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このSSはアセリアED直後のお話です。 ネタばれにご注意ください。
このお話はギャグです。シリアスな展開は無いと思ってください。
多少キャラの人格がぶち壊れているところがあります。
そういったところを笑って済ませられる寛容な方だけこのSSをお読みください。
あと、文章表現がほんの少し際どい所もあります。
そういったものが苦手な人もご注意ください。
更に、有り得ない設定のオリジナルキャラが出ています。
「そんなことありえるかーっ」とちゃぶ台返しをしてしまうような方はご遠慮ください。


「いないな…時深のヤツ」
「……うん」

 指定された門の場所、大木の下までやってきた悠人一家だったが、そこにいるはずの時深はいなかった。

「ひょっとしてまだ来てないのか?」
「……私達が遅いから探しに行ったのかもしれない」
「ああ、有り得るな。どっちにしろ、俺たちはここで待ってた方がよさそうだな」
「うん」
「ねえねえお父さん。それじゃ私が探しに行ってこようか?」

 お許しが出ればすぐにでも走り出しそうなユーフィ。
 実年齢は一世紀近くとも心はわんぱく少女です。
 そんなユーフィを悠人お父さんはやんわり押しとどめる。

「そんな事いってもユーフィは時深がどんな格好か知らないだろ?
 まあ、目立つ格好だから見れば一発でわかると思うけどな」
「ふーん。どんな格好なの?」
「そうだな…。俺が生まれた世界では『巫女装束』と呼ばれてる衣装を着ててな。
 上がほとんど白で、下は長いスカートみたいな感じなんだ。
 といっても俺たちが着てる服とは感じがかなり違ってて……」
「ユート。その説明だとわかりにくい」
「うう、すまん」
「う〜〜ん………トキミさんって、変な人なの?」

 悠人の足りない説明のため、ユーフィに時深の間違ったイメージが植えつけられようとしていた。

「時深おばさん、な。
 確かに珍しい格好だけど、それは民族衣装みたいなもので変ってわけじゃない。
 実際あいつに似合ってて綺麗だしな」
「………ユート」

 ぎゅぅぅぅぅ、とおもむろにアセリアが悠人の尻をつねる。

「あ痛たたたた!なにするんだアセリア!?」
「…なんでもない」

 びっしりと棘の生えた『なんでもない』を呟いて、ぷいと顔をそむけるアセリア。
 そんなアセリアの機嫌を治す為、悠人はしばらく尽力するのだった。




責任の行方



「お〜いアセリア、いい加減機嫌治せって」
「……別に怒ってない」
「いや、思いっきり怒ってるじゃんか」
「怒ってない」

 夫の言葉にもけんもほろろなアセリア夫人。
 長い月日はあのアセリアに嫉妬という感情もしっかり学ばせたようです。

(………あ、そうか。アセリア、嫉妬してたのか)

 どうやら悠人もアセリアがご機嫌斜めの原因に気づいたようです。
 月日はアセリアだけでなく悠人も成長させていたのですねぇ。
 そうとわかった悠人、アセリアに微笑みかけると、後ろからぎゅっと抱きしめた。

「…ユート?」
「確かに時深は美人だ。だけど―――」

 抱きしめる腕に力を込めて、悠人はアセリアの耳元で囁く。

「俺が世界で一番綺麗だと思ってるのは、アセリア。お前だから」

 悠人の甘い言葉に、アセリアの白い頬にほんのり朱が差す。
 アセリアも悠人の手をそっと握り、花のように微笑んで、

「………うん」

 とだけ、たくさんの愛を乗せて呟いた。
 なんというか、何百年経とうが青春真っ盛りな二人である。
 おーいお二人さん、子供の前ですよー?

