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永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―


永遠神剣になっちゃった



Chapter 2  スピリットの日常

第1節 『摩訶不思議世界』



 






 アオはぐっすりと寝ている。

よだれを垂らしながら、周りを問答無用で和ませる顔をしながら寝ている。

微笑ましい光景だ。







 その反対の席で、不貞腐れながら不器用な字を書いているガキが居る。

まあ、恨めしそうにアオを見ているのはご愛嬌だが……











 今回の講師はセリアの姉ちゃんである。

というか、今は補習の時間である。

面子はネリーのガキンチョだけ……

いつもなら、オルファのガキも受けているのだが、今はラースに遠征しているため授業は無い。

アオはその隣でよだれを垂らしながら眠っている。

まあ、アオが補習にならない理由としては、真面目に授業を聞いている俺の存在が大きいだろう。







――だって、俺が答えを教えているからな!











 最近のアオは、午前は座学、午後の実戦訓練が無くなって、暇を持て余している。

ここ数日は、授業が終わってから即行で寝ることが多い。







アオの最近の状況として、ネリーとオルファとの仲が悪い。

まあ、補習している隣で爆睡すれば一目瞭然だ。俺だって嫌だもん。

シアーは、ネリーとべったりだから当然ネリー派である。















最近、アオは孤立しつつある。

でも、どうにかしたいとは思わない。









それがアイツの人生。間違いは自分で気がつくしかないのだ。







俺に出来ることは、あいつが助けを求めたら、助言をし、暖かく見守ることだけだ。























そんなことを考えている俺は、ネリ―の悪巧みに気づかなかった。























 どうやら、補習が終わったようだ。

セリアの姉ちゃんは疲れたようにリビングを出て、残るはアオとネリーのガキだけ……


「へっへっへ……」

無気味な笑いを浮かべながら寝てるアオに近づくネリーのガキンチョ……

視線はアオではなく、椅子に置いてある俺を見ていた。

ネリーのガキはアオを起こさないよう、こっそりと俺を持ち出しリビングから出た。











自室に戻ったネリーは俺を見て満足げに笑った。

「成功、成功〜、何処に隠そうかな〜」


ガキが考えそうなことだった。

俺を隠してアオを困らせる魂胆だろう。

けど、アオと常時会話できるから意味が無い…


「川の中に投げ込もうかな〜」

『ちょっとマテやこら!!』

かわぁ? この状態でも気温の変化は感じ取れるんだぞ!! 凍死しちゃうぞ!!


