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永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―


永遠神剣になっちゃった



Chapter 1  異世界

第1節 『忘却の彼方……』



 






 この夢を見てから既に……半日は経っているだろう……

だから、いいかげん認めろ……これは夢じゃないって……。


その証拠となるか解らないが、眠気はない。

ただ、空腹感だけが残されている。

『……腹、減ったな……』

そもそも、昨日なんか食ったっけ?



 昨日食べた晩飯から朝飯まで思い出して、ふと……俺は重要なことに気づいた。

――そもそも何で俺は、こんな目に会ってんだ?――


思い返そうとした瞬間、体の中に感じる違和感を発見する。

『……なんだ?』















 何者かが体に侵入している……















そんな結論に達したとき、意識が断線した――――















「――!?」

ラジオのノイズみたいな音が聞こえた後……視界が回復したのに驚いた。


「!!――動く……?」

体もまた、正常に動いていた。


自分の体を見て確かめる。

うん、俺だ。刀じゃなくて人。……透けているけど……



 顔を上げると、コンクリートの壁で囲まれた大きな映画館だった。


映写機が回されており、映写機の先には馬鹿でかいモノクロの映像が映っている。

その動画の内容は、間違いなく昨日の出来事だった。


「なんで、昨日の……!?」

っと、後ろに気配を感じて振り向くとアオが居た。


「よう、アオ……何してんだ?」

「雫??」

「ああ、俺の体見るの初めてなんだよな」

服は着てる。GジャンとGパンという地味な服装だけど……

でも、シャツはアメリカ屋で買った高級物だぞ! 3年位前の産物だが……



「雫……ここ、何処?」

「映画館だろうな……とにかく座ろうぜ」

部屋の中央のイスへ移動して座る。アオも隣に来たが、戸惑っている。


「雫……どうやって座るの?」

「イス倒せば良いだろうが!」

折りたたんでいるイスを倒してやると、アオが座る。


「ふわふわ……」

「そうかい」


 俺は、画面に目線をやる。

音は出ない……ただ、映像が流れるだけ……

映像は、誰かの視点で放映され居ている。



音の出ない映像なんてつまらないが、アオは、魔法を見てるように見とれていた。



場面は、神木神社の裏……画面の様子から、夕方だろう。

「雫、このおじいちゃんは?」

「俺の……親戚にあたる人だ」


 名は鹿島 信三、俺に弓術を教えてくれた師匠でもある。

その昔は、名を轟かせていた退魔師だったそうだが、今は引退、神木が管理している神社でおみくじや破魔矢など売っている。


 爺さんと別れて、しばらく森の中を歩いていると、大型の霊が地面から湧き出てきた。

「雫!! あれは?」

「ありゃ、自縛霊だ……つーか、だんだん思い出してきた……」

「?? じばくれい?」

「黙って見てろ」


 普通、霊というのは夜になって目視できる存在である。

まだ明るい内に姿が確認できるということは、それほどの無念を背負った存在だ。


 画面に弓が現れ、矢を絞って照準を合わせているシーンだ。

矢を放つ……だが、全く効いてない。

それを見越して、悪霊が津波のように襲い掛かる。


「ひっ!!」


確かに、初めて映画というモノを見たのなら、この反応は当然だろう。

映像が目線の視点だから、本当に襲い掛かってくるように錯覚させる。

画面に写る映像は、横っ飛びをしたようで、何とか回避に成功したようだ。


そして、再び自縛霊に照準を合わせる。





だが、今度は弓矢じゃない……

























――――――『銃』だ。














――俺の愛銃『50AE・デザートイーグル』――













スライドが作動して薬莢が排出される。

霊は、一撃でボロボロになり、もがき苦しんでいた。






――それも当然……

装填されている銀製の弾頭は古今東西のあらゆる魔除やオマジナイを詰め込んだ、俺特製の弾頭。

実体を持たない存在に対して、絶大なる効果を発揮する――











トドメを刺そうとし、銃口を霊の中核……人で例えると心臓に照準を合わせたとき――





――悪霊が破裂した。














そこで、初めて見覚えの有る服装の男が見えた……














受身も取らずに倒れる姿が遠くなって、画面が白くなる――――



















ブツン……と、画面が暗くなった……










