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永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―


永遠神剣になっちゃった



Chapter 2  スピリットの日常

第2節 『家出』



 






 最近、ネリーのガキとアオは仲良しだ。

何をするにも一緒に行動している。








――だから、気づかない。








居場所を奪われた一人のスピリットの悲しい視線に……

















 事の起こりは午後の訓練終了後、模擬剣での打ち合いが終わり、 いつもの様にアオとネリーは遊びに行った時だった。




















「ネリー……シアーの事、嫌いになっちゃったんだ」

訓練所で一人寂しくシアーのガキはそう呟いていてトボトボと訓練所を後にした……












――ちなみに、俺は再び置いてきぼりを喰らっていたのでバッチリと聞こえた。








 まあ、こうなった原因は語る必要も無いが、とりあえずここ数日を整理してみよう。






アオとネリーの仲が急接近してから、3人で遊ぶことは多くなっていた。

だが、ネリーはアオのほうが遊びやすかったのだろう。

次第にシアーが会話から外れ、最近では一緒に出かけることも無くなった。

シアーのガキも努力はしていたのだが、届かなかった。










そして、昨日……ネリーとケンカしたのだ。








 そんなことはさておき、更に重大な事実に直面中である。












『おーい……』

俺の最後の希望が消えたのだ……

初めての経験だった……だれも気づかずに部屋の隅で取り残されるこの感覚は……












 何時間か経った時、光を感じることの出来ないという恐怖に襲われていた。

何時間経ったのか……というのを確認できないからだ。

朝なのか昼なのか夜なのかが確認できない。

こんなに恐ろしい事だったとは、思っても見なかったからだ。


『寒いぞ……おい……』

それに、今日はやけに冷え込む。

訓練所で放置されたからかそうか解らないが……とにかく寒い。



今回の教訓……とりあえず、アオを苛め抜こう。

――って、教訓違うし! っという自己突っ込みはこの際無視だ。







 そう考えてたら、誰かがこちらに近づいてくる気配が感じた。


『おーい、誰か、誰か助けて!』

出来ればネリーのガキかアオでありますように……じゃないと一晩中ここに居ることになるから!

「はぁ、はぁ……し、雫?」

『……ネリーか? やけに疲れているようだが何かあったのか?』

「シアーが……シアーが居ないの!」





『あ、そう……』

予想はしていた……つーか、あいつの性格ならするだろうと確信していたのかもしれない。

「雫……シアー見なかった?」

『見たぞ』

「何処に行ったの!」

ネリーのガキが鬼気迫る表情で俺を睨む


『そこまでは知らねえよ……それに、見たのはお前等が訓練終わった後だ』

「そっか……」

『……心当たりの場所は? 全部探したのか?』

「うん、探した……でも居なかった」

『うーむ……』

お手上げですか……俺がもし家出するなら友達の家だけど……あのガキにそんな奴居るのか?



「あ……」

『どうした? 行きそうな場所でも思いついたか?』

「うん、でも……違うかもしれない」

『行くだけ行ってみろ、無駄かもしれないけど……もしかしたら居るかもしれない』

「うん、解った」


ガシっと俺を掴むネリーのガキ……

そして訓練所の外へ。激しい雨が降っているようで、冷気が更に強くなる。



 ネリーのガキは第2詰所の反対方向へ走り出した。



『おい、なんで俺を連れて行く必要が有る?』

「いいじゃん、別に……」

『良くない! 風邪になったらお前のせいだぞ!』

「シアー! シアー!!」

『聞けよ、オイ!!』




そんな感じでシアー探しに巻き込まれた俺だった。







 一時間ぐらいたったとき、何処かにたどり着いていた。


『ここ……何処?』

岩が多く、緑が少ない……荒地か?


