作者のページに戻る


文章を読む前に

まず、自分の書いたものに目を通して下さるという方に挨拶申し上げます。
目を通してやろうという方がいるだけで嬉しい気持ちになりますね。
キャラクター描写や文章表現に難があると感じられる方もいるかと思いますが
自分の力量不足というのが多分にあると思われるのでそこは勘弁してください。
ちなみにSSの方はPC版のみプレイした状態で書いています。
EXPANSION、PS2版、小説等は未プレイ&未読です。
場面はPC版のレムリアとユートの出会うところで
レムリア視点+自分の妄想という形で書きました。
それでは前置きが長くなりましたがSSの方お付き合いください。





「逢」


ラキオス城の一室、美しい長い髪が印象的な女性が考え事をしている。

ラキオスの王女、レスティーナ殿下その人である。

聡明で国民の信望も厚い彼女が悩んでいることはたった一つ。

ラキオスの名物「ヨフアル」のことであった。

おもえばエトランジェ、「求め」のユートが現れて以来、公務は多忙を極め、

おしのびで町に行く時間すらままならない。

ようやく戦争状態にあったバーンライトを降し一時的な平和を取り戻したラキオス。

レスティーナもささやかながら自分の時間を作ることができた。

久々の休日。

今しかチャンスはない。

今回を逃したら次はいつヨフアルを味わうことができるかわかったものではない。


「私が求めているものを得るためには、今何かをしなくてはならないのでしょうか・・・」


誰にも聞き取れないほどの小さな呟き。

台詞を使う場面が違っている気もするが、まあ気にしないでおこう・・・

レスティーナは出かけるために必要なものを揃えると自室を後にした。





城を抜け出してレスティーナが向かった先は市場。

狙いはもちろんヨフアルである。

焼きたてのヨフアルの香りと絶妙な甘さ、

歩きながらそんなことを考えていると自然と笑みがこぼれ嫌なことも忘れられる。

そんなレスティーナの姿に、その少女がラキオスの王女だと気付くものはいない。

王女としてのレスティーナとおしのびで出かけるレスティーナ。

両者の間にはそれだけのギャップがあった。

市場につくとレスティーナはゆっくりと店を周り始める。

城で育った彼女にとって、町はいつも新鮮で散歩しているだけでも楽しい。

特に市場は様々なものが並んでいて飽きなかった。

それに為政者の立場にあるものにとって、活気ある市場、民衆の無事に暮らす光景は嬉しいものだ。

様々な問題を抱えているラキオスではあるかもしれないがレスティーナはこの国が好きだった。

市場を周り終えると楽しみにしていたヨフアルのお店に向かう。

相変わらず繁盛しているらしく店の前には何人かの列ができている。

焼きあがるヨフアルの香りにレスティーナが鼻をヒクつかせていると・・・


「へぇ〜やっぱり活気があるなぁ。俺達の世界とまったく変わらないや」

「ユートさま、とても楽しそうですね。私もなんだか楽しくなってきます」


どこからか聞こえてくる聞き覚えのある声、

間違いない「求め」のユートと「献身」のエスペリアだ。

二人は楽しそうに買い物に興じている。

ユートの表情は穏やかで城で謁見する時のような硬さは感じられない。

エスペリアもいつもより明るく見える。

そういえば佳織もユートの話をする時は楽しそうな表情を浮かべていた。

いったい、あのエトランジェはどんな人物なのだろう?

ふと湧き上がる好奇心。

普段の彼はどんな表情を見せるのだろうか?

すこし興味をそそられたレスティーナはユートを観察することに決めると

さりげなく様子をうかがい始めた。





視線の先にいる二人。ユートとエスペリアは仲良く買い物を続けている。

普段、スピリットであることに負い目を感じ

さらには自分の事を穢れていると蔑むエスペリア。

彼女は常にある種の暗さのようなものを持っているのだが

今はそれが薄れているように見えた。

やはりこれもあのエトランジェの影響なのだろうか?