「ねぇねぇお父さん、お母さん!私も抱っこして〜」

 ほらね。
 愛娘の声に二人ははっと我に帰り、そそくさと離れた。
 ゴホンと咳払いをひとつして、悠人はユーフィを抱き上げた。

「うーん、ユーフィも大きくなったな〜。ちょっと前まであんなにちっちゃかったのに」
「うんっ!もっともっと大きくなって、お母さんみたいに綺麗になるの!
 それで私もお父さんにぎゅってしてもらうんだ!!」
「もう、ユーフィったら」

 家族三人の団欒が続く。
 このままの時間がずっと続けば良い、そんな思いを悠人が抱いた、その時。


がさっ


 背後から木々を掻き分ける音がした。

「時深か?」

 悠人が振り向いて声をかける。
 がさがさ、という音と共に“何か”が姿を現した。

「「!?」」
「?」

 “それ”を見て、悠人とアセリアは驚愕し、ユーフィはただ疑問符を浮かべる。
 現れた何かとは、一言で言うと、



ミニサイズの時深だった。



 というより、時深をユーフィと同じくらいまで幼くしたようないでたちである。
 服装は時深と同じ巫女装束。といってもサイズはちゃんと子供用である。(だぼだぼサイズが良いと思った人はいませんよね?)
 顔立ちも時深に似ているが、髪はつんつんとした硬めの髪を肩より伸ばしてある。
 瞳や表情、雰囲気は時深にあまり似ておらず、外見にそぐわない落ち着いた雰囲気を感じさせた。
 悠人一家が硬直している間に、時深と“誰か”に似た少女は静かな声で話しかけてきた。

「聖賢者ユウト様と永遠のアセリア様ですね?」

 それは事実なのでとりあえず二人は頷く。
 すると少女は深々とお辞儀をし、自己紹介をした。

「初めまして。お父様、アセリア小母様。
 『時詠』のトキミの娘、『時輪』のユミです。」

 ―――と。

 その瞬間。
 あらゆる『門』を越えて全ての世界にサイレントフィールドがかけられた。
 硬直というより時間そのものが止まってしまったように動かない悠人とアセリア。
 ユミと名乗った少女は、そんな二人をしばらく見つめていたが、ふと二人の傍に自分と同じくらいの年恰好の少女がいることに気づいた。

「……あなたは?」
「え?えぇっと………」

 いまだよく事情を把握できていないユーフィ。
 父と母に目を向けても、さっきから彫像のように動かないので説明してもらうこともできない。
 とりあえずユーフィは目の前の少女のように自己紹介をすることにした。

「初めまして!ユーフォリアです!それでこの子が『悠久』です!これからよろしくお願いします!!」

 と、ユーフィは元気よく自分と『悠久』の自己紹介をして、ぺこっとお辞儀する。
 いつもならここでしっかり自己紹介できたことを褒める悠人とアセリアなのだが、未だ二人はユミの発言の衝撃から抜け出せずにいた。
 一方、ユーフィに挨拶されたユミも目を丸くして硬直していた。

「…じゃあ、お父様と、アセリア小母様の、子供?」
「うん、そうだよ!」
「……そうですか。私はユミです。よろしくお願いします、ユーフォリアさん」
「ユーフィって呼んで、ユミお姉ちゃん!」
「………お姉ちゃん?」
「だってお父さんの子供なんでしょ?じゃあ私のお姉ちゃんだー!」
「…間違ってはいませんが……」
「? 駄目なの?」
「…いえ、構いませんよ、ユーフィ」
「やったぁ!」

 喜びの声とともにがばっとユミに抱きつくユーフィ。
 そんなユーフィにびっくりしたようなユミだったが、すぐに微笑んでユーフィをそっと抱きしめた。
 さて、いい感じになってきた子供たちと正反対に、一触即発の状態になっている二人がいた。
 いわずもがな、さっきまで固まっていた悠人とアセリアである。

「………どういうこと」
「いや、俺にもなにがなんだか……」
「ユートに分からなくてほかの誰に分かる」

 絶対零度よりもなお冷たいと思わせる声でアセリアが問いただす。
 しかも悠人の首筋にしっかり『永遠』を突きつけているというおまけつきだ。
 だらだらと悠人の体中に冷や汗が流れる。
 その汗もたちどころに凍り付いてしまいそうなほど冷たい殺気が悠人へ向けて放たれている。
 なんとか逃げ場は無いか、と思案する悠人だが、下手に動けば一瞬でアセリアに切り捨てられかねない状況だ、迂闊には動けない。