「リクディウス山脈だよ」

『山脈ね――って、こんな場所が心当たりって……どういうことだ?』

「ここはね、ネリーたちが生まれた場所なんだ……」

ネリーが歩きながら俺の質問に答えてくれる。


『生まれたって……どうやって?』

「ネリー、知らないよ」

『……七不思議として登録しておこう』

そんな他愛ない話をしている間も、雨の激しさは増し、バケツをひっくり返したような雨が降り続けている。



この強さでは視界はおろか、声すらもまともに聞こえないだろう。



しかし、ネリーは気にした感じは無く、シアーの名前を叫び続ける。















――俺は思う――











――そこまで、そこまで思っているのに……なんで、こんなことになったのだろうか?――



















 更に一時間が経った……雨は無情にも降り続けている。

つまり、ネリーはこの雨の中で2時間以上も探している計算になる。

『……なあ、たぶんここには居ないと思うだ』

「シアー! シアーー!!」

『聞けよ!!!』

「……っ!」


怒りを含んだ声にネリーが立ち止まる。


『ここには居ないんだ。もう戻ってるかもしれない……』

『それに、お前ももう限界だ! 解ってるんだろう!!』





「……でも、もしここで怪我をしていたら? 
      何かの事故で動けなくなってて……助けを求めてたらどうするんだよう!!」


声が震えていて、枯れたような声で反論するネリーを見て初めて気がついた。
















『お前……泣いてるのか?』

……雨のせいで気がつかなかったが、確かにネリーは泣いていた。





「ネリーの所為だ……シアーが居なくなったのも……ネリーの所為なんだよ……」


それは、生意気で、活発で、悩みなんて無いと思わせる少女が見せる……初めての涙だった。


今にも挫けそうな、弱々しい姿だった。














『当たり前だ。こんな事態になったのは明らかにお前の所為だろう』








でも、俺は慰めることなんてしない。


下手な同情は逆に相手を傷つける……それを知っているから……

















『なあ、なんでシアーをもうちょっと見てあげなかったんだ?』


「……それは――」





ネリーが理由を言う前に、俺は言葉を紡ぐ。




『なんてな……そんなありきたりな事は聞かないから安心しろ』




「え?」


『お前は反省してるんだろ? 謝りたくて探してるんだろ?』


「……うん」


『じゃあ、まず戻って休め。お前が倒れたら――!?』








 言い終える前に、俺はある者を確認した。

……感じる……3時の方向、距離は約10m……間違いない。








『――朗報だ。シアーが右手方向に居る』

「! シアー!?」

「……!?」

反応が無くなった……どうやら逃げたようだ。



「待って、待ってよシアー!!」

土砂降りの雨の中、山脈を走り続ける。



















 そして、シアーを崖下まで追い詰めた。

「来ないで……」

顔は蒼白で、唇は紫に変色している……それはネリーも同じこと。


「シアー、帰ろうよ……」

「嫌だよ……ネリーは、ネリーはシアーのことが嫌いなんでしょ!!」

シアーの感情が爆発する……今までの鬱憤を吐き出すようにネリーにぶつける。


「そんなこと無い!! そんなことあるはず無い!!」

「嘘! だって、ネリーはシアーよりアオの方がいいんでしょ!」


「違う!! アオもシアーも同じくらい大切だよ!」

「じゃあ、なんで……なんでシアーだけを仲間はずれにしたのさ!?」

「……それは……それは……」

















――気のせいならいいが、さっきから石ころが崖上からコロコロと落ちてきている気がする――



いや、気のせいじゃない……その証拠に石が落ちる感覚がどんどん狭まっていく……



昔……どっかのTVで土砂崩れの前兆として、そんな現象が起こると聞いたことがある。

早く兄弟ケンカ……いや、姉妹ケンカを止めさせなくては……

『おい、下手したら崖が崩れる。無理やりでもいいから場所を変え――』

















言い終える前に、頭上から大きな音と、大人一人の大きさを持つ岩が複数落ちてくるのを感知した。

















落下地点はシアーの頭上……





「……! シアー!!」

「……え?」

ネリーがシアーに飛びつく。

次の瞬間、轟音とともに浮遊感……そして落下した。
















































 どうやら、岩が落ちた衝撃で地面が崩れ、地下に落下したらしい。

落ちた高さは5mほど……


『全員……無事、だな……』

ネリーに背負われているから直撃を覚悟していたが、幸いな事に俺への直撃は無かった。

ネリーのガキは気を失っている……

シアーのガキは、離れたところに居た……どうやら脚が挟まっているようだ。







『――って……おい、冗談だろう?』

無事だと思っていたネリーのガキに変化が現れる。



青い髪は徐々に、後頭部を中心に紅に染まっていく……







頭に直撃したのか? あの岩を??