「でも、さすがにそれは可哀想だよね」

『そうだ、そうだ! 俺が可哀想だろう!?』


考えること数分、ネリーの考えは纏まった。


























「やっぱり、川に投げ込もう!」

『なんで〜〜!?』


2階の窓から身を乗り出し、飛び降りるネリー。


 ハイロゥを展開し、大空へ文字通り羽ばたく――――

























――――はずだった。


























ハイロゥは、己が契約した神剣を持ってこそ現れる。





いま彼女が持っているのは『静寂』ではなく『雫』








 ネリーは失態に気づいたが、時は既に遅い……


受身も取れぬまま、彼女は地面に叩きつけられた……




























俺も、地面に叩きつけられたときに背景が変わった。

























 背景は、大学時代でよく使っていた喫煙所だった。


「なんで喫煙所?」

タバコがあれば嬉しい限りだが、生憎今は持っていない。


ためしにポケットを確かめると――――あった。


BOX型のCABIN……中にはちゃんと数本のタバコと100円ライターもあった。

「あ、ありがてぇ〜〜」

実を言うと、禁断症状が発動する寸前でした。


 タバコに火をつける。


食道から胃に煙が染み渡る……

「くぁ〜〜、うめぇ〜〜〜」


タバコとは、こんなにうまいものだったのか……







「……ぅぁ……」


「あん?」

 聞き覚えのある声が廊下から聞こえる。


「アオか?」


喫煙所のドアを開けると――――

























「……だれ!?」


「なんでこんな所にいるんだよ!?」

























信じたくないが、目の前に居たのはアオではなくネリーのガキだった。

























 この世界に訪れたのはアオだけだった。

それは契約者だから訪れれるんだろうな……という仮説を撃ち砕いた。


 警戒してこちらを見ているネリーのガキに煙を吹きかける。

「げほっ、げほっ……なにするんだよう!!」


「それはこっちのセリフだ! おまえはどれほど罪深い行為に走ったか御判りか?」

ずずいっとネリーの顔に俺の顔を近づける。


「な、なにが?」

「お前は、俺を川の中に落とそうとほざいてたよな?」

「言ってないよ! それにあんた誰?」



「よくぞ聞いてくれた」

俺は胸を張ってこう答えるのだ。





「俺は雫、お前に川の中にぶち込まれそうになった永遠神剣・雫だ!」





効果音がババーンと聞こえそうな勢いで親指で自分を示す。



そのまま沈黙が訪れる。







親指を自分に示したまま一分……その沈黙の中で、俺は後悔していた。



 まず、自己紹介だ。

『川に落とされそうになった』って、今更ながら格好悪いって事に気がついてしまった。



 そしてポーズ、指を自分に示した事だ。

少しの間なら格好良いかもしれないが、一分もこの状態だと辛いものがある。



 これ以上リアクションが無い状態が続くと、俺が恥ずかしさに耐えれそうに無いので

恥を忍んで話し掛けようとした瞬間、ネリーのガキにリアクションが有った。



「……え、だって……永遠神剣って……」

「そう、此処は永遠神剣・雫の世界。お前は、何らかの拍子で此処に迷い込んだんだろ?」

内心ホッとしながら現状を教えてやる。


「ここ? 何処?」

「だーかーらー、俺の中だって。そして、お前は俺の中に迷い込んだ子羊だ」

「こひつじ??」

……羊も知らないのか、このガキは?


「これだから無知なガキは……それより、言わなきゃいけないことがあるんじゃねえの?」

「は?」

「悪いことをしたらどうするか……教えられてないのか?」



「えっと、その……」



























「ご、ごめんなさい……」


「よろしい」

その返事に満足した俺は、改めて喫煙所の窓の外を見る。


 そこには地面は存在せず、大宇宙が広がっている。あまつさえ銀河系まで見える。

ガラスを割って確かめようと思ったが、酸素が無くなったらやばいので実行はしなかった。

蛍光灯がちゃんと灯っているので暗くは無い。


 ネリーのガキは蛍光灯をじっと見つめている。

まあ、あの世界じゃ蛍光灯というものは存在しないから仕方が無いといえば仕方が無い。


「あのさ、ここってハイペリアなの?」

興奮した様子でこちらに話し掛ける。

短くなったタバコを消して、次のタバコに火をつける。


「はいぺりあ??」

「知らないの? 人間が死んだら行く世界で、エトランジェ様もそこから訪れるんだって」

「エトランジェ様ね、そうだな……確かにハイペリアの建物の一つだと言えるかもな」

「じゃあ、ここがハイペリアなんだ!!」


喜びを全身で表現するように飛び跳ねるネリーのガキ……

ここまで喜ばれると悪い気はしない……調子に乗った俺はある提案を展示した。



























「なんなら、他のところも案内してやろうか?」

























ネリーのガキンチョの反応は、語る必要はないだろう。























 摩訶不思議な空間だった。

大学の玄関を出ると、図書館の裏口……

図書館の正面玄関を出ると、病院の非常口……



もはや迷路といっても過言ではないような気がしてきた。





「変な世界だね、ハイペリアって……」

「……言うな」



本当はこんなファンタジックな場所じゃ無いやい!





