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永遠のアセリア
―The 『Human』 of Eternity Sword―


永遠神剣になっちゃった・外伝



Case1 『雫が金欠となった理由――』



 






 短大を卒業し、退魔師として本格的に活動することになる前日……俺はじいちゃんに呼び出されていた。

退魔師のライセンスを貰うだけ……ただ、それだけなのに――なぜか心が重くなる。







 深呼吸して、扉をノックする。

「雫か? 入れ――」

じいちゃんが居ることを確認して、扉を開ける。 20坪近い面積を持つ畳部屋……その真中にじいちゃんは座っていた――















 この部屋を見て、いつも思う……



――10坪近い洋風の家に、こんな馬鹿でかい畳部屋を増築する必要ねえだろうと――







話によると、土地ごと隣の空き家を買い取って……その家を解体した挙句、増築したらしい……







――その費用は……数千万近くの金が動いたと言う――



















 何考えてるのか、誰にも理解できない爺さんである事は間違いない……

まあ、慣れたからいいけど……



















「じいちゃん……呼び出した理由って、ライセンスを渡すだけだよな?」


「……いいから、座れ――」

「あ、ああ……」


……言われたとおり、じいちゃんの正面に座る――















「……このライセンスを渡す条件として、『退魔一族・時神』の名を使うこと……
 そして、『退魔グループ』のネットワークを使うことを禁ずる」

「――はぁ!?」

なんでまた、前日にそんな重大な発言を?



「ちょっと待て……家の名前はともかく、退魔グループのネットワークが使えないってなると……仕事あんのか?」







「……おまえ、わしがどれだけ苦労したと思ってる?」

――知らねえよ……



「若い頃は……それはもう、地獄の日々だった――」

「戦時中で、貧富の差が激しいあの時……全然仕事は無く、食べるものさえない――」

「今は退魔集団4位という権力を獲得して……それなりに裕福になったが、それではいかんと思うのだ」

「楽に溺れ、苦しみを忘れる――それだと『時神』が廃れるのは目に見えている――」

「――だから、お前にも……わしと同じような苦労を知ってもらいたいのじゃ」



















――じいちゃん……



















「俺はあんたの性格を嫌になるほど知っている――」

――そう……とっても嫌になるほど――
























「――聖人君主みたいな前フリはどうでもいいから、本心を言え!」

「……お前が楽してると、正直ムカツクから♪」
























――痛い沈黙が訪れる――
























「…………………………」

「…………………………」



ちょっと待って、このジジイ……いまなんつった?


ジジイの癖にムカツク?

……何故、若者系の言葉を!?













――いや、突っ込む場所はそこじゃない!

つーか、混乱してるのか俺は!?











――楽してるとムカツクから?


……そんな、どうでもいい理由で?


……一族の名を使っちゃダメだって!?








「なあ、クソジジイ……親父が退魔師になることドタキャンした理由って、まさか――」

「うむ、あの時は……ストレート過ぎたからのぉ……」



「――今でも十分ストレート過ぎるわ!!」

「馬鹿者、そのために前フリを入れただろうが!! 一昨日から徹夜で考えたんだぞ!」

「意味無いんだよ! それに無駄な所に時間費やすなよ、この馬鹿ジジイ!!」

「祖父に向かって、ブァカァジジィだとう!? 訂正しろ!!」

「どう訂正すりゃあいいんだよ!?」
























「――プリチーおじいちゃんと♪」









「…………………………」


――こ、殺してぇ……





つーか、こんな奴と同じ血が流れてると思うと頭が痛くなる――
























親父と母さんが、この家飛び出していった理由……今なら解る――









つーか、もしかして……俺の親は、俺をこのクソジジイの生贄として置いて行ったのですか?









ご先祖様……今の時神家は腐ってます! このジジイの所為で!!
