(ええい、いっそテムオリンでもタキオスでも誰でも良いから助けてくれ……)

 そんな有り得ない考えを悠人が浮かべたその時、


がさがさっ


 再び背後から木々を掻き分ける音がした。
 そこから現れたのは、

「ようやく来ましたか、まったく、遅いですよ、悠人さん、アセリア」

 さらに自体をややこしくしそうな戦巫女。時深だった。

「…って、どうしたんですか二人とも? 夫婦喧嘩にしては少し危ないですよ?
 まあ、今日は悠人さんの本妻は私になることが決定して――」

 そこで時深の声がぴた、止まる。
 今日は人がよく静止するなぁ、と現実逃避する悠人だが、それで時間が止まるほど世界は甘くない。
 時深の視線は、仲良く談笑するユミとユーフィに向けて固定されていた。

「ゆ………悠深? その子は、まさか………」
「あ、お母様。 恐らくそのまさかです」

 震える声で聞く時深と裏腹に、ユミは落ち着いた声で母に答える。

「あ、お姉ちゃん!あの人がお姉ちゃんのお母さんのトキミさん?」
「ええ、そうです」
「お、お姉ちゃん?」

 未だ事情を把握しきれずうろたえる時深に、ユーフィはユミの元からてててっと小走りに駆け寄り、元気よく挨拶する。

「初めまして、トキミおばさん!『悠久』のユーフォリアです!
 ユーフィって呼んでください! これからよろしくおねがいします!!」

 先程ユミにしたように自分たちの自己紹介をしてお辞儀をする。
 その挨拶を聞いて、悠人は笑顔の時深のこめかみに血管が浮いたのを見たような気がした。

「………え、えぇ、よろしくお願いね、ユーフィちゃん。
 …それで、ユーフィちゃんは悠人さんとアセリアの子供なの?」
「うん、そうだよ!」
「それで間違いないようです、お母様」
「それで、ユーフィちゃん、私を“おばさん”と呼べって誰かに言われた?」
「うん、お父さんがそう呼べって」
「そういうところはお母様と一緒ですね。いつまでも子供っぽいといいますか」

 ああそういえばあの娘もアセリアのこと“小母様”って言ってたよなー、と悠人が現実逃避している間に話は終わり。
 時深がゆっくりと悠人たちのほうへ振り向いた。
 時深は笑顔だ。どれくらい笑顔かって言うと瞬の狂笑だって爽やかな微笑みに見えるくらいの凄い笑顔だ。
 ちなみに悠人とアセリアはさっきからずっと悠人絶体絶命の状態から変わっていない。
 いや、悠人の汗の流れる量が先程より増えているか。

「アセリア。そろそろ『門』が開く時間なのですが―――」

 す、と『時詠』と『時遡の扇』を取り出し、告げる。

「それまで悠人さんをシメるので、あなたも混ざりませんか?」
「うん」
「ストップ!!ふ、二人とも落ち着いて!!ほら!子供たちが見てるし!!!」
「そうですねぇ、確かにこれから起こることはあまり教育によくないかもしれませんし」
「森の中に行こう」
「そうですね♪」
「お、お願い待って二人ともぉぉーーーー!!」
「ユーフィ、少しだけここで待ってて」
「悠深、ユーフィちゃんと仲良くね? 絶対ついてきちゃだめよ?」

「た、タスケテェェェェーーー!!!」


 ずるずると二人の女神に連行されていくヘタレ。
 二人にやったことはヘタレとは言えないような事のようだが。
 そのとき、二人の娘の脳裏に「どなどなどーなー」というメロディーが響いた気がした。

「お父さん達、どうしたんだろう…?」
「そうですね……、一言で言うなら、修羅場、ということでしょう」
「砂場? お父さん達、砂場に行ったの?」

 ユミはユーフィの無邪気な言葉に少しだけ苦笑すると、草むらに腰を下ろし、母達を待つことにした。
 ユーフィもユミに習って座り込む。
 その後二人は母たちが帰るまでお互いのことを話したりして仲良くなっていったのだった。
 会話をしている間、時折森の奥から地響きと悲鳴らしきものが聞こえてきた気がしたが。