「雫……いまのは?」


「あれは、俺の過去の映像だろ……ぅ!?」
















そう言いながら、アオの方を見ると……














アオの体が現在進行形で透けていく――――














「雫?? どうし――」
















言葉を喋り終える前に、アオは完全に消えた――――
























「アオ??」


終焉のブザーの音と広く寂しい映画館の中に一人、取り残される。



ブザーが鳴り終え、周囲が段々明るくなると、映画館の地面がグニャリと捻れ始めた。



「お、おわぁぁぁああああ!!!」



捻りに飲み込まれて、身動きが取れなくなり……顔まで飲み込まれたとき――








再びノイズのような音と共に意識が断線した――































 意識が戻ったら再び刀になっていた。
























アオは、可愛らしい寝息を立てながら眠っている。


あの映画館はなんだったのか? それを知る術はまだ無い……




判ったことは、1つ……
















――――――これは夢ではない――――――

















つまりは、そういうことだ……


『幽体離脱……すか』

 あの自縛霊の悪あがきで、俺は吹き飛ばされて……何らかの現象に巻き込まれて、気づいたらここにいたんだ。

うん、つまり現実……夢じゃなかった。



 つまり、俺はロリ好きじゃなく、胸張ってノーマルと言い切れる。


うん、決して現実逃避じゃないぞ。うん。








「うみゅ??」

 アオが起きたようだ……ウミュってなんやねん?


「おはよう……しずく……」

髪が跳ね上がって、まるで某漫画の超サ○ヤ人を連想させる寝癖だ……


『すげぇ寝癖だな……つーか、まだ夜じゃないか』

「ふえ? 外明るいよ?」

『マジ!?』

周囲を確かめてみると、もう活動している人も居る。


もう、朝なの??


見えないのが、こんなに不便とは思わなかった。
光は確認できない。解るのは様子だけ。


「なんか、変な夢見た……」

『どんな?』

「雫と一緒に変なところで――」

『知ってる。』

間髪居れずに、答える。


「?? なんで?」

『さあ? つーか、寝癖直せよ』

「む〜」

不安定な足取りで、ドアに進む。

ドアの取っ手をつかむと思いきや、ゴンっと頭から乾いた音が響いた。














部屋に沈黙が訪れる。















「―― zzz……」


『寝るな〜〜〜!!』

「う、うぃ……」

ドアを開き、とぼとぼと歩いていく……








 残される俺……








やる事が無い……いや、出来ない。

このまま忘れ去られてしまうオチなのだろうか?


『お〜〜〜い、誰か〜〜〜〜!!』

嫌な予感に狩られ、自分の存在をアピールするために大声を上げてみる。





………………





…………





……











 一時間後、口の周りに飯の食べカスを付けたアオが戻ってきた。






――――――――とりあえず、苛めた。

























 場所は、この建物のリビング……

その中、目の前に昨日出会った赤髪のショートカットの姉ちゃん……ヒミカだったけ?

その人が教師のように立っていた。


 周りには、アオより少し年上と感じるガキ共

赤い髪のツインテール、青のポニーに、その隣に同じ色をしたショートの気の弱そうなガキ

黒い髪をしたツインテールも一匹……


ちなみに、アオはストレートのロングヘアー


 この構成は一体……授業でもやんのか?


「じゃあ、昨日のおさらいと、社会常識について教えるわよ」

どうやら、講座らしい。

正直、ありがたい。俺は、この世界のことは何一つ知らんのだ。


「始めに、昨日のおさらい……昨日の話題は覚えてる? ネリー」

ネリーと呼ばれたポニーのガキは、「げっ!?」っと非常に判りやすい態度を示した。


その横で、気の弱そうなガキが耳打ちで教えている。

「スピリットのこと!!」

「そうね、次からはシアーに教えてもらわずにちゃんと勉強すること」

「だって、ハリオンの授業って眠くなるんだもん!」

ハリオン??

「たしかに、あの間延びした声で授業をやれば眠たくはなるわね」

ああ、あのメイドの姉ちゃんか……

「まあ、それはともかく……」

コホンっと咳をして、話を再開する。


「私達スピリットは、戦うことだけの存在なの」

「人に使役され、道具として扱われる」


ちょっと待った……なんだ、このヘビーな授業内容は??