それにしても二人の姿は年頃の男女が仲良くしている姿にしか見えない。

ただの買出しといった事務的な雰囲気はなく、

明らかに二人は買い物を楽しんでいるように見受けられる。

自分も立場が許せば誰かとあんなふうに楽しそうに笑いながら町を散歩してみたい。

二人が少し羨ましかった。

ヨフアルの袋を片手にしばらく様子を見ていると


「ユートさまはここで待っていてください。ちょっと時間がかかりますので」

「そっか。じゃ、少しこのへんの店を見てていいかな」

「は、はい。ええと・・・あまり離れないでくださいませ。迷いやすいので」


どうやらユートは一人で市場を散策するらしい。

気付かれないように後を尾行するとなにやら色々な店を物色している。

好奇心に火がついた子供のように夢中で市場の中を歩き回る姿からは

とてもではないが彼がエトランジェだと想像できない。

(なんだか見ていて危なっかしいぞ、ユートくん)

心のままに市場を歩き回りエスペリアから離れて行くユート。

どうやらエスペリアの警告は無駄になりそうだった。





小一時間ほど歩き回って、ようやくユートは歩みを止めた。

路地の壁にもたれかかり不安そうな表情をしている。

やがてあせったような顔つきで歩き始めた。

右往左往する姿から道に迷ったことがうかがえる。

(ふふっ、やっぱりユートくん迷子になっちゃった。)

エトランジェが城下町で迷子、なかなか笑える光景である。

どうやらユートを観察することにして正解だったようだ。

迷子のユートの観察。

我が国の勇者様はなかなか楽しませてくれる。

充実した休日が過ごせそうな気のするレスティーナの頬はちょっぴり緩んでいた。





相変わらずユートは迷い続けている。

人にぶつかりそうになって謝ったり、よそ見していてつまずいたりと見ていて飽きない。

佳織やエスペリアが普段は意外とボーっとしていると話していたことが頭をよぎる。

その批評がたしかなことは今のユートの様子から間違いないように思われた。


「ふんふーん」(そっちは違う道だよ〜っと)

「さっきの道があれだから・・・」

「ふんふふんふーん」(そっちは行き止まり〜っ)

「ええっと」

ドン!!?

「わっ」

「きゃっ」


不意に曲がり角から早足で飛び出してくる影。

かわす間も無く突き飛ばされてしまう。

ドサッ。軽いものが落ちる音がした。


「あいたたたたた・・・」


しりもちをついて頭をさすっていると


「あっ、すいません!」


とぶつかった相手が申し訳なさそうに声をかけてくる。


「もう!気をつけて、って・・・・あ!」

「ああああああっっっ〜〜〜〜!!」


つい、指差して大きな声を上げてしまう。

目の前にいたのは先ほどまで自分が観察していた迷子のユートその人だった。

どうやら行き止まりに突き当たり、急いで引き返してきたらしい。


「うわっ!!な、なんだ!?」


レスティーナの声にあわてるユート。

だがレスティーナ本人もまたパニックに陥っていた。

自分が観察していた相手がぶつかってきたのだから慌てるのは当然であった。

尾行していたことに気付かれていないか?

変装がばれていないか?(髪型と服装を変えただけだけど・・・)