『ネリー、起きろ!! 寝てる場合じゃないんだぞ!!』



――だが、起きる気配は無い……



「ネリー? ……ネリー!?」

シアーのガキも異常を察知したのだろう。

しかし、岩が挟まっていては動くことも出来ない。







何も出来ない事実の所為で苛立ちが爆発する。



『なんでお前等は神剣を持ってきて無いんだよ!!』





そう、こいつ等の神剣の気配はここには無い……

すなわち、身体能力の上昇効果は薄く、今は人とあまり変わらない。





このまま時が過ぎればネリーは手遅れになってしまう。









何か方法は無いのか……考えろ、考えるんだ!

















――っと、そこで俺は違和感を覚えた。

















……初めてこの世界の講座を受けたとき……ヒミカの姉ちゃんは何と言っていた??

















――人間と違うのは、『身体能力が格段に高く』、戦闘の駒として使われ続けているの――

















神剣の効果について、今までの講座で触れたことは絶対に無い……


なのに、それなのに……いつの間の、永遠神剣に身体能力を上昇させる効果があると知った??

















――思い出せ……この違和感は今が初めてじゃない!

















…………そう、あれは確か……ネリーのガキが俺の中に入り込んできた時もそうだった。

















――俺は雫、お前に川の中にぶち込まれそうになった『永遠神剣』・雫だ!――

















永遠神剣……確かに俺は、自分のことを『永遠神剣』と言っていた……

『えいえんしんけん』という言葉を『永遠真剣』と認識していたはずだが、いつの間にか『永遠神剣』と認識を変えている。





『真剣』と『神剣』……言葉は同じだが、秘められた意味はまったくの別物だ。

















……どういうことだ? いつから刷り変わった?





それ以前に、この知識は……一体どこから仕入れたんだ?


























「お願い……返事をしてよ、ネリーー!!」

シアーの叫びに、俺は現実に戻された。


『!! ……今は、それどころじゃないよな』

俺の事を考えるのは後だ、今はそれよりも重大な問題に直面している。


――でも、どうする?

俺は動けないし、唯一俺の声が聞こえるネリーは気絶……アオはこの場に居ない。

シアーも脚が挟まれて身動きが取れない……それ以前にショックが大きくて混乱している。


『なにも出来ねえじゃねえか!!』

考えろ、考えるんだ。方法を……この状況を打開する方法を!!