「…とりあえずあの子のことについて説明します」

 悠人様ご一行はいい加減時間が迫っていたのでようやく『門』をくぐり、今は別の世界の適当な宿屋に落ち着いている。ちなみになぜか和室だ。
 三人は三角形を描くように向かい合って座っていた。
 今部屋にいるのは悠人とアセリアと時深の三人。娘二人は隣の部屋で休んでいる。ちなみに悠人はマナの塵に還る寸前で何とか復活した。さすが主人公。
 ユーフィは「お父さんたちと一緒がいい〜」と言っていたが、この場に一緒にいさせるのはやめておくことにした。
 ユミの「今日は私と一緒に眠らない?」という提案で二人は隣の部屋で眠ることにしたのだった。
 さて、これからが修羅場の本番です。

「あの子の名前は悠深ゆみ。悠人さんと私の名前から一文字ずつとって悠深という名前にしました。
 ユーフィちゃんと同じく、成長するエターナルです。
 そして、間違いなく私と悠人さんの子供です」
「それじゃ……やっぱり最初の時の?」
「そんなわけ無いですよ。 …あの後ちゃんと来ましたし」
「…なにが?」

 間抜けなことを言う悠人に4つの絶対零度の視線が突き刺さる。
 それでようやく悠人は時深の言っていることに思い至った。

「あ、ああそうか月のもがげふっ!?」

 言い終わる前に見事に決まるアセリアと時深の粛清。
 鮮やかなコンビネーションに悠人は大地に沈んだ。

(あー、そういえば佳織にも不用意にこんな事言っちまったことがあったっけ…)

 畳の味を味わいながら愚かな自分を回想する聖賢者だった。

「…ユート、浮気?」
「ちがうっ!! 俺は断じてそんなことはしていないっ!!!
 確かに時深にモーションかけられたことはあるけど決して手は出していないっ!!!」

 跳ね起きて叫ぶ悠人。

「そうなんですよねぇ………。
 悠人さんったら私がその後いくら誘ってみても『アセリアに悪いから』ってなかなか乗ってこないんですよねー。
 全く、妬けちゃいます」

 アセリアの言葉に、悠人の真剣な声、拗ねたような時深の声が続く。
 アセリアは自分が知らない間にそんなやり取りがあったのかと少し嬉しそうで、同時に申し訳なさそうだった。

「………ごめん、ユート」
「いいよ、信用されにくい俺にも問題があるんだし」

 とりあえず仲直りする二人。しかしそれで問題が解決したわけではない。

「じゃあどうして?」
「それはもちろん悠人さんが私をいっっぱい愛してくれたからですよ♪」

 ………待てやオイ。

「ってんなわけあるかー!
 さっき乗ってこないって時深も言ってただろ!?」
「ええ、『なかなか』乗ってこないって言いましたよ?」

 さらりと放たれる時深の衝撃告白。
 アセリアはいつでもエタニティーリムーバーを放てるよう『永遠』を手に力をためている。

「ア、アセリア! 俺は無実なんだ〜!!
 そんなことをした記憶なんて露ほども無いんだ〜〜!!!」
「そりゃ悠人さんは覚えてませんよ。
 きっちりタイムシフトで痕跡を消しておきましたから」
「「…………は?」」

 今までの中で間違いなく一番問題な発言に悠人とアセリアは呆然とする。

「気づかれたらアセリアの悠人さんへのガードが固くなっちゃいますから。
 事は水面下で気づかれないように、ですよ♪」
「「……………」」

とりあえず今度は悠人とアセリアが時深に息の合った連撃を決めていた。




「痛たた……いきなり頭を叩くなんてひどいですよ、二人とも」
「トキミが悪い」
「ああ、今回のは時深が悪い。きっぱりと」

 涙目の時深に対してもアセリアと悠人は容赦ない。
 特にアセリアは悠人が寝取られていたということにかなり怒り心頭のご様子。

「人が知らない間に強姦されてたとありゃ怒るっつーの」
「失礼な! ちゃんと合意の上ですよ!?
 悠人さんも私のこと好きだって言って、愛してくれたんですから!!
 しかも悠人さんってばいっつも私のナカに出すんですから………。
 すごく濃いのを」