気にしなければならないことはたくさんある。


「あ、あ、ええと・・・。あの、その、えーと、その」

「そ、そうだ!」

「なにをするかぁ〜っ!」


慌てながらようやく怒ることを思い出す。

そう自分は一方的に突き飛ばされた被害者なのだ。

この場合文句の1つも言ってやるのが自然だろう。

幸いユートは尾行されていたことも、レスティーナが変装していることにも気がついていないようだった。


「ええ、と。そう、そうだよ。気をつけて歩きなさいよ・・・」

「鼻がつぶれるかと思ったじゃない」


うずくまったまま鼻を摩ってみせる。


「い、いや。本当にごめ・・・」


ユートがすまなそうな顔をして謝りかけた瞬間。

レスティーナは目に映った惨劇に叫び声を上げた。


「って、ああああああああっっっっっっ!!!!」

「うわっ!こんどはなんだ!?」

「あぁぁぁぁ〜〜!!わたしのヨフアルぅ!」

「ヨフアル?あ」


地面にはさっき買ったヨフアルが散乱している。

公務に追われ、忙しい毎日を送る中でようやく時間をみつけ城を抜け出して買うことの出来たヨフアル。

そのヨフアル達は今、地面で砂にまみれ無残な姿をさらしている。


「ヨフアルが、ヨフアルが・・・おおぉぉぉ」

「ええ・・・と、その」


ユートが呆然とヨフアルを見つめ続けるレスティーナに声をかけようとするがまるで耳に届かない。


「うう〜〜。せっかくのヨフアルが・・・一度も味わうことなく」

「こんなにも・・・こんなにも美味しそうだったのにぃ〜」


切なげにヨフアルを眺めて独り言を呟くレスティーナ。

ユートは罰が悪そうな顔をしてその様子を眺めている。


「美味しいのに。絶対に美味しいのに」

「ご、ごめん」


ユートの謝罪の声に反応してレスティーナは我に返った。

自分だけがヨフアルを台無しにされて被害をこうむるなんて割に合わない。

ちょっと困らせてやろう。

目の前のユートをキッと睨みつける。


「弁償っ、ヨフアル買ってきて!」

「え、ええっ!?」


レスティーナの要求にたじろぐユート。

ラキオスではスピリットやエトランジェに金銭を支給していない。

もちろんレスティーナもそれを知った上で意地悪しているのである。

(どうするのかなぁ〜、ユートくん。困った顔しても許してあげないよ。)

心の中で意地悪く微笑む。


「わ、悪い。俺、お金持ってないんだ。え、ええと、その、この国には来たばかりだから。ほら南のほうから」


ユートは苦しそうに言い訳する。

おまけに南のほうから来たなどと嘘までついている。

(どこから来たのかなんて聞いてないんだから余計な嘘はつかなければいいのに・・・。)

いらない嘘をついてしまったがために、かえって見苦しい。


「・・・ふ−ん」

「嘘でしょ」


容赦のない言葉にビクリと体を震わせ動揺するユート。

わかりやすい反応に思わず苦笑してしまいそうになる。

あまりにも情けないエトランジェだ。


「そ、そんなことはない!断じてない。金はない。本当に」


相当慌てたのか、とにかくお金のないことを強調する。

まぁ、お金がないのは本当だろう。


「・・・・」


しばらくの間、まったく信じてないという目で見つめてやる。

こうすることが相手に不気味な気分を味あわせることを彼女は知っていた。

さらに上から下まで値踏みするように見てやる。

ユートは不安そうな顔をしてこちらを伺っていた。

(さてと、このくらいで勘弁してあげよう)


「確かに、お金は持ってなさそうだけどね」

「それじゃ買ってきて!すぐそこのお店の」

「はい!お金」


有無を言わさずコイン2枚を受け取らせる。


「わたし、待ってるからね。それで買えるだけね」

「あ、うん・・・すぐそこだな。わかった、いってきます。」

「うむ。いくがよい」

「承知いたしました」


ヨフアルを落してしまったことに罪の意識を感じていたのかユートは素直にレスティーナに従った。

なんとか自分のできる範囲で責任をとろうとしていたのかもしれない。

佳織やエスペリアが語っていたユートのやさしさというのを少し知ることができた気がした。





しばらく待ってもユートは来ない。

おそらく店が混んでいるのだろう。

(戻ってきた時、遅いって文句言ったらユートくん、どんな顔するかなぁ)

レスティーナの頭の中はこれからどうしてやろうかという考えでいっぱいだった。

ユートは相手にしているのがレスティーナだと気付いてはいない。

自分は相手のことを知っていて相手は自分の事を知らないのだ。

有利な展開になっていることに優越感を覚える。

(どうせなら色々聞き出してやろう)

今なら様々なことに対するユートの本心が聞けそうな気がした。





ようやくユートが戻ってくる。

「おそーいっ!」

思いきり不機嫌そうな顔を作って出迎えてやると、

ユートはもう勘弁してくれと言った表情。


「遅いってなぁ。焼きたてもってこいって言うから、わざわざ」


ユートはなにやらいいわけをはじめようとする。

まったく男らしくない態度。

こういうときには男らしく謝るほうが潔い。


「遅いものは遅いの!」

「今日はこれだけが楽しみだったんだから」


いいわけなどに耳を貸さず相手に文句をたたきつける。

ついでに睨みつけてやるとユートは最後までいいわけを続けられず黙ってしまう。


「はい、ヨフアル3つとおつり」

「それじゃ、俺はちょっと急ぐから」


レスティーナの文句が途切れたところを見計らって

ヨフアルとおつりを渡し終えるとさっさと離れていこうとするユート。

まるでこれ以上面倒事に付き合っていたくないといった態度にもみえる。

いや、実際ようやく面倒事から逃れることができたと安心しているに違いない。

(そうは問屋が卸さないんだから!)


