ……それだけ、それだけだった……






もし、その声に洗脳されたとしてもそいつに決定権は無い……






俺は使われる存在……自分で動けないのだから……





「ぜぇ、ぜぇ……っ、ゲホ……はぁ、はぁ、はぁ……」

『……アオ、無茶するなよ』

それはともかく、アオの疲労は既にピークに達している。







 アオは確かに最強だ……

反則並の力を持っている……



だが、それが弱点でもある。

前回は一回使って意識を失った。

今回は何とか意識を繋ぎ止めている。



一回きりの裏技……というのだろうか?

しかも任意で出せないというのが厳しい……








「逃がさないよ!!」

「!! つぅ……」

飛んできた槍を辛うじて叩き落すアオ……

だが、槍が地面に落ちる前に緑スピリットはアオの懐に飛び込んで槍を掴む。


「もらっ――!?」

ボン! っと真横から小さな火球が飛んできて緑スピリットの顔にHITする。


「!――てやあああぁぁ!!」

俺は地面を擦りつけられながら股間から胸部まで斬り裂いていた。


「あ、あ゛……」

だが、まだ倒れていない……

緑スピリットは、武器を持った手を引いて、無防備なアオに突きを放つ――


















――寸前に、ナナルゥの姉ちゃんが首を切断した。








ごろん、っと緑スピリットの無表情の顔が地面を転がる……

胴体の首からは噴水のように血が噴き出て俺たちを濡らす。

まるで、ホラー映画を見ているようだ。







残りの赤スピリットはすでに索敵範囲に居ない……

どうやら逃げたようだ……



「任務、完了……」









さっきまでは地面に血が散乱していたと言うのに……血の雨が降っていたというのに……

その血痕は幻のように消え去っていた。













――そう……最初から、存在していなかったように――















―――――死――――――

それは、生物にとって逃れられない運命……

早かれ遅かれ必ず訪れる現象……







……そう思っていた。















 人を殺すのは悪いこと……日本人の常識だ。


だが、他の国はどうだ?

歴史ではどう判断していた?


―――殺戮者と英雄―――

この二つは=(イコール)で結ばれている。

片方は恨まれ、罵らる。

片方は歓迎され、尊敬される。








そんな矛盾点から人を殺すのはそんなに悪いことではない……



……そう思っていた。













 死んでも、ちゃんと悲しむ奴が一人でも居るはず。心を痛めてくれる奴が一人でも居るはず。





ちゃんと葬式を挙げて、遺骨を墓に埋めてくれる……それで十分じゃないか……







……そう思っていた。































――けど、それは幻想……思い込みだったこと骨の髄まで思い知った。































 ここではきっと……死体すら残らないのだろう。

人知らないところで殺されたら、どこで殺されたのか誰も記憶しない。

気づいたら死んでいた……



……そんな世界……















それほどまでに……哀しい世界なのだ……































 人が死ぬのはまだいい……

劇的な最後を遂げたら、多くの人は悲しみ、その悲しみを教訓としてより良い明日を歩んでいくだろう。

































――だが、皆が道具のように扱うスピリット達は……どうだろう?