 時深の赤裸々な言葉に悠人は赤くなったり青くなったり大忙し。

「い、いやそれは俺のあずかり知らぬところで行われたことであって」
「男らしくないですよ悠人さんっ!
 あの時の赤ちゃんができてたら責任を取るという言葉は嘘だったんですか!?」
「………ユート?」
「いやそれは最初にエターナルになるときのことであって―――」
「悠人さん…もう一度、いいえ、何度でも言いますけど……」

 ゆっくりと時深は悠人に迫る。
 しかしそれは威圧的なものではなく、

「私は本当に悠人さんのことが好きなんです」

 潤んだ瞳で見上げるように見つめるもので、

「悠人さんに抱かれたのも、悠深を産んだのも、いい加減な気持ちでしたことじゃありません」

 更に時深の頬は赤く染まっていて、

「あなたを愛しているから…。 あなたとの子供がほしかったから………」

 いつの間にか時深の手は悠人の頬を撫で、悠人の顔にだんだん時深の顔が近づいていき―――

「時――みぎっ!?」

 唇が重なる寸前で悠人の首が90度曲げられた。
 ぐぎりという音がしてとても痛そうだ。
 曲げたのはもちろん、今まで黙っていたアセリアだ。
 そしてそのままアセリアは悠人の唇を奪っていた。

「あーーーっ!!!」
「んぐぐぐっ!?」
「………ン」

 時深の悲鳴が上がる中、アセリアは悠人にキスを続ける。
 やがて唇が離れると、アセリアは悠人の胸にしなだれかかり、潤んだ瞳で悠人を見上げた。

「ユート………愛している」

 それだけ彼女は呟き、悠人の胸に顔をうずめた。

「アセリア………」

 そんなアセリアの行動に悠人はKO寸前。
 アセリアの背中に両手を回して―――

「……悠人さん」

 抱きしめる前に、後ろから時深に抱きしめられた。

「え、えーーと、時深?」

 前後からの挟撃になすすべが無いユート君。
 アセリアの背後に回した腕もそのままに硬直していた。

「………どっち」
「え?」

 アセリアから発せられた言葉に、悠人は目を白黒させた。

「悠人さん……あのときの言葉どおり、責任は取ってもらえるんですよね?」

 時深の言葉に、どちらかを選べと迫っているのだと悠人はようやく気づいた。

「ユート、私?」
「悠人さん、私ですよねっ!?」
「ちょ、ちょちょちょっと待て二人とも―――」
「…さあ!」
「さあさあ!」
「だから―――」
「「さあさあさあさあ!!!!」」

 迫るショッカー二人にたじたじの悠人。 つーかアセリア、キャラ変わってません?
 そんな二人に押されっぱなしの悠人、さてどうするのか………。

「…………分かった」

 おもむろに悠人が立ち上がる。
 しかしその瞳は先程までの彼のものとは違い、迷いをすべて振り切った目をしていた。
 彼がひゅんと腕を振るうと、その手にはいつの間にか『聖賢』が握られていて―――。

「永遠神剣『聖賢』よ、目の前のエターナルたちの動きを封じてくれ!!」


ビキィィィィィン!!!


「………ッ!?」
「なっ!?」

 いきなりの攻撃に二人とも対処することができなかった。
 それに、忘れ去られていそうな設定だが下位の神剣はより上位の神剣には逆らえない。
 アセリアと時深は指一本動かせなくなり、畳の上に倒れこんでしまった。

「ユ……ト………?」
「い、いったい何を………?」

 突然の暴挙に二人はなすすべが無い。
 そんな二人に悠人は静かな瞳で告げる―――。

「………確かに、俺が優柔不断だったからこうなっちまったんだよな………。
 …こうなったら―――」

 動けない二人をよそに悠人は畳に素早く布団を敷く。
 その速さはひょっとしたらかの『漆黒の翼』も凌駕していたかもしれない。
 そして気合一発、おとこが吼える―――!!