………………………………








……………………








…………

















――無駄だろ――



































――第一、考え付いたとしても動けないんじゃ、どうしようもないし――



































――この場で俺の声が届く奴は居ない――





















































絶望の雨が激しさを増す中で……俺は諦めた。

















出来ない事は、出来ない……








俺は、諦めは早いほうなんだ。








こうなったからには傍観者を決め込もう。



































「ネリー!! ネリー! ネリー、ネリー……」

シアーが壊れたようにネリーの名前を叫び続ける。




















どうにかしたい……そんな気持ちは無いわけではない……


むしろ、どうにかしたい気持ちが強すぎる。


だが、それと比例して絶望に満たされていく。






































「ごめんなさい、ごめんなさい……」

シアーが泣きながら謝っている。





















――だって、仕方が無いじゃないか。俺に出来ることは、何も無いんだから……



































「ぅ、うう……」

シアーは泣いている……自分を呪うように泣いている。




















出来の悪い映画を見てるようだ。

















本当に……本当に、出来の悪すぎる映画だ。



































この物語を作った監督を殺したいくらい胸糞が悪くなる。



































「私が……私が死ねばよかったんだ……私が……」



































そんなシアーの呟きを聞いて、俺はキレた――

















『……この、このクソガキ! いい加減にしろよ!!』



届くはずも無い声……でも、そんなことは関係なく俺は叫ぶ。











『何のためにネリーのガキンチョがお前を探したと思ってるんだ!!』



でも、こいつ等のために叫んでいるのではない。



俺が耐えられないから叫んでいる……それだけ。











『お前が怪我してないか心配で、雨の中でずぶ濡れになりながら必死に探してたんだぞ!!』



体があったのなら、窓ガラスを揺らすほどの声だろうと思う。



それほどまでに、俺の心は憎悪に染まっていた。











『お前に謝りたいから、とうに限界を超えてる状態で探してたんだぞ!!』



憎悪の対象は青ガキ共ではなく自分自身……











『それにお前もお前だ!! なに寝てるんだよ! 妹にこんな思いさせるために探してたんじゃ無いんだろう!?』



何も出来ない癖に、偉そうなこと言っている自分が……



諦めている癖に、綺麗な言葉を並べている自分が……











――殺したいほど憎かった。















「シアーが死ねば……シアーが死ねば……」



『いい加減に、その言葉を止めろおおぉぉ!!』







































俺の言葉は誰にも届かない……



































成す術が無い……二人を救う術が無い……



































それが現実……変えようも無いほど冷たい現実だった。



































……………………………………だが――



































『随分と我が洞窟で騒いでいるな、人間……』



































――幸運の女神は確かに存在した。

















『!? 誰だ?』

俺の範囲には何も感じられない。






――否!! 巨大な何かがこちらに近づいている。









 全貌を確認できたとき、そいつはシアーの目の前に立っていた。

『……り、りゅうぅ!?』








青の鱗で覆われた巨体、神々しい翼、揺ぎ無い意思を持つ瞳……






そして、強大すぎる力が嫌になるくらい認識できた。






それと同時に恐怖を覚える……






いや、こんな存在を目の前にして怯えない人間なんて……きっと存在しない。













「! ひっ……」

『…………』

龍は、めんどくさそうにシアーの枷を動かした。


「――え?」

枷が外れ、シアーは自由を手に入れる。



『こうでもしないと、騒がしくて寝ていられぬからな』

まるで、照れ隠しのように答える龍……


『さっさとそいつ等を連れてこの洞窟から立去るがいい……』

「は、はい!」

シアーは脚を怪我しているというのに、こちらに走ってきて、ネリーを背負って出口に走り出す。













だが、途中で振り返ってこう答えるのだ。













「守り龍様……あの……その、ありがとうございます」













『さっさと行け……』













そして走り出す。









































『――汝等にマナの導きがあらんことを……』









































龍は何かを呟いたようだが、俺には聞こえなかった。













洞窟から出たあとの空は、雨が止んだがまだ曇っている。




まるで、俺達の心を写しているように――































あとがき

 シアー編終了ですが、どちらかと言うとネリシア編というのがピッタリかもしれない。

今回はシリアス風味、つーか、ダーク風に書いてみました。

 独自設定で、ネリシアはサードガラハムの洞窟の真上付近で生まれた設定です。

シアー編のはずですが、どっちかっていうとネリーっぽい……つうか、サードガラハムだろうという意見はスルーします。
だって、PC版でもPS2版でも出番少ないんだもん。ネリーのあとに続くしか印象が無いんだもん。

――何より困るのは『自分の意見』を言わないんだもん!!(涙or泣き言)

 一応、感情が爆発したときの予想を脳内で補完して出してみましたがどうだしょう?
これはシアーじゃ無いやい!! と思われない風に頑張って書いてみたのですが……
なにか不満があれば掲示板に書き込んでくれると嬉しいです。

 今回の反省点は3つ
一つは、雫のキレた時のセリフと心情がクサすぎかな? と思うところ。

一つはシアーを仲間はずれにした理由があまり思いつかなかったこと。
人を仲間はずれにしたり苛めとなる原因は
『気に入らないから』とか『なんとなく』など、そんな些細な理由が殆どだと私が思うからです。

ネリーの場合は『なんとなく』に属します。
シアーを『気に入らない』と思うはずがありません。
『気がついてたら、こんな事になっていた』というのが本当の理由です。


そして、最大の反省点は……アオの出番少ねえよ! っということ。
つーか、冒頭でネリーと遊びに行った……くらいしか登場してませんよ。
今回、アホな会話は有りませんでした。楽しみにしてた皆さんごめんなさい。



そして、やっぱりほのぼの系が一番癒されると悟ってしまった私。



後日談は、次の話の冒頭で簡単に紹介します。


あと、余談ですがメインヒロイン達は日常編にちょくちょく書いて、大戦時に本格的に書く予定です。
3ヶ月の間、アオと遭遇しない……っていうのは流石に無いだろうから。


ちなみに、日常編で佳織と悠人は出しません。
出したら物語のプロットを大幅変更しなければいけないので……















 長いあとがきを見てくれた人に雫の設定情報の一部を公開します。

アオが持つ本来の永遠神剣『■■』の魂は雫の魂を除々に侵食していきます。
低位の神剣は自我が無いので、神剣の情報と欲求という形で今後も干渉させます。
でも、神剣魔法は雫の魂では理解不能という形で扱う事が出来ません。
雫が乗っ取る前の名はまだ秘密ということで♪




はたして、ここまで読んでくれる読者はいるのだろうか?
もし読んでくれたら、今後とも長い目で見守ってください。



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