「――じ、冗談じゃねえよ!! 俺だってドタキャンしてくれるわ!!」


「まったく、親子揃ってドタキャンとは……親も親なら子も子じゃの……」

「俺の親父は、アンタの子供だと……知ってて言ってるのか?」



「…………………………」

「…………………………」



再び、長く痛い沈黙が訪れる――

















先に沈黙を破ったのは爺さんからだった――
























「――てへっ♪」











「てへっ♪ ――じゃあねえよ!! つーか、アンタいま何歳だよ!?」

「心は何時でも、5歳の若さを保っとる♪」

「いい加減成長してくれ……頼むから……」





 あの世に逝った御婆ちゃん……いつもいつも謎に思うんです。

アナタはこのクソジジイと万年ラブラブでしたが……このジジイの何処が好きで結婚したのか教えてください。



――それが七不思議として、他の一族の人に語られているのが……とっても嫌なんです――











「第一、ドタキャンしたとして……その頭でどうやって生きていくと?」

「…………っ!?」

グサリと……言葉の槍が心を貫いた――



「退魔師として活動する理由で、就職活動や勉学をしないで遊びまくってた馬鹿は誰だったっけ♪」

「――誰、だったっけ……お、覚えてねえな♪」

――こうなること知ってたら、真面目に勉強してたのに……



「今は不況だからのぉ……そんな奴を受け入れる会社があるとは思えんのぉ♪」

「……ぅ、ぐぅ……」

このジジイ……始めっから解ってやがったな……

勝利を確信した顔で、俺のライセンスを団扇代わりにして仰いでやがるし……



「この条件で活動するなら、それなりに『資金援助』をしてやってもいいんだけどな〜♪」

「退魔一族、時神家を廃れさせないためにも……お爺様の苦労を味わいたい所存であります!!」

「――うむ、よく言った……それでこそ『時神家』の後継者じゃ!」





――もはや残された道は一つしか無い……決して資金援助という言葉に釣られた訳じゃないぞ……





……きっと……























出された条件は3つ……





一つ、『退魔一族・時神』の名を使ってはならない――


一つ、10年間『時神家』に戻ってはならない――


一つ、退魔グループのネットワークを使ってはならない――





――以上の条件で退魔師として活動すること……


――この内、どれかを破ったら……恐ろしい事が起こるらしい……











……内容を聞いても、教えてくれないのがとっても恐ろしい――


何年も一緒に住んでいた爺さんの性格……すでに承知済みだ……

しかし、今日の爆弾発言より更に認識を深めた――









この、はっちゃけ爺さんのことだ……俺の想像を絶する何かをする事は、間違いなく解る――

――下手したら……俺が『死にたい』と思えるような恐ろしいことに違いない――























――クソジジイをいずれ殺そうと、心に誓い……俺は泣きながらライセンスを受け取った――























 既に……時神家から600kmぐらい離れた県に、10年間の軍資金が入った通帳と俺の退魔道具一式を送ったと言う。





手際が良すぎるというか、なんというか……



やりきれない気持ちで俺はその場所に向かって、駅前の荷物預かり所で『荷物』を受け取った――









その場で俺の退魔道具一式を確認し、通帳を手に取る――




10年間の軍資金――

これで、しばらくの間は大丈夫……だと思いたい。





あのクソジジイのことだから、50万ぐらいか……下手したら30万――いや、10万かもしれない……























不安に刈られながら、通帳を開く――――























現在残高………………………………























…………………1,000…………………























「………一つ、二つ……みっつ?」



――なんだ、このふざけた数字は?















哀しいことに、50回ぐらい読み直しても間違いは無い……千円だけだ。















「ふっふっふっふっふ…………」



――0が3つだと? あの爺さん……俺を笑い殺すつもりか!?







俺が持ってきたサイフの中には1万とんで23円がある――


すなわち、全財産が11023円……これじゃあ、ホテルにも泊まれねえ……








「――殺す、殺してやる……絶対に殺してやるぞ! あのクソジジイィがああぁぁ!!!」


俺は、駅のど真ん中で力の限り泣き叫んだ――


























――20歳の……不幸な金欠退魔師が誕生した瞬間だった――


あとがき

感想掲示板で話題になった雫の金欠の訳――
その理由は、おじいちゃんの我侭から……でした♪

長い間、ホームレス生活が続いたのは言うまでもありません♪


補足として、雫は短大卒です。
――成績は……下から数えた方が早い。

就職活動や勉学をそっちのけで遊んでいたツケが回ったと言うことです♪


オリキャラ増えると処理しきれなくなるので、おじいちゃんの名前は伏せました。
――ええ、決して名前を考えるのがメンドウという理由ではございません……たぶん……


外伝ネタを提供してくれた極夜さん、Kurikenさんに感謝です♪



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