「二人まとめて責任とってやるぅぅーーーっ!!!」

「「きゃぁぁぁ〜〜〜〜!?!?」」




ぴろぴろぴろりん♪
 クラスがあがりました。 『キングオブヘタレ』→『びーすとおぶふたまた』』




「………わ」

 悠人がクラスチェンジする少し前から、部屋の外でそっとふすまの隙間から3人の様子を伺う者が居た。

「…? お姉ちゃん、どうしたの……?」
「っ!?」

 後ろからの声に飛び上がりそうなほど驚く人影。
 そう、ユーフィのお姉ちゃんこと、悠深である。
 悠深は3人がどうなったのか気になって途中から覗いていたのであるが、いつの間にか自分にとって未知の世界が繰り広げられ、固まってしまっていたのである。
 ユーフィはどうやら悠深が居なくなったことに気づき、探しに来たらしい。

「お父さん達、まだ起きてるの………?」
「ダメユーフィだめ見ちゃ駄目っ!!」

 自分よりずっと無垢な少女があんな光景を見たらどうなってしまうのか。
 あわててユーフィを止めようとする悠深だが間に合わない。
 ユーフィは親達がしていることを寝ぼけ眼で見つめ―――

「あー、お父さん達、また“せっくす”してるー」
「…………へ?」

 ………今、この娘はなんて言った?

「ゆ、ユゆユユユーフィ、いま、お父様達がしていること、分かるのっ!?」
「うん。“せっくす”って言うんでしょ?
 だいすきな男の人とだいすきな女の人どうしがもっと好きになりあうためにすることなんだって。
 とっても気持ちよくなって、とっても幸せになれるんだって。
 私もお父さんとお母さんが“せっくす”して産まれたんだって」
(………お母様。 お父様とアセリア小母様の情操教育は私達とは比較にならないほど進んでいるようです………)

 自分よりもずっと幼く思えていた子から繰り出されるストレートな言葉に悠深はノックアウト寸前だ。

「全部ゆーくんが教えてくれたんだよ♪」

 あの杖形の永遠真剣とは一度徹底的に話し合おうと心に誓う悠深であった。
「誓いだと…?」違います。お呼びじゃありませんから。

「トキミおばさんもお父さんと“せっくす”できるんだー。 いいな〜」
「…『いいな』?」
「私もお父さんと“せっくす”できないのかなぁ? 私もお父さんのこと大好きなのに」
「……」
「ゆーくんに聞いても『ユーフィは駄目だよ』って言ってばかりなんだぁ」
「………」
「やっぱりお母さんやトキミおばさんみたいにおっきくて綺麗な人にならないとだめなのかなぁ?」
「…………」
「ねぇお姉ちゃん。どうしてだか分かる?」
「……………」
「お姉ちゃん?」
「………………」

 先程から悠深は彫像のように動かない。
 ユーフィの呼びかけにも無反応である。
 と、そうこうしていると―――


ぼしゅぅぅぅ〜〜〜〜っ。


 悠深の顔がレッドスピリットの如く赤くなり、頭から煙を吹いた。
 そして後ろ向きに倒れこんでしまった。

「わ!? お、お姉ちゃんどうしたの!?」

 慌てて床に倒れる前に姉を抱きとめるユーフィ。
 悠深といえば親達のしていることのインパクトの強さとユーフィの爆弾発言の弾幕に耐え切れず、ブレーカーが落ちてしまったようである。
 実はウブなのです、悠深嬢は。
 どうしようか悩んだユーフィだったが、悠久から『“せっくす”しているときのパパたちの邪魔をしてはいけないよ』との言葉を思い出し、とりあえず自分の部屋まで運んで休ませることにしたのだった。
 ちなみに。悠人たちは部屋の外の出来事が全く聞こえないほどのすごいことをしていたので、ユーフィや悠深には終ぞ気づかなかったと言ふ。




 さて、それから悠人たちがどうなったかというと。

「お父さん、つーかまーえたっ!!」
「おっ、やるなユーフィ。 んじゃ最後の悠深を捕まえてみせろ!」
「がんばって、ユーフィ」
「悠深、神剣の力を使っても構いません。なんとしても逃げ切りなさい!」
「はい、お母様」