「ちょっと待ったっ」

「ぐえっ」


相手が背を向けた拍子に襟をつかんで容赦なく思いっきり引っ張ってやる。

相手はエトランジェなのだ。

多少のダメージは気にしなくて大丈夫だろう。


「ちょっとちょっと。わたしのヨフアルを犠牲にしてこれだけで逃げるつもり?」

「ち、ち、ち。いくらなんでも、そりゃないんじゃないかなぁ〜」

「いや、俺は人を探しているからさ。こんなところで寄り道している暇はないんだ」

「だーめ。逃がさないもん。はい、これ」


悪戯っぽく笑って、焼きたてのヨフアルを1つ差し出す。

いくらエトランジェでもこの焼きたてのヨフアルにはかなわないだろう。


「くれるのか?」


案の定、期待に目を輝かせてこちらを見つめ返してくる。

ラキオスのヨフアルは、お城の王女が城を抜け出してまで手に入れようとする傑作なのだ。

エトランジェごときがその甘い香りの誘惑に勝てるはずがない。


「まあね。お駄賃ってやつだよ。あげるんだから付き合ってよね」

「この路地を抜けたところに、お気に入りの場所があるんだ」

「そこに行って食べよ?」


なんとなく楽しいような気恥ずかしいような気分。

同年代の人間と身分という制約のない状態で話すことなど今までなかった。

ましてや異性、それも自分から誘うなどはじめての経験である。

緊張しながらも笑顔でユートの手を握り行こうと促す。


「あ、え、ちょっと待てってばっ」

「いいの、いいの!どうせ暇なんでしょ?」

「別に暇ってわけじゃないんだけど・・・」

「まあでも、ちょっとぐらいなら大丈夫だと思うけど・・・・」

「そうそうっ。だから行こっ。走って走ってっ!」

「お、おい・・・・」


強引に手を引っ張り走り出す。

ユートも観念したのかレスティーナと一緒に走り始める。

どうやらエスペリアとの合流はあきらめたらしい。


「どこまで行くんだよ!えーと・・・」

「もうすぐだよ!私は・・・・」

「私の名前はレムリア!レムリアだよ!!」


空は透きとおるように青く、心地よい風が吹き抜ける。

なぜか高鳴る鼓動、つないだ手にいっそう力を込める。





今日は始まりの日

ここから綴られるのは悲しい物語

これから起こること

それは運命と呼ばれるものだろうか?

偶然の導くまま、繰り返し訪れる邂逅

辛く悲しくどうしようもない出来事の連続

その先にあるのは大きな悲しみ

それは誰にも止めることができない事

だが、この時の二人がそれを知る由もない

ただ、そんな流れのなかでも起こる素敵な出来事

それがあるからこそ

これから先も素敵な日がやってくると信じることができる。

行き着く先にやりきれない思いが待っているとは知らずに信じてしまう。

今は運命を信じたい・・・

そう願うだけであった。


END





あとがき

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

「ふんふーん」

「ふんふふんふーん」

と鼻歌交じりのレムリア登場シーンで、
なんか後をつけられているような気がしたのがこのSSのきっかけです。
そんな風に思ったのは自分だけでしょうか?

本編のヒロインでただ一人普通の人間であるレスティーナは
エターナル化しないだけにエンディングも悲しい気がしました。
キャラクター的には人前では毅然として態度を崩さず、
影で涙を流しているという一種の典型的なヒロインですね。
目的のためにはどんな酷い事でも我慢できるレスティーナの冷酷さ(強さ)と
王女&女王としては出来ない事をするためのレムリアの弱さが彼女の魅力。
レスティーナとしては弱音が吐けないのでレムリアの姿でそれをしているんだと感じました。

以上を持ってあとがきとさせていただきます。

作者のページに戻る