『アオ、質問しろ!!』

「へ?」

『スピリットって何だ!?』

「えっと、はい……」

自信なさげに、アオは手を上げる。


「……何?」

「すぴりっとって、何?」

ヒミカがアオに視線を合わせる


「だから、今言ったように……」

『人間とスピリットの違いって何だ!!』

「にんげんと、すぴりっとの違い……」



「スピリットは永遠神剣を持つ者。その特徴は髪や体の色で分類されるわ。
 人間と違うのは、身体能力が格段に高く、戦闘の駒として使われ続けているの」


『じゃあ、なんで人間に使役されてるんだ? 自然に考えれば人間が使役されるはずなのに』

「えっと、何で人間にシエキされてるの??」

ヒミカがちょっと驚いた顔をしている。


「使役って、よくそんな言葉……じゃなくて、どういう意味??」

「えっと……」


『スピリットの方が強いのに!』
「えっと、すぴりっとの方が強いのに……」

『なんで人間が使役されて無いの!!』
「なんで人間が、シエキされて無いの?」


ヒミカは深く考えてる。

「そうね……私も解らないけど……私達は人間を殺せないから、かな?」

『同族は殺せるのか!?』
「どうぞくは、殺せるの?」


「そう、私達は同族を殺すためだけの存在……それだけよ」


 変だ、どう考えても変だ。

同族を殺すためだけの存在……その時点で種族として破綻している。


「これでいい?」

『今のところはな……』

「うん、ありがとうヒミカお姉ちゃん」


「じゃあ、続きを――」

「はいはい、は〜い!!」

赤のツインテールのガキが元気よく手を上げる。


「なに、オルファ?」

「昨日、エトランジェさんが現れたって噂本当!?」

オルファと呼ばれたガキは、全く関係の無い質問を繰り出した。


「オルファ、授業と関係ないでしょ……それに、第1詰所に住んでる貴方が一番よく知ってるんじゃない?」

「だってオルファ……ラースの護衛任務で、ずっと戻ってないし」


「えとらんじぇ??」

アオの問いに、黒いツインテールのガキが答えてくれた。


「エトランジェって言うのはですね、異世界から訪問された勇者様のことなんですよ」

『なに〜〜!?』

――ゆ、勇者様だとぅ!?



隣から、ネリーとかいうガキがその話に便乗する。

「私達よりも、ず〜っと強くて、上位神剣を使って世界を救う勇者様なんだって」

「憧れちゃいますよね〜〜」

「そのえとらんじぇっていう人も、すぴりっとなの?」

アオの問いに、ネリーが答える。

「そんな訳無いじゃん、エトランジェ様は人間だよ」

『そうなのか?』

じゃあ、俺も……世界を救う勇者に……


「はい、静かに!!」

不機嫌そうにヒミカの姉ちゃんが注意すると、あっという間に騒ぎが収まった。


「アオ、エトランジェって言うのはね、異世界から召喚され上位永遠神剣を操る人間のことよ」

「情報は定かではないけど、こっちに配属されるんならその内情報が回ってくるでしょ」

『ふふ、勇者か……いいな、その響き……』


「じゃあ、このラキオス内のスピリットの決まりごとを教えるわよ」

妄想に刈られた俺は、授業内容なんて殆ど覚えていなかった。













「じゃあ、今日の授業はこれで終わり。午後からは訓練だから遅刻しないように」

はーい、とガキ共は返事をし、各々席を立つ。


「アオ、一緒にヨフアル食べに行こ!」

「よふある??」

「知らないの〜〜、とっても美味しいんだよ!!」


「オルファも行く!!」

「シアーも」

「わ、私も行きます!」

ガキンチョ共は、賑やかに部屋を出て行く……




























……俺を置いて……




























『――って、待て〜〜〜〜い!!』

ましゃか、また置いてけぼりでぇすか!?


『あ〜〜どちくしょう! そんなに俺を仲間はずれにして嬉しいか!!』

体さえ……自由気ままに動ける体さえ手に入れば……


なんでよりによって日本刀なんだ……せめて動物とか、そういうのでもいいじゃないか。






























――――――その後、俺を見つけたヒミカの姉ちゃんがアオの部屋まで運んでくれた。








戻ってきたアオに罵声を浴びせた事は言うまでも無いだろう。









あとがき


この話の追加執筆はデザートイーグルの補足だけですね(汗)
あと、用語辞典のデザートイーグルも、弾頭の作成方法を追加





<今話で出てきた用語>

50AE デザート・イーグル(50口径 でざーと・いーぐる)
              :イスラエルのIMI社が製造したオートマチック・ピストル(vol:mkXIX)
              :50口径、装弾数7+1、重量約2kgと通販したのをそのまま使用。
              : 弾丸には聖水と呼ばれる時神家秘伝の水に、銀製の弾頭を放り込み、1年以上漬けている物を使っている。
              :鉄が錆びるのには、『水分と酸素の両方の存在が必要』という論文から、ずっと沸騰させたままで漬けている。
              :その後に、雫の調べ上げた様々なオマジナイや魔除の加護を施し、完成♪
              : その弾頭の効果は予想以上というか、信じられないほどの効果を上げた。
              :一流の退魔師でも苦戦するような魔物や悪霊に撃ったところ、一撃の名の下に粉砕したのだ。
              :どうやって弾を精製したか問い詰められたが、あえて黙秘した。
              :以降、切り札『破魔弾』としてピンチになった時に活用している

破魔弓・矢(はまゆみ・や):神社などに飾ってある弓矢ではなく、時神一族代々伝わる特殊な製法で作られた弓矢。
             :矢尻は、石を加工して作り、聖水と呼ばれる時神家秘伝の水に一年間漬けた物を使用している。
             :霊や魔に対して、絶対的な効果を発揮する。





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