病院の正面玄関を出たら、前の映画館に着いた。



 カタカタと映写機が回る音の中で俺はネリーに問い掛ける。



「そういえばお前さ……人が困っているところを見て楽しむタイプ?」

「そんなわけないじゃん」

「じゃあ、イジメは止めたほうがいい。その相手に自殺なんてされた日には後悔の連続だぜ?」

「もしかして……」



「言っとくが、俺じゃなくて別の奴だぞ。自業自得だけど、さすがに死んだ奴よりそいつが哀れに見えたな」



そして、今は対人恐怖症……見た目より裏腹に責任感が人一倍強い奴だったからな……

虐められた奴の逃避か復讐だったか……どうかは知らないが、イジメの結果は悲しい結末しか迎えない。



「だからな、人を困らせる事したって何もならない。気に入らないことがあったら堂々と言え」

「……うん」

「わかったならいい。ちょうどお迎えも居るみたいだし」

中央の座席に居る侵入者を見つめながら俺は答える。



その侵入者もこちらに気がついたようだ。





「あれ? なんでネリーちゃんがここにいるの?」

「アオこそなんでここに居るの?」

「俺に言わせれば、お前らこそなんでここに居るんだろうな?」



 その後、俺の記憶の映写を見ながらネリーとアオは仲良くなっていく。

場面は師匠に弓術を教えてもらっているところだ。



俺はその隣で懐かしさを噛み締めながらタバコを吹かし、青ガキ共の質問に答えながら己の過去を見つめていた。



























「あれ? アオ!?」

アオの体が透けていく……どうやら目覚めの時のようだ……



「お前も自分の体を見てみろ」

「え? おわ!?」

ネリーの体もまた現在進行形で透けていく。

「じゃあな、ガキンチョ共」



終焉のブザーが鳴り響き、辺りが明るくなる。



どうやら俺もお目覚めのようだ。



地面が歪み、俺を飲み込む。

そして、意識はブラックアウトした。





























 場所は、庭……ちょうどネリーのガキが落下した地点である。

ネリーのガキは「いたた……」と言いながら体を起こす。

2階から落ちても骨折もしていないとは……丈夫な奴……



「う、夢?」

ネリーは頭をさすりながら下敷きになった俺を持ち上げる。



初日は鞘が無かったんだが、

それでは危ないとヒミカの姉ちゃんが鞘を城に要請した所、皮製の鞘が昨日届いていたのでネリーに切り傷は無い。

コイツの悪巧みがあと一日早かったら大惨事になっていただろう。



「えっと、確か……」

――と、そこでコイツが何をしようとして落下したのかを思い出した。


『川に捨てるのは勘弁してくれ!!』

「え!?――雫??」



ネリーのガキは驚いた顔をして俺のほうを向く。

『――聞こえるのか?』

たぶん、俺も身体があったら驚いた顔をしていたに違いない。



「うん、聞こえる……」

『なんでさ?』

「知らないよ……」

『うーむ、原因は解るとして原理が解らん』





「ねー、なに話してるの?」

二人して考えてると、アオが1階のリビングの窓からひょっこりと顔を出していた。


『アホな子には関係のない話だ』

「アホな子じゃないもん! アオだもん!!」



プクっと頬を膨らませているアオにネリーのガキが気まずそうにアオに近づく。

「アオ……えっと、その……」

「どしたの? ネリーちゃん?」

「ごめんね、色々……」


アオは窓から飛び出して、庭に着地。アオもネリーに近づいていく。


「何で謝るの? ネリーちゃんは悪い事したの?」

「うん、アオに悪い事したんだ。だから謝る……そして、仲直りしよ♪」







ネリーから手が差し伸べられる。







アオは何のことか解らないがニコニコしながらこう答えるのだ。







「うん、仲直り、仲直り♪」







二人は優しいそよ風に吹かれ、笑いながら握手をした。















俺にとってはどうでもいいことだが――

――解った事は2つだけ……











今後、ネリーのガキが補習に縁が無くなったことと――





2階からこちらを観察してるアダルト4人組みは盗み見が大好きだということだ。











つーか、あいつ等は何時から見てたんだよ!?












あとがき



ネリー編、終了でございます。
なぜネリーが雫世界に迷い込んだのか? ご都合主義バンザイということで。

気づいた人もいるかと思いますが、ニムたんとファーレーンはまだ居ません。

独自設定でラキオス王国は作戦執行部(仮)から
長期に渡って訓練させたスピは何処まで強くなるかというデータを取っている最中で、
しばらく出番はありません。

でも、悠人と面会前までには出すのでご安心を!


補足ですが、雫世界に彷徨っていた時間を現実に直すと約10秒。(時間経過はご都合主義)

アダルト組みが2階の部屋で講義のロールを決めていたところ、
大きな音が庭から聞こえ、様子を見たところネリーとアオの会話を目にしたというストーリーでございます。

決して盗み見してたわけではありませんからあしからず。

ちなみに、雫世界訪問者はこれ以上増やすつもりはありません。(というか、ネタが思いつかない)

残りのターゲットは8名!

かなり長くなりそうですが、そこはドンマイ♪



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