 皆で鬼ごっこをしていた。

 あれから話し合い(?)の結果、悠人は宣言どおり二人とも責任を取り、娶ることとなった。
 そもそもエターナルに結婚の制度など無い。
 一夫一妻も多夫多妻も当人達次第なのである。
 アセリアはあまり気にしている様子は無い。
 ただ、前より更に積極的に悠人にくっついてくるようになったか。
 時深は元からアセリアが悠人から完全に離れるとは思っていなかったらしく、こうなることもある程度予想していたらしい。
 ただ本妻の座を手に入れられず悔しがっていたようだが。
 ちなみに本妻の座は、次に悠人の子供を授かったほうがなるということで決定している。
 おかげで悠人君は日々干からびそうな生活を送っているそうな。

 子供達は、大人たちの思惑をよそにとても仲良くなっている。
 今まで周囲に同年代の友人はおろか、成長するエターナルも居なかったので、二人は本当の姉妹よりも仲良くなっていた。
 ただ、ユーフィはともかく、今まで離れていた悠人と悠深の間には少し距離がある。
 そこで、家族の親交をもっと深めようと、悠人御一行はいま休暇の真っ最中なのである。

「残り時間15秒だぞー!」
「ユーフィ、もっと速く!」
「お姉ちゃん、待てー!」
「今です悠深、スーパーアマテラス光線を!」
「それをやるのはお母様だけです」

 と、今は童心に帰って鬼ごっこである。
 悠深も口調は相変わらずだが、その顔には微笑が浮かんでいた。
 他にもアセリアは時深に日本の(つまりアセリアにとってはハイペリアの)料理を教わったり、ユーフィは悠深に時深仕込みのあやとりを見せてもらったりしたりと、みな充実した休暇を送っていた。

 そんな中、悠人は幸せを感じつつ、以前アセリア達が思い出していた。

 アセリアは言った。 悠人とユーフィは自分が守ると。

 時深は言った。 ならば悠人と悠深は自分が守ると。

 自分は二人の女神に守られているのだ。ならば―――

(俺はこの光景を―――、すべての世界がこんな光景になれるよう、戦ってみせる。
 そしてアセリア達が言ったように…すべてを守り抜いてみせる!!)

 平和な光景の中で、悠人は誓いを新たにしていた。

「お父さーん! つぎは何して遊ぼうか?」
「ユーフィ、そろそろお昼ご飯の時間ですよ」
「…ん、じゃあご飯にしよう」
「よっしゃ、じゃあ今日は俺が作ろうか!!」
「本当ですか? じゃあ今日は悠人さんにナポリタンをご馳走してもらいましょう♪」

 天国とも呼べるような平和な世界での、エターナルたちの幸せな風景はまだ終わらない。

 あーっ、頼むから代わってくれーヽ(;´Д`)ノ  


終わり?


後書き

 初めましてとこんばんは、4049です。
 いや〜、最初に予定していたよりも悠人と時深とユーフィの性格をぶっ壊してしまいましたねぇ……
 とりあえずこんなものを書いた動機は「ユーフィはたった一人の成長するエターナル…それじゃ友達が居ないじゃないか」というもの。
 その後「よし、悠人に時深への責任を取ってもらおう」との思いつきの連鎖から書きました。書いてしまいました。
 時深、ユーフィファンから刺されることを覚悟しなけりゃなりませんね…。いや、自分も時深さん達の事好きなんですよ?(汗

 今回登場してもらった悠深ちゃん。年齢はユーフィより数年年上ということにしています。
 時深達エターナルとの戦闘を見たこともあり、精神年齢は結構大人。しかしまだ内には容姿相応の幼さも残しています。
 性格に関しては普段は冷静、だけど内面は激しめ、といった感じです。ついでにウブ(笑。
 持っている永遠真剣は第三位『時輪』。薙刀の形状をしています。

 とりあえず刺される前に旅に出ます。(マテ
 この作品を呼んでくれた人にマナの祝福がありますように〜。

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