悲しむ者は居るかもしれないが……



人のために死んでいった者が……多くの人には虫が死んだようにしか思われない……







それが……無性に哀しかった……



そして、やり場の無い憤怒を覚えた……











「雫……泣いてるの?」

『……さあ、どうなんだろうな……』

泣いている……きっと泣いているんだろう……


『アオ、疲れている所悪いが……ちょっと頼みがある』

「ん? なあに?」

『墓を……小さな墓でもいいから作ってくれないか?』

「お墓?? なんで?」




『自己満足のため……だな……』

「……うん、いいよ」













エルスサーオの街からやや離れた場所にある森の中で、ちっぽけな墓が2つ出来上がった。


 墓を作るため、ナナルゥの姉ちゃんにも手伝ってもらった。

まあ、アオや俺は文字が書けないため……というか、俺は理解不能のためだからだ。



 改めて墓を見る……

小さな山……その上にアオの拳サイズの石ころが置いてあり、地面には木の枝で書いた象形文字……

金魚や小亀などの小さなペットが死んだとき作った墓に似ている……


数週間で墓の存在を忘れた記憶があるが……今回もきっとそうなのだろう。































―――でも、重要なのはそこじゃない。

墓を作った思い……墓を作った動機が最も重要だと……俺はそう思いたい。































『アオ、手を合わせて目をつぶって念じるんだ』

「?? こう?」

『そう、そして安らかにお休みなさいって3回念じろ……』

「うん、わかった」





そして、俺も祈る……































――せめて、少しでも幸せを感じる時間を過ごしたことがありますように……――































 数秒で祈り終わると、ナナルゥの姉ちゃんの行動に少し驚いた。

だって、無駄な事は一切しませんしませんオーラを出している奴が両手を合わせて祈っているから……


―― 一体、何を祈っているのか……すんごい気になる ――


ナナルゥの姉ちゃんが祈り終わると、疑問を浮かべた顔でこう答える。



「この行為に何か意味でもあるのですか?」

「死んだ人におやすみって念じるんだって」

「もう、痛い思いしなくていいよって……そう伝えるんだって」

―――言ってない! っと、突っ込みたかったが……言葉を聞いて、俺も納得する。

たしかに、もう痛い思いをしなくて済むだろう……

後半の部分はアオの独自の解釈だが、まさにその通りだ。





 ナナルゥの姉ちゃんも「なるほど……」と呟いて、再び墓に手を合わせる。

アオも、再び墓に手を合わせる。









こんどは数分だろうか……そのくらい経って、二人は姿勢を崩した。

「帰りましょう。そろそろ交代の時間です」

「うん……ぁ?」

すると、アオが急にバランスを崩した。



ガシっとナナルゥの姉ちゃんが腕を掴んで立たせる。

「お、おおぅ?」

そして、そのまま背負い込んだ。

「このほうが効率的です」

「うん……ありがとう……ナナルゥ、お姉ちゃん……」

そして、アオは安心した顔で気を失った。



 道が夕日の光で紅く染まっている中、ナナルゥの姉ちゃんはアオを背負ってエルスサーオの街に戻っていく。













ナナルゥの姉ちゃんの顔は、相変わらず無表情だったが……







いつもと比べて、優しい顔だった。











そんな気がした。




























あとがき

 シリアス風味なナナルゥ編、終了でございます。
実は一番のお気に入りのキャラだったりします。

ナナルゥはゲームでは支援だけの存在です。 しかし、私は弱いスピリットでも急所を突けば強いスピリットを一撃だと思うのですよ。
決して、短期決戦型しか書けない言い訳ではございません……きっと(汗)

 この物語では、スピリット全員がオールラウンダーとして存在します。
そこに援護があったりと、どちらかと言えばスパロボ風のバトル(というか、そんな風しか書けない)

 物語補足ですが墓に書いた文字は『せめて安らかに……』
ありきたりですが、格好良い言葉が浮かばないし、大げさすぎるとクサイセリフになるので……(十分クサイという意見は却下)

雫はこの世界のすべての生命は死ぬと、初めから無かったように消えると悟りました(消えるのはスピとエトランジェだけですが……)
人が目の前で死んでいく……体験してないから解りませんが、自分なりに深く考えて感じたことを書いたつもりです。

 ちなみに、雫は退魔師……一回の除霊で40万という収入ですが、2ヶ月に1回有るかどうか……のレベルです。
バイトで補っても、いつでも抜け出せるような楽なバイトじゃないとダメなので月に5万しか収入はありません。
一人暮らしなので、節約しないと生きていけない……そんな生活を送っていましたとさ♪


 最近、筆が進む速度が速いので更新率が高いのにビックリ♪
この調子で書きつづけたいと思います。


 それにしても、ほのぼのやギャグが大好きな私が
シリアスになると筆が勝手に進むのはなぜでしょう??




もしかして、シリアスに毒されてる!?  Σ( ̄□ ̄; (シリアス好きな人、ごみんなさい……)




 余談ですが、PS2版ではエスペリアさんしかメイド服を着てないんですね(涙)
ハリオンのメイド姿、PS2版でも見たかったなぁ……
だからこそ修正の方向は無く、ハリオンはメイド服の方向で!(ニムたんは思考中……)

ちなみに、アオにメイド服を着せるプロジェクトが発動中ですのでメイド萌えの人はご期待ください♪



作者のページに戻る